大学デビュー天下獲り物語①

久しぶりです!
何について書こうかと迷ったのですが、今回は3年先輩のニューヨークさんのYouTubeチャンネルで語らせていただいた大学デビューの話しを。

この動画のおかげでネットのレギュラーラジオが決まったり、色々と業界の方に声をかけていただいたりと、ありがたいことになかなか反響がありまして。
どうせならと、より深くこの話しを知っていただこうと、自伝的小説として書かせていただきます。
なぜ、自伝的小説などと回りくどい書き方をしてるのかは、昔のことすぎて記憶が曖昧なところは適当に書かせてもらってるからです。あと登場人物の名前も仮名です。
まあ、フィクションが混ざった、ほとんど自伝と思ってて下さい。

ゴールも決めず思い出しながら書き始めてるので、かなり長くなるかもですが、お暇な方は是非読んで下さい!何編かに分けて書きます!
サポートもしてくれると嬉しいです!

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4月。入学式の会場へと続く坂道を、桜が彩っている。
地元の福岡から車で4時間半。南国、宮崎。
初めてのスーツをぎこちなく身にまとい、僕は不安と期待を胸にその坂道を登っていた。

「宮崎大学」
今日から僕の新しい生活がここで始まる。初めての1人暮らし。初めての大学生活。

入学式の会場は、すでにたくさんのスーツを着た学生達でごった返していた。

田舎の国立大学だ。あまり派手なヤツはいない。ほとんどが黒髪や申し訳ない程度に茶髪にした、まだ垢抜けてない感じの芋臭い子ばかりだ。
その中から僕はできるだけ目立ってるヤツを探した。
赤髪、金髪、ツイストパーマ…
おっ、あいつはなかなかイケメンだな。一緒にいると女子が寄ってくるだろう。
おっ、あいつは身長高いし、スーツの着こなしもオシャレだな。この田舎でもセンスが良いグループになりそうだ。
おっ、あいつはゴツくて強そうだ。スポーツマンかな。とにかく一緒にいると舐められなさそうだ。
とにかくなんとしても、最初のうちに目立っているヤツらと仲良くならなければいけない。
そう、僕は完璧な大学デビューをかまそうとしているのだから。

「見て。あそこにいる子、可愛いくない?」

一緒に同じ大学に来た高校からの同級生が、能天気に話しかけてくる。
村崎タカシ。かなり身長は低いが、明るくて良いヤツだ。申し訳ない程度に茶髪にしている。

村崎は、高校の頃は持ち前の愛嬌でそれなりに目立っていて、人気も多少あった。
体育祭のとき、全校生徒の前で自分の肛門を指差しながら「洞窟発見。」という嘘みたいなギャグをやっても、何故か村崎がやればウケていた。
だが、高校で目立っていたヤツが大学でも目立てるとは限らない。
特にこいつは身長が低い分、初対面はちょっとナメられやすい。
大学生活はスタートダッシュが肝心だ。こいつのペースで進んでいけば、出遅れる可能性がある。
そうすれば僕らは、キラキラした女子達とワイワイやってる1軍のグループを横目に、2人だけで愚痴や文句を言い合いながら過ごす童貞大学生になってしまう。
言い忘れてたが、僕も村崎も童貞だ。高校のときに彼女はいた時期もあったが、キスすらしたことない芋野郎だ。

「女子なんか今いいから。」

思わず本音が出た。これは硬派ぶって出た発言でもなんでもない。
まずは男だ。目立っている男と仲良くなって、大学で1番目立つグループを作らなければ。
完全な1軍のグループとして大学生活を送っていれば女子は、後からついてくる。

「それでは皆さん、決められた席に着席をお願いします。」

アナウンスに促されて、僕らは学部ごとに分けられた自分達の席へ向かった。

僕らは農学部。
宮崎大学は、農学部、教育学部、工学部に分けられており、その中でも農学部が1番偏差値が高い。(別のキャンパスである医学部は除く。)
国立大で、さらにその中では偏差値が高い学部だけあって、農学部にはより派手な感じのヤツがいなかった。勉強ができそうなヤツらばかりだ。
だがその中にも数名、目立っている感じのヤツがいる。
この数名さえ、なんとか仲間に取り入れることができれば、僕はこの学部で1番になれるだろう。

1人、大声で関西弁で喋っているヤツがいた。
身長が高く、スタイルがいい。オシャレなパーマを当てていて顔もイケメンだ。この中では抜群に垢抜けている。一目で童貞じゃないのも分かる。
すでに何人かがそいつを中心に輪を作って話していた。

アナウンスに促されて、みんながそれぞれバラけて着席していく。
そいつが僕の後ろに着席してきた。最初のターゲットはこいつだ。

堂々と。友達を作ることなんか慣れてる感じを出して。最大限にイケてる人生を送ってきた感じで。地元の胡散臭い美容師の人に染めてもらった、角度によっては7色に見えるという派手な髪をなびかせながら。
僕は、ゆっくりと笑顔でそいつの方へ振り返った。

