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夢の続き

「あんた、夢を見るのかい?」

歩道の脇に座り込んでお酒飲んでる
おじさんに声を掛けられた

私はびくんとした
夢と言われて思い出したから

妙な夢を見るんだ
だから
おじさん、何でそんな事聞くの?って
びくんとしたの

少し躊躇して、こくんと頷いた

「だろうー、そんな顔してるさー」
おじさんは夢の内容も知っている様に
当たり前な口調で言った
だから動きたくなくなった

「いかんなー、まだ中学生だろ?
  そんな夢見てたら連れてかれるよ」
心配そうな顔で
おじさんは本当に心配そうに言った

やっと意を決して返事した
「でもだめなんだ
  私、見ることになってるから」

そう、見ることになっているんだ
私の番
私が見ないと弟が見ることになるから
歳の離れた可愛い弟に
こんな苦労はさせたくないよ
…随分年寄りみたいな事を思った

おじさんはますます心配な顔になって
「でも、良いのかい?
  まだ早くないかい?
  もっと楽しい事もできるんだよ」
そう言った
でも私は答えられなかった
だって本当にどうしたらいいかなんて
知らなかったから


ふと空を見上げたら満月だった

おじさんは、おぉ、と笑みを浮かべた
「お嬢ちゃん、今夜は早く寝な
  この月の角度から…22時10分迄に
  そしたら逃げ切れるかも知れん」
驚く様な事を
おじさんは言った

「無理だよ
  これは私が死ぬまで持ってく夢
  じゃないと断てないんだ」
おじさんの優しさがわかって
私はありがとうを込めて言った

でも、
おじさんはきっぱり言った
「今夜だ
  今夜だから出来る
  月が言ってる
  今夜なら切ってあげるとな
  知ってるんだよ、
  あんたの夢の原因を
  お月様は神様が守ってるからさ
  変な爺さんの言う事だけど、
  今夜は聞いてみておくれよ」
そう言いながら、
おじさんは歩道に何か書いていた
よく見ると、
大学の先生かなんかが書きそうな式?
ずっと書き続けていた
暫く眺めていたら、
やっと書き上げたみたいだった
「解けた
  いける、これならいける」

「いいかい?
  22時ちょうどに
  家の2階の窓から
  月に祈るんだ
  何を祈るかはわかってるな
  そうして、22時10分迄に寝る、
  それで良い」

おじさんは続けて言った

私は何だかわからないけど
「信じて良いの?
  死ななくても、夢、見なくなる?」
おじさんに矢継ぎ早にそう言った

おじさんはにっこり笑って肩を叩いて、
「やって損はない筈だ
  そんな辛い事もう無くしちゃえ
  だから、やってみなさい」

何故か
おじさんが紳士みたいに思えた

「わかった、ありがとう!
  明日会えるかな?」

「うまくいったら会えるさ
   必ず、な」

そう話をして、
私は手を振って走り出した


大型トラックが目の前に飛び込んだ


「さて、あっちに行こうか」
おじさんの声がした

「何だ、もう!
  期待持たせて、今夜だったんだ」
私はおじさん、いや、
死神の胸を突いた

私はずっと夢見てた
「迎えに行くから、
  それまで楽しんで生きなさい」
そう黒い靄に言われる夢を

その夢は本人が死ぬまで見続けられたら
次はない、
それまでに熟睡できたら…
次の世代に引き継いでしまう、
そう親から聞かされていた
選ばれたら見る夢なのだと


そっか、
私、死んだんだよね
なら、可愛い弟に引き継がれないね
良かった

死神は何となく優しかった
「弟思いなんだなぁ
  離しても良かったのに
  こっちは仕事をさせてもらえて
  ありがたい事ではあるんだがね」

あぁ、この言葉、優しいよね
こんな死神なら、
連れて行ってもらえても良いかな
そう思ったら吉日って感じで言った

「もう連れて行ってくれて良いよ
  最後に遊べて楽しかったし」

もう思い残す事もなし!
あんな夢、もう見なくて良いんだから!

死神は少し呆れ顔と笑顔で言った
「では、早馬で行くよ
  私に捕まりなさい」


私は
死神の花嫁になった

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