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絵本「わたしはしらない」のこと

今年の10月に「わたしはしらない」の新装版が出版されました。
そしてこの度アニメーターの窪田祥さんが、「わたしはしらない」の一場面を15秒のアニメーションにしてくださいました。そんな嬉しい機会にかこつけて、少し絵本について書こうと思います。
(そもそも言葉で説明できないことを絵本にしているので、それを後から言葉で説明することの野暮さを自覚はしていますが、どうか大目に見てください。)

動画では窓の向こうの影が動きます。


「わたしはしらない」という言葉は、それ単体で聞くととても無責任な感じがします。不安を覚える、という人もいます。
今のこの世界情勢や、いろんな情報が絶え間なく入ってくる環境、そして知ろうと思えば画面の向こうからたくさんのことを知れる状態、そういう中では「しらない」と言うことは更に怖いことのような気がします。


でも、家から駅までに歩く道のことを、少し想像してみてください。
いつも歩いている道、通り過ぎるお店、すれ違う人、そこで本当に「知っていること」って、どれくらいあるのかな。

すれ違う人々の顔、路地裏に住んでいる生き物、
笑顔で店先に立っている店員さんの普段の生活、
そこに建っている建物や道が経てきた時間、
思い返せばわたしはなんにも知りません。

ある一面から見れば、まるで世界をまるごと分かったような気持ちになる瞬間があるかもしれない。
でも実は、世界にはいろいろな階層や次元や視点があって、私は、私以外の目線から見える世界のことを知らない。
そして知らないと知っているからこそ、想像することを始められると思うのです。

自分が小さな世界にギュッと閉じ込められているような気がして辛くなってしまった時、すぐ目の前にまだ知らないことが無限にあるという事実は、むしろ心を慰めてくれるように私は思います。

窓の向こうの誰かの暮らしを、私は知らない。
知らないからこそ、その悲しみや喜びを想像する。
そういうことを、絵本にしたつもりです。

「わたしはしらない」の初版(手製本版)が、えほんやるすばんばんするかいしゃから刊行されたのは5年前。ここ最近は手製本版はほぼ品切れ状態がしばらく続いていて寂しく思っていました。この度この本が再度刊行され、手に入りやすい状態になったことをとてもとても嬉しく思っています。

新装版として発行を決めてくださった果林社さん、そして発行元として手を挙げてくださったウレシカ、本と音楽 紙片、よもぎBOOKS、えほんやるすばんばんするかいしゃ、4つのお店のみなさん、本当にありがとうございます。「ありがとうございます」という一言では現しきれません。
入荷してくださったお店の方々や、手に取ってくださったお客さんにも、心からの愛と感謝を。…って、ちょっと重いでしょうか。

そして叶うなら、私のことを知らない誰かがふらっと立ち寄った書店で、この本なんだろう?って手にとってもらえたら嬉しいなと思います。

新装版「わたしはしらない」

「わたしはしらない」
作・絵 まつむらまいこ
2023年10月1日 新装版発行(初版|2018年 9月)
発行元:ウレシカ/本と音楽 紙片/よもぎBOOKS/ えほんやるすばんばんするかいしゃ
発売元:果林社
印刷所:加藤文明社
製本:積信堂
プリンティングディレクター:平井彰
https://www.ehonyarusuban.com/c-item-detail?ic=A000000015


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