僕の地元、福岡県北九州市はかなり治安の悪いところだった。
よく荒れる成人式とかがテレビで特集されたりしているから知っている人もいるかもしれないが、とにかくガラの悪い人が多く、夜のドン・キホーテ前なんかは本当にヤンキーの巣だった。
少しでも目が合えば敵になるため、ドンキホーテに買い物に行くときは、みんな連行される犯罪者くらい頭を下げて入店していた。
カラオケに行ったときは、シンナーを押し売りに来る人がいるので、必ず部屋の鍵は閉めていた。


僕の通っていた中学校にも勿論ヤンキーはいて、学校のスクールカーストでは上位に君臨していた。
そしてスクールカーストで上位にいるからかもしれないが、田舎ではヤンキーというのはとにかくモテた。
可愛いらしいあの子も、ちょっと大人びたエッチな雰囲気のあの子も、みんなヤンキーと付き合っていた。

僕は中学の頃、好きだった女の子がいた。
海外の血がちょっと入っていたのか、茶色がかった綺麗な瞳の色をしたとても可愛い子だった。

一年生の頃にクラスの席が隣になり、僕らは話すようになった。
僕が漫画の「ワンピース」が面白いと言ったら、彼女も見たいというので、僕は1巻から順に彼女に貸すことになった。
席替えで席が離れても、漫画を貸して返してもらうときだけは彼女と話した。

当時、「ワンピース」は13巻くらいまでしか出ておらず、僕は彼女に全部貸し終わって話す機会がなくなるのが嫌で、月に2、3冊くらいのペースでゆっくり貸していた。
ちょうど持っている全ての巻を貸し終わり、返ってきたぐらいで、クラス替えがあり、僕は彼女と違うクラスになった。
当時は携帯電話なども持ってなくて、そこから話すこともなくなったが、僕はいつも「ワンピース」の最新刊が出ないか心待ちにしていた。

そして、待ちに待った最新刊が出た日、僕はすぐに本屋で購入して、彼女のいる新しいクラスに向かった。
正直、最新刊は自分でも読んでなかった。これを彼女に貸すことだけを考えていた。
そして、漫画と一緒に、僕は彼女にもう一つプレゼントも買っていた。
彼女が好きだと言ってたディズニーのキャラクターのボールペン。
彼女の誕生日が近いことを知ってたからだ。

休み時間、新しいクラスにいる彼女に声をかけて僕は廊下で漫画とボールペンを渡した。
彼女は漫画よりもボールペンをとにかく喜んでくれた。
彼女の新しい友達が「なに、どうしたのー?告白ー?」と横から囃し立ててくると、彼女は顔を真っ赤にして「ちょっと。やめてよ。」と言った。

「ありがとう!めっちゃ嬉しい!」彼女のその一言で、僕の1500円くらいの出費はとても安く感じた。

でもそこから1か月経とうと、2か月経とうと、彼女が僕の元へ漫画を返しに来ることはなかった。
自分から行くのも違う気がして、僕は気長に待つことにした。

そんなある日の休み時間、隣のクラスのヤンキーが教室に遊びに来ていた。
そのヤンキーは僕のクラスのヤンキーと下品な話しをしていた。
女の子とヤっただの、どうのこうの。
超童貞の僕には全く縁のない話しだ。だが、勿論興味はある。
僕は机に突っ伏して寝たフリをしながら聞き耳を立てていた。

「バリ最高やったばい!もう途中からすげー激しくなって!」
「マジで?」
「おう、○○も最初は照れとったけど…」

ビクっとした。僕の好きな子の名前が出たのだ。
一瞬で僕の心臓と世界が止まった。
動機が激しくなる。
いや、違う。あの子のはずがない。あの子はボールペン渡したときに、あんなに喜んでたはずだ。
同じ名前の違う子だ。そうだ、そうに決まっている。
隣のクラスのヤンキーは、何故かそのときの体位を言葉じゃなくて絵で説明しようとしてるみたいだ。
僕は気づかれないように、そっとそいつの方を見た。

そいつは、僕が彼女に渡したはずのボールペンを持っていた。


そのときから、僕はヤンキーに対していいなーという感情を持つようになった。
そして、とてもズルいと。
あいつらは好きなように生きてる癖に欲しい物は何でも手に入れる。男には恐れられて、女の子にはモテる。いつだって気を使ったり損をするのは真面目に生きてるヤツらだ。

