見出し画像

インターネット・コミュニケーション論no.6 「アフターソーシャルメディア」補足

関西大学社会学部「インターネット・コミュニケーション論」の第6回の授業内容(の一部)です。(約3,700字)

第5回、第6回の講義では藤代さんの『アフターソーシャルメディア』をもとに私たちのニュース接触や情報行動について考えていきます。(※今回のnoteでは内容自体は書籍や映像に譲ることにして補足を加えていきたいと思います。)

『アフターソーシャルメディア』は情報過多によって生み出されるズレやジレンマの紹介、またその背景の分析などがなされており現代のメディア状況を知る上でぜひ手にとって欲しい書籍です。

具体的な内容は書籍を読んでいただきたいのですが、書籍の内容について執筆者が動画でも語っているのでそちらも参考にしてください。

ここでは書籍の要約というよりも補足をしていきたいと思います。

各種情報リソースとレポートについて

書籍で触れられているデータはメディア生活フォーラム2019の調査結果にもとづいているものが多いので具体的な数字はそちらを参照するとよいかと思います。またこの調査を行っているメディア環境研究所は他にもさまざまな調査結果を公表しているのでレポートや論文執筆の際に参照するとよいかと思われます。例えば、「メディアイノベーション調査2019」なども興味深い調査結果になっています。

もうひとつは放送文化研究所です。こちらもインターネット関連だけではなくマスメディア(むしろそちらが本流?)についての調査もあります。また「国民生活時間調査」は基礎資料のひとつになるのでそちらもレポート・論文執筆の際には参照してみてください。

情報に対する2つの意識の軸

『アフターソーシャルメディア』では情報に対する2つの意識の軸として両論接触(否定的なのも知りたい)・選択的接触(好意的ものだけ知りたい)、能動接触・受動接触の2つの軸が指摘されていました。この両者をあえて1つに落とし込むと↓のようになるかなと思います。

スクリーンショット 2020-10-24 11.11.46

ポイントは自分がどの位置かとひとつに定めることが難しいところかと思います。例えば好きなジャニーズについては右下だけど、大阪都構想などの社会ニュースについて左上だなぁとか種類によって違うように思えます。そういった意味で、2つの軸に加えて「関心」という3つ目の軸も含めて考えていく必要があるのかなと思います。

ミドルメディア

ミドルメディアについても補足しておきたいと思います。ミドルメディアとは新聞やテレビなどのマスメディアと掲示板やSNSなどのパーソナルメディア(ソーシャルメディア)を指します。※初出は2000年代なかばなのでそのあたりの時代背景を含めて考える必要があります。

藤代さんは2019年の論文でマスメディアとソーシャルメディアのコンテンツがミドルメディアで合流し、ポータルサイトに配信される「フェイクニュース・パイプライン」を指摘しています。

フェイクニュース(とファクトチェック)、フィルターバブルはニュース流通含めたジャーナリズムのあり方だけではなく、ステマなどマーケティング、ビジネス領域においても今後どのように対応したり、デザインされるべきかが議論されるトピックです。

2020年もコロナ関連、大阪都構想、アメリカ大統領選挙などさまざまなトピックがありそれぞれどのような報道がなされるべきなのか?自分たちがどののように接するのか、を考える良い材料になると思います。

ちょっと違う角度から考えましょう。例えば、flierというサービスがあります。これは本の要約サービスです。例えば就活を始めるにあたって話題となっているさまざまなビジネス書に目を通すべきだと言われても数も多いのですべてを買って読むのは難しかったりします。

月額料金・サブスクですが、10分で読める要約を読むことでその本の概要がつかめるならスキマ時間にもぴったりかも知れません。またそこで気に入ったり、気になったものを購入するというのは現代のニーズに合っていると言えるでしょう。

一方で、自分が要約したわけではないので落としている部分があったり、本は買って自分が読むことこそが大事、自分が読めば無料なんだからという声もあるでしょう。そもそも本を読む時間を確保することが重要だという意見もありそうです。

「課金」は時間を効率的に使うことができるし、購入して「ハズレ」だったことを未然に防ぐことができるとも言えます。これら課金にまつわる是非、読書の意味、メディア接触との兼ね合いなどさまざまな角度で分析できそうです。※学割もあるので試してみるのはありかも知れません。

