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[2023/02/08] パプア州知事汚職と武装犯罪グループ(松井和久)

~『よりどりインドネシア』第135号(2023年2月8日発行)所収~

2023年2月7日早朝、パプア州内陸部のンドゥガ(Nduga)県のパロ空港で、武装犯罪グループ(KKB: Kelompok Keriminal Bersenjata)がスシ・エア(Susi Air)のセスナ機を焼き、ニュージーランド人のパイロットと乗客5人のほか、建設労働者15人を誘拐・拉致する事件が起こりました。2月8日時点で、彼らの行方は分かっていません。

この事件の主犯は、ンドゥガ県でたびたび襲撃殺害事件を起こしてきたエギアヌス・コゴヤ(Egianus Kogoya)とみられており、彼らは、「インドネシアがパプアを独立させるまでパイロットらを釈放しない」と述べています。シギット国家警察長官は国軍と警察の合同チームを派遣し、行方不明のパイロットと乗客の捜索を行うと述べました。

武装犯罪グループ(KKB)は、インドネシアからの分離独立を目指す独立パプア運動(OPM: Organisasi Papua Merdeka)と同じ勢力を指す言葉ですが、インドネシア政府はOPMではなく、KKBという用語を使うようになり、KKBを「テロリスト」と指定しています。また、スシ・エアはチャーター機会社で、この日は、KKBからの脅迫を受けている保健所職員を避難させるために向かっていました。スシ・エアのオーナーは、違法操業の外国漁船を拿捕して沈めたスシ元海洋漁業大臣です。

メディアでは、この事件を引き起こした武装犯罪グループ(KKB)への非難が渦巻いていますが、政府はこの行為に対して非難しつつ、今回はなぜか「テロリスト」という用語の使用を避けています。パイロットらの救出へ向かう国軍・警察合同チームは和平作戦チーム(tim Operasi Damai Cartenz di Papua)と命名しています。なぜ「テロリスト」という用語を使わないのか、という批判もメディアに現れています。

でも、この事件は明らかにテロです。記事をいくつか読むなかで、気になる記述がありました。それは、パプア州警察が「本事件とパプア州知事汚職事件とは関係がない」と言った、という記述です。

分離独立志向とされる武装犯罪グループの起こした事件とパプア州知事汚職とが関係がない、とは、いったいどういう意味なのか。逆に、何か関係が仄めかされるような話があるのか。急に興味が湧き、いろいろ関係記事を読んでいたところ、両者の関係を匂わせる話が色々出てきました。そして、なぜ政府が「テロリスト」という用語を避けているかの理由も想像できました。

『よりどりインドネシア』ではこれまで、パプア分離独立運動に関する記事をいくつか書いてきました。そして、その運動が統一主体による一貫したものではなく、主力も若者となり、純粋な分離独立運動の体をなしていないことを指摘してきました。武装犯罪グループにわたる武器や銃弾の流通には政府職員までも関わり、中央政府の国家予算から国内の全村落へ配分される村落資金(Dana Desa)さえも購入資金として使われる例もありました。そのあたりの話は、「パプアへの武器・銃弾密輸を追う」(『よりどりインドネシア』第122号(2022年7月23日発行))で詳しく触れました。

なぜ、警察が否定するにもかかわらず、このセスナ機事件とパプア州知事汚職事件とが関連付けて見られてしまうのでしょうか。パプア州知事とはどのような人物なのでしょうか。武装犯罪グループとパプア州知事とは何か関係があるのでしょうか。今回は、これらについて考えてみることにします。

ンドゥガ県・パロ空港での2月7日に焼かれたセスナ機の現場検証
(出所)https://wartabanjar.com/2023/02/07/diduga-disabotase-pesawat-susi-air-dibakar-di-nduga-begini-nasib-pilot-dan-penumpang/

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