僕もヤンキーになろう。一瞬そう思ったが、無理だった。

僕の父親は、この地区の警察の少年課の課長だった。
非行少年を取り締まるところの代表だ。
僕の小学生の頃から仲良かったヤツも中学でヤンキーになって、僕の父親に補導されたりしていた。
「お前のオヤジに捕まったぞ!」と、僕は昨日まで友達だったヤツに次の日、急に肩パンされたりしていたのだ。
僕がヤンキーなんかになって、自分の父親に友達と一緒に補導されるなんか笑えなさすぎる。

まあ、そもそも当時の僕にこんな危ない地区でヤンキーの道へ進む勇気なんかなかった。

勉強を頑張ろう。
そしてこいつらのいない世界へ行くんだ。
胸にずっとヤンキーへの憧れと嫉妬を秘めたまま、僕は勉強を頑張ることにした。

そのおかげもあって、高校は県内でも有数の進学校に進むことができた。
僕の高校は山の上にある、地元では「山の上にある監獄」と揶揄されるほど規則も厳しいところだった。

月に一度ある頭髪検査では、男子は1ミリでも眉毛や耳に髪の毛がかかっていたら、生活指導室送りとなり、女子も脛くらいまでの長いスカートを履いて、髪をきつく黒色のゴムで結ぶことを強制された。

朝5時半に起きて、1時間半かけて電車とバスを乗り継いで0限目の授業に出て、小テストで名前を書き忘れたときは居残りで自分の名前を1000回書かされた。
少しズボンからシャツが出ているだけで、廊下で耳を引っ張りあげられた。

とにかくドがつくほど真面目な高校で、卒業生には外務大臣や有名な会社経営者などがいる伝統ある学校だ。ヤンキーなんか間違っても生まれないように、熊のような生活指導の先生たちが徹底的に目を光らせていた。

この真面目で監獄のような学校だったが、せめてこの中では一軍になって幅を効かせようと思ったが、そうもいかなかった。

ヤンキーがいない中、学校の一軍、スクールカーストの頂点に君臨するのは今度は野球部とサッカー部の連中だった。
うちの高校は文武両道の精神からか勉強だけではなく体育祭にも力を入れていた。
体育祭は運動神経の良い野球部、サッカー部が嫌でも目立つ。
必然的に野球部、サッカー部が学校の中心となっていった。

僕は入る部活を間違えて、硬式テニス部に入った。
テニスの王子様が流行ってたからだ。
硬式テニス部はスクールカーストではちょうど3軍くらいのヤツらの集まりだった。

運動神経も特によくなかった僕は、クラスマッチや体育祭なんかでも目立てないまま高校生活を終えていった。

同じ硬式テニス部でのちに一緒の大学に進む村崎は、僕と違って上手く立ち回っていた。
その持ち前の愛嬌で野球部の1軍のヤツらに可愛がられて、高校生活を謳歌していた。まあ、童貞は童貞だったが。
僕はあいつが全校生徒の前でギャグとかしてるときも、「なにしてんだよ。」とか、「オレならもっと面白いことできるのになー」とかブツブツ言いながら、遠目に眺めているだけだった。

今思えば僕も村崎みたいに、上手く立ち回ればよかったが、当時の僕は全校生徒の前で何かをやる勇気すらなかった。
そしてとにかくカッコつけていた。
自分でも引くくらいカッコつけてた。
お笑いキャラなんかではなく、カッコつけたままクールに人気者になりたかったのだ。
プライドや理想という変な鎖が僕をがんじがらめにしていた。
だからイジられたらマジギレするし、カッコつけたままクラスマッチでサッカーのシュートを外して転んで、ヘラヘラしていた。


イジメられてたワケでもないし、彼女もできたりして、人並みの青春は送っていた。
だけも、心の中にはいつもあった。
「オレはこんなもんじゃない。」「オレはもっと目立ちたい。目立つべき人間なんだ。」
なぜ、自分にこんな自信があったのかは分からないが、とにかく僕は自分のことは「普通とは違う面白い発想を持っている凄いヤツ」なのだと思い込んでいた。


自己顕示欲とか承認欲求というものが、思春期の力で常に膨れ上がり、破裂しそうだった。
授業中に何度も妄想した。
今、テロリストが急に教室に入ってきて、みんながパニックの中、僕だけが冷静にテロリストを倒す。そして学校の人気者になるという妄想だ。

ある日、クラスの1軍のヤツが、なぜかこんな僕のことを面白いと言ってくれたのを皮切りに、僕は突然1軍に入ることができた。
でも、それは高校生活の後半。遅すぎた。
僕は前半、4軍のヤツと一緒に飯を食って帰る生活をしていたのだ。
そして後半になれば、学校の大きなイベントも終えて受験のためにみんな遊びどころじゃない。
遅すぎたのだ。

僕はまた決めた。
絶対大学デビューをかまそう。
大学はもうはっちゃけまくって、華の生活を送るんだ。
変にカッコつけたりとかそういうプライドも捨てよう。
とにかく何が何でも、何としても大学では1軍のトップになるんだ。


②に続く

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