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Uber Eatsを体験してみて分かったこと

転職先が決まった僕は、1ヶ月ほどの有給消化期間にUber Eatsを始めることにした。ギグワークとはどんな働き方なのか、SNSなどでなんとなくイメージはできていたけれど、いざ始めてみると意外な面が見えてきた。
まだ1日しか稼働していないが、色々と感じることがあった。

Uber Eats と「普通のバイト」

40代の僕にとっては、バイト=時給制のイメージしかない。
バイト募集の張り紙を見て面接に行き、受かればそのお店で働けるというもの。シフトに入り、バイト先の先輩に仕事を教わり、徐々に一人前のバイト(?)になってゆく。
だがUber Eatsにはそんなものは一切無い。面接に受かるもクソもない。
必要なのは自転車と例のバッグとパートナー用アプリだけ。アカウントを作成し、アプリ上で身分証や写真などを送る。メールで交通ルールに関するクイズが届き、それに答えると数日でアカウントがアクティブになる。アプリをオンラインにすればお仕事開始だ。
SNSなどで事前に集めた情報で緩衝材などの必需品は一通り準備してあったので、働く準備はできていた。一番迷ったのは、いわゆる「バイトのやり方」である。
初めてバイトをした時も、就職した時も、転職した時も、いつも聞けば教えてくれる人がいた。でもUberにはいない。あるのはFAQとサポートセンターの電話番号ぐらいだ。
悩んでいても始まらない。まずは家を出て自転車に乗り、アプリをオンラインにした。ふらふらとあてもなく自転車で走っていると、数分でアプリに通知が来た。食事を受け取りに行けという。
行き先は家の近くの居酒屋だった。こんなご時世だしランチでも始めたのだろう。お店について「ウーバーイーツでーす!」とせめて愛想良く振る舞う。気恥ずかしいので慣れているような雰囲気を出してみた。お弁当を受け取ろうとすると
「あ、番号は?」
番号?なにそれ。聞いてませんけど…?慌ててアプリを見てみると受け取りの番号が出ている。とりあえずその番号を伝えてみると「はい、よろしくお願いします!」と無事お弁当を受け取ることができた。どうやらこれで良かったようだ。お店の人の笑顔が眩しく見える。いい人だな、今度飲みに来ようかな、などと考えつつ慎重にバッグにお弁当をしまい、揺れ対策の緩衝材を敷き詰め、さあ出発。腹ペコなのはどこのどいつだ!
アプリで受け取り(ピック)が完了したというチェックを入れると、ここで初めて配達先(ドロップ)が明らかになる。3km程度だ。チャリなら遠くない。
Twitterなどでぐちゃぐちゃになったお弁当の写真を見ていた僕は慎重に自転車を運転し、段差では軽く腰を浮かしながら配達先についた。アパートだ。
部屋番号はアプリに出ている。オートロックも問題なし。お弁当を渡し、アプリで配達完了をスワイプしたらこれで終了。結構簡単だな…。
記念すべき1件目が終わったけど、これからどこに行ったらいんだろう。とりあえず知っている道に戻るべく自転車を走らせているとまたアプリが鳴った。もう怖くないぜ。迷わず受注だ!
今度はカレー屋。ここも知っている店だ。前から気になっていたインドだかネパールだかの人がやってる店だ。いや待て、カレーだと?Twitterで噂の溢れるやつじゃねえか…。
しかし一旦受けたものをキャンセルするのは「受けキャン」と呼ばれるNG行為だったはず。いつかは出会う汁物、早めに経験するに越したことはないだろう。
お店について番号を伝え、テーブルの端に置いてあったお弁当を受け取る。店員の態度がぶっきらぼうだった。ここには食べに来ないと心に誓う。
天敵のカレーを慎重にバッグにセットし、受け取り完了。さて次の行き先は…所要時間20分!?これがいわゆるロングドロップというやつか。まあいいさ、これも経験だ。行ってやろうじゃないか。
UberアプリとGoogleマップに助けてもらいながら目的地に到着。溢れることもなく無事お弁当を渡し終了。
この後さらにもう一件こなし、初日は三件で終えることにした。二十数年ぶりの自転車の長距離運転にお尻と太ももが悲鳴をあげていた。

Uberのシステムについて

まだ1日だけの体験だが、さすがに良くできたシステムだと感じた。
配達パートナーに必要なのはピック(受け取り場所)とドロップ(配達先)の情報のみだが、まず最初に受注するかどうかの判断だけを迫られる。この時点では受け取り先の情報は一切明かされない。受注して初めて受け取り先が指示される。
そしてこの時点ではまだ配達先の情報も一切公開されない。受け取りが完了して初めて配達先の情報が与えられる。
つまり、配達員は配達するものの選り好みが出来ないようになっているのだ。そりゃそうだ、誰が好き好んでリスクの高い回転寿司や汁物を選ぶものか。
レストランによっては配達を想定していない包装のところもあるだろうし、態度が悪いところもあるだろう。そういったお店はすぐにSNSなどを通じて配達員の間で情報共有されてしまう。受け取り先が選べてしまうと配達員が避けるお店が出てくる可能性があり、最終的にはそのお店はUberの加盟をやめてしまうかもしれない。加盟店の減少はUberにとって避けなければいけない事のはずだ。

