松風陽氷

文芸同人誌「神奈」所属。基本はカクヨムに出現する。神奈マガジンの編集とかで色々ふざけが…

松風陽氷

文芸同人誌「神奈」所属。基本はカクヨムに出現する。神奈マガジンの編集とかで色々ふざけがちの人です。 カクヨムhttps://kakuyomu.jp/users/pessimist Twitter https://twitter.com/matsukazeharuhi?s=09

最近の記事

「ガラス片」 松風陽氷

 母はずっと、燻ったみたいな灰色をしている。 「何で、あなたっていっつもそう、言うことを聞かないわね。あぁ、お母さんが嫌いなのね。貴方はお父さんとそっくりだものね」  これが母の口癖だった。そう言って、決まって母は僕を敵視した。嘲り笑うように冷笑を浴びせた。僕はそんな母を愛そうとしたし、そんな母に愛されようともした。沢山努力をした。でも、何をしても、この一言で終わる。どれだけ頑張ったところでこの人から見た僕は敵でしかなくて、僕らの間に愛など生まれる筈もなくて、つまりは、為

    • 本屋のおじいさん

      授業で必要な教材を無くしてしまった松風は学校近くの本屋さんに個別注文してもらっていた。その本屋さんは、何だか見ていて不安になるお爺さんが経営している小さな本屋さん。今日はそれを受け取りに行こうとしたのだ。 爺「ぐぅ(レジで寝てる)」 松「……」 爺「(起きる気配無し)」 松「えぇっと……すみません、ごめんください」 爺「んぁ……はい…………」 松「すみません、注文してもらっていた本を受け取りに来たんですけど……」 爺「……………」 松「えっと、本を、この間ここ

      • 泥濘のチコ

         寒気のベールが優しく僕を殺そうとした。  薄ら目を開けると眼前には見慣れた灰色の高反発素材。足癖の悪さ故、ハーフパンツから顕になった冷たい生脚。どうやら僕はリビングのソファで眠ってしまったらしい、という事実に気付いたような気付いていないような。まぁ、とにかく酷くぼんやりとしていてハッキリしないという事は明らかだった。上体を起こすと右腕と首が酷く痛んだ、首はきっと寝違えたのだろう拭い切れない違和感だ。皮膚はどこもかしこも冷え切っていて、何時間この冷気に晒されていたのだろうと

        • よい

           目が覚めた。僕は深緑の端が少し剥げた鞄を背負っていて、いつも通りの電車が、いつも通りの時間に、いつも通りの駅に着いた。空が橙と濃紺のグラデーションになっていて、脚と背中と肩が重怠かった。そうか、帰り道か。やけに周りが煩かった。色は強いし音は大きい、何だろう、感覚が過敏になっているんだ。左手のプラ袋の中からカシャカシャと錠剤やらカプセルやらの擦れる音がした。今日も薬は増えた。こうも家とバイトと病院の行き来しかしない日々を送っていると、絶妙に死にたくなってくる。診療代だって、薬

        「ガラス片」 松風陽氷

          お薬

          苦しみのドン底にいて救われる事を少しでも望んでいる、そんな人が居るならば、僕はその人に薬という選択肢もあるんだと教えてあげたい。薬は人を突き落とすことも救うこともある。 因みに僕は今も尚投薬生活を続けている。中学の頃からだから、かなり長いお付き合いである。 いやぁ、紆余曲折ありましたよ。一時はオーバードーズ常習犯、ふとした隙に直ぐ自殺企図、気付いたら身体のあっちこっちにメモリ状の切り傷、なぁんて。 やれやれ。 今思えばあの時はなかなかどうかしていた。今回はオーバード

