イメージの更新
ほんの些細なきっかけでマイナスのイメージがプラスに転じることもある。
わたしは宝くじというものにマイナスのイメージを抱いていた。
どうせ当たらないし、そんなことにお金を使うのは無駄としか思えなかった。宝くじにお金を使うなら競馬のほうがよい。競馬ならたとえ当たらずともエンタテインメントとしてレースを楽しめる。
思春期に読んだ漫画に紡木たく『瞬きもせず』がある。主人公小浜かよ子と同級生紺野芳弘との恋愛を軸にした少女漫画だ。
高校卒業後、紺野くんは工場に勤める。工場の同僚に人生への希望など失ったくたびれたおじさんがいて、別の同僚から「あいつは酒と宝くじで生きてる」と評されていた。
そのフレーズが深く心に刻まれた。あいつは酒と宝くじで生きてる、惨めな人生の象徴として。
晩年の父親がまさにそんな状態だった。酒と宝くじで生きていた。酒で体を壊し倒れたとき、財布から宝くじが発見された。宝くじを買うような人だったんだと思った。
父親は家族を愛せるようなタイプではなく、わたしもその性質を色濃く引き継いでいる。
酒だけが彼の人生の救いだった。アルコール依存症だった。それは別にいい。酒に生きるのは構わない。けれども、宝くじを買っていたことにわたしは幻滅した。霞のような希望にわずかでもすがっていることがあまりにも哀れに思えた。『瞬きもせず』のフレーズを思い出した。
だから、宝くじを買うという行為にはマイナスイメージしか持てなかった。
少し前に人と出かけた際、「宝くじの換金に寄っていいですか」と言われた。
この人は宝くじを買う人なんだと思った。宝くじに否定的な態度は相手にも伝わったと思う。
その人は「当たったら何をしたいかを考えるために買っている」と言った。考える行為そのもに価値を置いていた。その話ぶりは眩しく見えた。宝くじってこんなに前向きなものだったのだと新鮮な気持ちを抱いた。わたしの中の宝くじへのマイナスイメージがプラス方向へ動いた。
酒と宝くじで生きることは決して惨めなことではない。
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