また長距離を好まない配達員もいるだろう。近距離でテンポよく配達できた方が時間と体力のロスが少ないはずだ。遠くの住宅地まで行ってしまうと必然的に付近にレストランが少なくなるため次の受け取り先までの距離が伸びる。距離に応じて配達料が加算されるようになってはいるが、時間のロスを埋めるほどのインセンティブにはなっていないように思える。
長距離を避ける配達員が増えれば利便性が低下し注文の絶対数が減ることになり、Uberの売り上げ自体に影響する。

一旦受けた配達をキャンセルする(通称:受けキャン)と、次の注文が入りにくくなるなどという噂があるが、これはある意味選り好みをした配達員へのある種ペナルティとしてシステム上存在しても不思議ではないかもしれない。またそのような憶測が配達員の間で飛び交うことで、受けキャンを減らすことにもつながっているのかも知れない。Uberがそのような噂を流しているかどうかは別として。

Uber Eats利用者のイメージと現実

Uber Eatsの配達を始める前は、主な利用者層は富裕層や芸能人、YouTuberなど特殊な理由で外食に行きづらい人たちだと思っていた。配達に気前よく追加料金を払うなんて随分余裕のある人たちなんだろうと勝手に想像を膨らませていた。
僕が住んでいる場所は都心からは離れている。ベッドタウンという呼び名が適当だろう。この辺りでは少々事情が異なっているようだった。
実際に配達してみて感じたのは、僕が勝手に抱いていたイメージとは全く違う理由でUberが利用されている(と想像できる)ということだった。
よく考えれば、駅近に住んでいる人は近くにレストランがある。わざわざUberに頼まなくても自分で買いに行ける距離にあるのだ。
僕が配達した3件のうち3件とも近くに飲食店はなく、2件に至ってはコンビニすらない。
この3つのケースからは
・飲食店があるエリアまでの移動手段自体が無い、又は非常に面倒な場所に住んでいる
・車などの移動手段はあるが、幹線道路などを利用するため道が混む
といった理由が想像できた。
女性の場合は外に出るにあたりメイクをするなどさらに面倒な場合もあるだろう。
これらの手間を数百円で省くことができるなら安いものだと考えることもできる。例えば外食での飲み物代を払わない代わりに配達代を支払い、自宅にある飲み物で賄うと考えれば十分Uberを利用する動機になるかもしれない。
このようなケースがどのくらいの割合なのかはまだわからないが、もし多くの場合に当てはまるとすればコロナが終息してもUber Eatsは安定したビジネスになるはずだ。ちょっとした追加料金で面倒なことをしなくて済む。Uber Eats利用の動機は人と会いたくないということではなく、面倒なことを僅かな代金で誰かに肩代わりして欲しいからなのかもしれない。

Uber Eatsはwin-win-winのビジネスなのか

Uber Eatsのビジネスモデルは、加盟しているレストランと注文者から一定の料金の支払いを受け、その90%ほどを配達員が、10%程度をUberが受け取るというものだ。
利用者は自宅にいながらにしてお目当てのレストランの食事を楽しむことができ、レストランは利用客が増える。個人事業主扱いとはいえ、配達パートナーは収入を得ることができ、好きな時に働き好きな時に休むことができる。
関わる人全員がハッピーになる良いシステムに見える。
一部ではUber Eats配達員は搾取されているなどと主張する人もいるが、誰も強制的に働かされているわけではない。嫌なら他の選択肢を取れば良いし、その自由はある。それよりもこの仕事をして思い出したのは、映画『Walle』のワンシーンだった。

映画の中では「アクシオム艦」と言うところで暮らしている700年後の人間の姿が描かれている。人間はホバーチェアーという宙に浮く椅子に座り、自分で歩くことをしなくなった。身の回りのことはロボットが全てやってくれるため食べ、遊び、ぐうたらな暮らしをしている。手足は退化し短くなり、全員同じような太った体型をしている。ホバーチェアーがなければ身動きもとれない。

もちろんフードデリバリーというサービスが登場したことだけで人間が歩かなくなるなどと思ってはいない。ただ、フードデリバリーの「便利」は「誰かに肩代わりしてもらう」ということであり、「既存のサービスに対する革新的な進歩」とか、「飛躍的な利便性の向上」とは少し質が違うと思っている。ホバーチェアーに向かって一歩踏みだしたと思うのは僕だけだろうか。

また、フードデリバリーの重要な担い手である配達員の職の安定性という点にも疑問を感じた。
短期的に起こる可能性はほぼ無いと思うが、仮に「ドローン+自動運転」などの技術が世の中で一般的になった場合、Uber Eatsは格好のターゲットになるだろう。お弁当程度の重さであればドローンでも問題なく運べるはずだ。
Uberは配達員に手数料を払う必要がなくなり、配達員は職にあぶれる。
自由な働き方などともてはやされているが結局は個人事業主であり、Uber側に生殺与奪の権利を握られているのではないか。僕は期間限定の副業として小遣い稼ぎ程度で考えているので構わないが、専業にしている人達にとっては死活問題だろう。

実際に配達員として働いてみた感想

なんだかUberに文句をつけるみたいなNoteになってしまったが、実際に配達員として働いてみた感想は「楽しい」である。
行った事のなかったお店に行ったり、通ったことがない道を通ったり、意外な裏道を見つけたり。長距離を走って配達先を見つけた時は少し嬉しかったりもした。RPGゲームをしているような感覚があり、決して追われるように走り回っていたわけではない。初日を終えて家に帰り、次の稼働をいつにするかスケジュールを見ながら少しワクワクしていた。
次の稼働では「地蔵」と呼ばれる配達員の待機スポットに行ってみて、配達員仲間を見つけてみようと思っている。

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