「人間」という生物の弱さに注目しよう

人間とは弱い生き物です。

成功していると言われるサービスやアプリは、サービスを作る上で最終的にかならず「人間」の弱さに着目することになります。その弱さの克服をサポートするサービスになるのか、弱さを煽るのか、弱さにつけこむのか、弱さを逆手に取って別の強みを出してあげるのか。そのあたりはサービスを作る人のセンスに左右されると思います。

ここではどういう使い方をするかは言及せずに、人間にはどんな弱みがあるのかを書き出してみたいと思います。

意志の力が継続しない

以前の記事にも書きましたが、人間は継続するという行為を行うためには「意志」ではなく「習慣」化する必要があります。そして環境を変えない限り意志の力だけでは必ず限界が生まれてしまいます。

明日から「お菓子を食べないぞ!」と決意を新たにしても、ついつい眼の前にお菓子があると手を伸ばしてしまいます。買わないようにしようと思っていても、お店に行く習慣があるとついつい買ってしまうという行為も含めて習慣や環境に引きづられてしまっています。

人間の日々の「習慣」や「環境」の中にサービスを入れ込むことができれば、使ってもらえる可能性が飛躍的に高まります。それは習慣化して行う行為でサービスを使う流れであってもいいですし、サービスを使うこと自体が習慣になってもいいと思います。

自分のサービスやアプリがどの習慣にどう埋め込めるか、その仕組をきちんと備えているか、ぜひ考えてみましょう。

論理的に正しいものを選択できない

人間は選択肢が複数出てきたときに、論理的な選択はできないものです。例えばユーザーのことを考えて、どの競合よりも安くて品質のいいサービスをリリースしても、それよりも高くて品質の悪いサービスを「ブランド」や「名前」だけで決めてしまったりします。

良いもの・正しいものを作ったからと言って、人に選ばれるわけではないことを理解しましょう。

いくら他と比べて「いい」ものを作っても、それを欲しいと思ってもらえない限り選択はしてもらえません。(ビデオのVHSとベータのような話ですね)

そして論理的にメリットを伝えたとしても、嫌悪感を持たれてしまったり、疑いが少しでも残るだけで選んでもらえなくなります。論理的に正しいものを作ったとしても、選んでもらえない場合が大半であることを理解しておきましょう。

「感情」に反応してしまう

人間は恐怖・喜び・焦り・感動・悲しみ・笑いなど、自分の感情が高ぶったとき、正常な判断から逸脱した判断をしてしまいます。普通よりも満足度が高くなることもありますし、お金を払いやすくなるという面もあります。

たとえば「残り5分で終了」と時間を急かして購入を迫ったりするサービスや、普段の値段を2万円ぐらいに高くして頻繁に「セール」を行って大幅に安く見せるサービスだったり、達成したときの喜びを記念品として残させたり、なにかを失った悲しみを癒やすためのサービスだったり、感動を追体験できるサービスだったり。

人間の感情のうちのなにか一つには訴えかけるサービスである方が、単に便利なサービスと比べたときに使ってもらえる可能性は大きくなります。いい意味で使うのか悪い意味で使うのか、その使い方は本人のセンスと倫理観に依るものが大きいところです。ただ、どのような方法であっても「感情」に関係ないものは、忘れ去られやすい運命にあるとも言えると思います。

自身のサービスのアイデアを出すときには「感情に訴えている」面が用意できているか?よく考えてみましょう。

例えば単に「いいね」があったらいいだろうという話ではなく、「いいね」をもらうときに感情的な納得感が重要になったりします。人間は頑張ってもいないのに褒められると嬉しくない一方で、頑張って成果を出したときに褒められるととても嬉しいものです。その「いいね」が何かの達成感などときちんとリンクしていて、本当に「いいね」が欲しくなるような仕組みになっているのか?その「いいね」のもらい方はサービスの理想とするユーザー像と合っているのか?なども含めて考えられるといいと思います。

怠惰な方に流れてしまう

人間は怠惰な生き物です。意志で律することができるのは一部の強靭な精神力を持った人だけです。

勉強せずにテストで点が取れるなら勉強はしない、というのはケシカランと思う人もいるかと思います。ただ「勉強せずにテストで点が取れるなら、なんで勉強をするのか?」と思う人が大半なのです。

自分を高めて勉強する先にある世界を見ることが目標だったりすると本当の勉強ができるかもしれません。しかし、そんなことができる人はとても少ないです。そしてできる人でもすべてのジャンルについて同じ努力はできません。特に自分が興味がなかったり苦手な範囲で「テストで点を取る」という目標が設定されて、「勉強をしなくても点が取れる」という状態になると絶対に勉強をしません。

水が低い方に流れるように、人間はラクな道と困難な道があったときにラクな道を選んでしまう生き物です。もちろん私は違う、という意見もあるでしょう。

ただ怠惰な生き物だと仮定した上でシステムを設計した場合と、困難でも意志の力で進める生き物だと仮定した上でシステムを設計した場合、どちらが良いシステムになるでしょうか?

