見出し画像

豊富な知識と自由な発想を両立させる

僕は大学院を卒業した後、とある企業の研究所に就職した。

仕事内容は装置を組んで実験をしたり、論文や特許を書いたりとかだ。日々の仕事はかなり地味な作業の繰り返しだ。しかもその作業が成果に繋がるかもわからない。


どうして僕は研究者になったのか? 

多くの研究者に仕事を選んだ理由を尋ねると、「宇宙が大好き」とか「生命の神秘を解き明かしたい」など、その分野に強い興味があったという答えが返ってくるケースが多いと思う。


しかし、僕はそうじゃない。

僕が研究職に就いた理由は、自分の理想像に近づくためだ。


からあげ座をつくりたい

『子ども科学電話相談』というラジオ番組をご存知だろうか?

NHKで30年以上前からやっている番組で、様々な疑問をもつ子供と電話を繋いで、専門家が疑問に答えるという趣旨の番組だ。
番組内では、子供たちが大人になると忘れてしまうような素朴な疑問ぶつけてくる。思わずはっとさせられるような質問もあったりしてとても良い。

中でも特に好きなのが「からあげげ座をつくりたい」という回だ。

その回のつぐみちゃん(5歳)の質問と永田先生(専門家)の回答が本当に良い。

藤井アナ : つぐみさんの聞きたいことを教えてください。

つぐみさん: からあげ座を教えてください。つくり方。星の。

永田先生 : 一応、星座って世界共通で88とか決められているのだけれども。でもね、星を見上げる、いつもいつも星を見上げるって、とっても素敵なことだし、大切な事なので、つぐみちゃんには、ぜひからあげ座をつくって欲しいなと思います。つくり方なんだけれどもね、いつもだいたい同じ時間に、同じ方角を見てください。つぐみちゃんのお家のベランダからお空は見えますか。

つぐみさん: 見える。

永田先生 : 見える? 見えたらね、いつも同じ時間、夜8時とかね、9時とかね、同じ時間に、そこからお空を見上げて、お星さまを結んでからあげに。あのお星さまを結ぶと似ているんじゃないかなというのを見つけて欲しいのです。ぜひお空を見上げて、つぐみちゃんのからあげ座を探してください。

からあげ座つくりたい/NHK

「からあげ座をつくりたい」なんて!

愛くるしすぎる!
しかも天才的だ。星空を見たらオリオン座を探し始めてしまう僕にはこの発想は出てこない。新しい星座を作ろうだなんてクリエイティブすぎる。


そして! 先生の答えも素晴らしい。
子供の自由な発想を潰さず、しかも星空の本質をしっかりと教えている。

まず「星空を見上げてみて」と伝えているのが素敵だ。つぐみちゃんは、たぶん明日も、明後日も、星空観察をするだろう。

加えて「同じ時間に、同じ方向を見て」という言葉で、星空の本質を伝えている。
星々は、北極星を中心にして1日周期で空を回転移動している。
そのため、星々は毎日同じ時間に、同じ場所に見ることができる
そして、星々を結んだ図形(=星座)は回転移動しても形を変えない。
この性質のため、昔は星座は航海術などにも使われていたらしい。

子供の発想は自由

子供は自由な物の見方をできる天才だ。

人は知識を得るにつれ、自分の世界観を作り上げていく。
そして、いったん世界観が確立されると、そこから抜け出すのは難しくなる。そうなると凝り固まったものの見方しかできなくなってしまう。

知識を増やすことは、発想を縛って不自由にすることにつながるのだ。

少し前までは「学校では体罰が当たり前」だったし、「結婚したら女性が姓を変えるのは当たり前」の世界観だった。

今の世界観はどうだろうか?
「死刑は必要」だし、「軍隊がないと外国に侵略される」。しかし、これから先はどうなっていくのだろうか?

"当たり前"にとらわれず、つぐみちゃんのように自由な発想を持ち続けるというのが僕の1つの理想像だ。


無知では表面的なものの見方にとどまる

しかし一方で、人は無知なままでは表面的なものの見方しかできない。

「太陽は地球の周りを回っている」し、「動いている物体はひとりでに落下して動きを止める」。
実際のところは、「地球が太陽の周りを回って」おり、「ものは何も力が働かないと真っ直ぐ同じ速さで進み続ける」(宇宙ステーションで物を投げる映像を見るとよくわかる)。

先人たちが蓄積してきた知恵を学び、本質的なものの見方を身につけるというのも僕の理想像だ。


知識と自由な発想を両立させる

僕の2つの理想像を両立させると……

子供のように自由な発想ができて、かつ豊富な知識があって本質的な見方ができる。

こうなる。

でも、この両立はなかなか難しい。知識を増やせば増やすほどそれにとらわれるし、かといって知識がないと表面的な考えしかできない。


この困難を成り立たせるには、どうすればいいだろうか?

僕は日々自分を磨くしかないと思っている。
その具体的な方法は、何かの分野に精通して研究活動を行うことだと思う。

研究者は、先人の知恵を学びつつ、常に疑問を持ち続ける姿勢が要求されるためだ。


豊富な知識をもち、自由な発想になるためのトレーニング環境に身を置くこと、それが僕が研究という職業を選んだ理由だ。

自分の理想像に近づくため、日々研鑽を積みたいと思う。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?