フィルターバブル

自分にカスタマイズしてくれるフィルターは便利なものでもあり、一方でしらずしらずのうちに他の誰かに取捨選択「された」情報に接することで知らない情報に出会えないなどの問題も生じることになります。

自分がい知りたい情報だけに接するというのは同時に自分が思ってもみなかった、たまたま、の情報に出会う「セレンディピティ」が生まれにくい環境に身をおいていることでもあるのです。これは好奇心が育つ、知見を広げるという意味では良くない環境とも言えます。

フィルターバブルについてはイーライ・パリサーの『フィルター・バブル』、また↓の映像も参照してください。

中国のオンラインサービスについての回でも触れましたが、便利と監視はコインの裏表であり、そこに政治やビジネスも絡んできます。

また社会学・社会心理学では「流言蜚語」「うわさ」「デマ」などについてもこれまで研究の蓄積があり関心のある人はそれらも参照したり、関連させてレポートを書いてみてもいいかも知れません。

ビジュアル・フェイクの時代?

他の視点としてはInstagramなどビジュアル・コミュニケーションが広がってくるなかで「ビジュアル・フェイク」とも言えるものもありそうです。先日の「シンデレラ・テクノロジー」とはある種?逆と言えるかも知れません。

振り返ってみると2011年には通販で期待していたビジュアルとは全く異なるものが届いて炎上した「グルーポンのバードカフェおせち」問題もありました。

オンラインとの融合経験が進むなかで食べ物や観光地、ファッションなどオフラインのモノ・コトがビジュアルとして「真正性」を見せているのか、見せられるのか、見せるべきなのか、は根深い問題になっていきます。

ジャーナリズムについても報道写真、映像についてはこれまでも議論されてきましたがソーシャルメディア、ビジュアルコミュニケーションが広がるなかでジャーナリズムにおける映像・画像は盛りや映えの部分と組み合わせて考えると興味深いものになりそうです。

デザイン思考

書籍の後半ではデザイン思考を活用してズレを考えるワークショップが紹介されています。デザイン思考とは2000年代半ば頃からスタンフォード大学で提唱された開発手法で、「共感→定義→創造→試作→検証」のステップを行い、とくに試作と検証を繰り返し、製品やサービスを開発していく手法です。

スクリーンショット 2020-10-24 11.46.14

インタビューやフィールドワークからインサイトを得るというのはフィールドワークやエスノグラフィーなど社会調査にもつながる部分も多くあると思います。また書籍で行われているように製品・サービス開発自体が目的ではなくそのプロセスから私たちの認識や考え方を浮かび上がらせるアプローチとしても応用可能なものでもあるでしょう。

補足としてはあまりにバズワードとして消費され、一般化しすぎたデザイン思考への批判や反省もあるということです。もちろんデザイン思考が役に立たなくなったというわけではないのですが、差別化を考えると他のアプローチも必要になってきたということかと思います。例えば↓を見てください。

以前紹介したベルガンティの「意味のイノベーション」、また佐宗さんの「ビジョン志向」、若宮さんの「アート思考」なども「両論」としては参照しておいてもいいかもしれません。

Information OutからLife Inへ

コンテンツそのものの良さを競う「Information Out」の時代から生活者の時間や気分と寄り添う「Life In」へということが語られます。メディアとの関係から補足するとスクリーンとの関係を考えることは今後重要になると思います。スマホをはじめモバイルメディアが広がることで私たちはどこでもスクリーンに接することができるようになりました。今後はスマホなどデバイスのスクリーンだけではなく、都市空間のあらゆるところがスクリーンとなり、そこでリアリティが形成される時代になるでしょう。

例えばオランダのメディア学者Nanna Verhoeffさんは“Crossing of Reality”というコンセプトを提示します。

そのなかで「Life In」はどのようにデザインされるのか?情報行動を考える、あるいはその製品やサービス提供者として考える上で重要な支店になるのではないでしょうか。

さらに言えばスクリーンは「視覚」と密接な関係にありますがそれだけではなく「聴覚」と密接な関係にあるスピーカーも含めて「Life In」な情報行動がどのようにデザインされるのかは面白い領域になると思います。


サポートいただくと励みになります!