言説と行動が矛盾する

人間は自分のことを理解できていません。特に「将来についてどう行動するか」ということは自分で理解できていません。理解できていると本人は信じているかもしれませんが、その瞬間が来るまで結果はわかりません。

「過去に言ったことと同じ行動を一生する」というのは普通の人間ではできません。人間は日々変わっていく生き物ですので、いま本心から「自分ならこうする」と言ったとしても1時間後には違うことをしているかもしれません。「あのときああ言っただろう!」という喧嘩も良くあるパターンの一つですよね。でも気が変わるんです。忘れるんです。

このあたりは特に新しいサービスを作るときにアンケートを取ったり、利用者からの問い合わせのときなどに関係してきます。

人間は言説と行動が矛盾し、言説は忘れますし、矛盾したことに責任もないという生き物であることを理解しましょう。アンケートを取るときは「こんなサービスがあると使いますか?」と聞いてもただのムダです。現在どうなのかということ以外は将来のことはあまり意識せずに聞くことが重要だったりします。

優越感を渇望し、劣等感(コンプレックス)を抱いている

このあたりは感情の話と関係してきますが、人間は優越感を感じられることをつねに渇望しており、何があっても満たされることはない生き物です。「認められたい」「褒められたい」という自己顕示欲は少なからず持っています。

劣等感についても、一人ひとり持っている内容は違いますが、必ずなにか1つは劣等感を感じていることがあると思います。私もたくさん持っています。

このあたりを上手く満たせるサービスになると本人の満足感も高く使われやすいサービスになると思います。

劣等感についてはあまりいい意味で使われることは少ないと思います。優越感については、本人のいいところを探してあげて「○○において○○位」のような褒める仕組みなどであれば、本人もサービスとしてもいい仕組みになるのではないかと思います。

一番大切なものを意識せずに浪費していってしまう

いま会社で仕事をしている人は、会社に行って朝から定時まできっちり働いて、すなわち自身の労働力をお金に変えることで仕事をしている方が大半だと思います。

システムを作って起業をして、多くの人に使ってもらって、収益を自動的に上げる仕組みを作って、最終的に得られるのは「自由な時間」です。

システムを作ってシステムに働いてもらうと、会社に仕事として奪われた自分の時間という一番貴重なものを自分の元に取り戻すことができるようになります。

また、最終的にこの一番貴重な「時間」を取り扱うのがサービスやアプリだったりします。

ゲームアプリやニュースアプリやSNSなどは、「自分の自由に使える暇な時間」すなわち可処分時間を割り当てて使ってもらえるように、しのぎを削っています。

また仕事や日常のわずらわしい作業に必要な時間を短くして、「可処分時間」を長くしてあげるサービスもあります。

toCのサービスでは自分の自由な時間を確保するために、またtoBのサービスなどは時間を効率化することで人件費というコストを下げるために、新しいサービスが次々と生まれています。

このように最終的にサービスは「時間」に関係する、すなわち時間を奪うサービスまたは時間を効率化するサービスに該当するものが多いです。そして時間を奪われる価値がないサービスは使われないですし、大して時間が効率化もされないサービスも使われなくなります。

このような観点で考えたときに、自分の作りたいサービスやアプリが「時間」に対してどちらの位置づけのサービスになるかは考えたうえで設計をしたほうがいいと思います。

まとめ

サービスを作る上で人間の特性というのを知ることはとても重要です。それは悪い意味ではなく、いい意味で人間の特性をうまく活用できたサービスが生き残る事ができると考えています。

ある面では正義感を捨てる事が必要になるかもしれません。あるべき姿を追い求めると(たとえば人の成長に着目すると)逆のことをしてしまっているかもしれません。

ただ、人間の弱みをカバーできる、そして困難なことをできるだけ少ない力で乗り越えられるようにすることで、本当にやるべきことに時間を割けるようになり、より多くの人がより豊かな生活をおくることができる世界になると思います。

人間の弱みについては他にも色々あるは思いますが、システムやアプリの開発において大事だと思っていることを挙げてみました。あとから思いついたら随時追加していきたいと思います。

[注意] 本記事では、「例外の人がいる」ことは当たり前として、そこには敢えて着目せずにマジョリティがどういう行動をするのか?という視点でまとめています。

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