          ロイヤルブレッド的な朝

          ロイヤルブレッド的な朝 私は階段を上っている。ただ、ただ、上ってゆくだけである。暗いのだ。酷く暗くて、でもなぜだか安心している自分がいて、心地よい浮遊感はさながら子宮の中に揺蕩っている様だった。異なる点を挙げるなれば、赤子と母体特有である生暖かいミルクの薄甘い香りがしない事くらいであった。饐えた地下室の様な、ゾクゾクして少し懐かしい匂い。真っ直ぐに階段は伸びていて、それはどうしてか伸び続けていた。景色は変わる事なく、脚の疲れることもなく、苦しくも無ければ楽しくも無い、そこに

          ロイヤルブレッド的な朝

          寒い日が続きますね。こんな日はココアが暖かくて良いね。松風ココア大好き。 突然ですが、ココアのおすすめの飲み方をお教えします。 朝はココアにシナモンを一振、夜はラム酒を一回し、すると、すげぇ上手いんだわこれが。オススメ!! ( ◜ω◝ )( ◜ω◝ )( ◜ω◝ )

          寒い日が続きますね。こんな日はココアが暖かくて良いね。松風ココア大好き。 突然ですが、ココアのおすすめの飲み方をお教えします。 朝はココアにシナモンを一振、夜はラム酒を一回し、すると、すげぇ上手いんだわこれが。オススメ!! ( ◜ω◝ )( ◜ω◝ )( ◜ω◝ )

          ピアスについて

          僕は弱虫で狙われやすい体質だ。例えば、虐められる、キモイおじさんから性的に見られる、などなどエトセトラ。狙われやすい、僕はこれを被害者体質と言っている。まぁ大方、この生っ白さとひょろっと非力、丸顔タレ目のせいだと思う。 そんな僕だが、耳だけは異様にごつい。11個のボディピアスが付いている。ジャラジャラ。医者で開けてもらったもの、ピアッサーで開けてもらったもの、自分でニードルを使って開けたもの、など。楽しいよ、開けるの。ちょっと痛いけど。キラキラしたものが好きだから、楽しい。で

          ピアスについて

          小説「恋文」

          貴女をお慕いしております。 貴女に恋をして仕舞った、こんな愚かな私をどうか、許して下さい。 自分でも如何して良いのやら、全く見当がつかないのです。此の想いを如何して仕舞うのが一番最適なのか、頭の悪い私には答えが出せませんでした。只、衝動的にペンを手にしたのです。貴女にお伝えしたいと、何故かそう強く、私の全神経が叫んだのです。 私は貴女の全てに魅了されて仕舞いました。 初めて貴女を目にした時、貴女は枝垂れ桜の下で川面に流るる薄紅を眺めておりまして、其の伏せ目がちの長い睫

          小説「恋文」

          小説「寒い夜」

          昔から寒い夜の世界が好きだった。 幼い頃、明日がまた再び訪れることが恐ろしくて眠れない時、母が手を握って夜の散歩に連れ出してくれた。冬の夜は水が温かく感じられる程に身体が冷え切ったものだが、それでも片方の手だけは優しく暖かかった。大人になった今でも、指先の感覚を失う程寒い冬の夜が好きなのは、きっとその所為なのだろう。その指先を自分の首に添わせる度に母の掌を思い出せるからだろう。 それにしても、母というものは不思議なものである。時々たまに、魔法でも使っているのではと思えてく

          小説「寒い夜」

          小説「深海生物の受難」

          我ながら救われないなと思う。 死にたい。 いや、死にたい訳では無い。 消えたい。 ともまた少し違う。 生きていたくない。 そうだ、僕は生きていたくないんだ。 生きる事が苦痛で苦痛で仕方がない。どうしてこんなにも苦しみを感じるのだ。呼吸をする度に吐き気がする。自分の脈拍が気持ち悪い。生きている自分を嫌悪する。 どうしてこんな存在が生かされているのだろうか。 「マトモな生活」が僕をキリキリと締め付ける。しかし、その「マトモな生活」を投げ捨てたならば、僕は自己を存

          小説「深海生物の受難」