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【お仕事 from hell】

 寝床のくしゃみとバーでのくしゃみは訳が違う。前者は埃で、後者は噂だ。そう言ってダンは煙草を燻らせながらバーボンを飲んだ。俺は何度か解ったように頷き、グラスを傾けた。中身はもはや氷水で薄められた樽液だ。
「金がないのか」とダンは言った。
「最後の仕事は半年前だぞ」
「人殺しなんてどこでもやれるだろ」
「声がでかい。ばれたら死刑になる」
 ダンは笑いながら、くしゃみの真似事をした。
「俺だってばれたら刑務所行きだ」
 刑事のダンは、ギャングと殺し屋の俺との仲介役だった。クズ野郎で幼馴染で、初体験はお互いにジュディ・マッケンだった。前後の穴の違いはあったから、まあ、異母穴兄弟といったところだ。
「また仕事を頼んでやろうか? 建設会社にもコネはあるぞ」
「いらん。実は清掃会社から内定をもらってる」
 彼はテーブルを叩いて笑った。
「最高だな。人が死んだら呼ぶよ」彼は左手で受話器を作った。「ハロー。マッケン清掃会社? 人が死んだので掃除してくれます? 場所はコートアベニューの134。死体はバラバラ。猟奇殺人です。値段はふっかけてください。その代わり仲介料をもらいます。被害者家族は心を痛めてるので沈痛な面持ちで来てくださいね。もちろんその顔は無料ですよね?」
 彼はまたテーブルを叩いて笑った。半年前にやった仕事だった。
「まあ、とにかく仕事はあるから金は入る」
 俺が言うと、今度は深妙な面持ちで彼はスーツを整えた。
「ライアン。ようやくまともな仕事に就けるんだな。うれしいよ」
 出された手を握ると、シェイクされた。
「なんだか涙が出てくる」
「情緒不安定だな」
「ああ、なんか、変だ」
 そう言うと彼は意識を失い、椅子から転げ落ちそうになった。俺はそれを防ぎ、テーブルに突っ伏した姿勢にさせた。公衆電話まで歩き、コインを入れて電話をかける。
「あ、清掃会社さん? ひとり頼むよ」

 そうやって殺したダンから十一月に連絡があった。

【続く】


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