エスカレーター物語 【場所x時間】
上から下に降りてきた人はグレーのコートに青いマフラーをしていました。
ダメージパンツにダウンジャケットを着ていた男性は、上から下へと颯爽と僕の視界から消えていきました。
その姿を見て
ふと、場所と時間のキーワードが頭をよぎります。
「場所」と「時間」
「4マスのひらめき」の中にあるキーワード。
場所と時間から、そんなテーマが頭の中に浮かんできました。
何か書けそうだ…
そんな予感がしましたので、早速noteを立ち上げてみます。
すれ違う人生
都内某所の雑居ビル。そこにはボロボロになった郵便受けが並んでいる。それに抗おうとしているのか、真っ白なアクリル版に社名を印刷した会社が一際目立つ。
その横に何も書かれていない郵便受けがあった。
彼女の日課は朝8時から9時の間にその郵便受けへ手紙を投函することであった。
投函を終えた彼女はいつもならそのまま近くの駅から会社に向かうのだが、今日は天気がいいと隣の駅まで歩くことにした。そこにはお気に入りのカフェがある。
天井が高く窓から見える眺めが心地いい。静かに流れるジャズと共に食べるパンケーキと熱々のコーヒーが至福の時間で、天気が良ければよく立ち寄る場所だった。
会社に向かう人々を窓辺で眺めながら静かにノートパソコンを開いた。静かなタッチでキーボードに触れる。
”突然ですが、手紙の投函は今日で最後にさせてください。いままでありがとうございました。”
そっと送信ボタンを押して、ノートパソコンを閉じた。
横の椅子にかけていた赤いコートを羽織り、急足で駅へと向かっていった。
✴︎
目覚めと共に時計を見たら既に8時30分を過ぎていた。今日は朝から会社でクライアントとのミーティングが入っている。彼は頭がボサボサのまま千鳥格子のテーラージャケットとダークレッドのマフラーを取って慌てて家を飛び出した。
昨日の夜、遅くまで溜まった仕事を消化していたのが良くなかった。ここ最近の仕事の量といったらたまったものではない。
週末の友人との旅行のためにもここは頑張りどきだと遅くまで仕事をしたのが良くなかった。
急いで電車に乗り、上司に正直にメールをした。
上司からの返事には
「気をつけてこいよ」
と思いもよらず優しい言葉が返ってきただけに、余計に焦ってしまった。
いつもならば、電車を降りてからもスマホ片手に漫画を読みながらゆっくり改札に向かうのだが、流石に今日はそんな余裕はなかった。
✴︎
改札に向かう長いエスカレーターに乗り、ふと上を見上げると一際目立つ女性が上から下へと降りてきた。
地下鉄駅構内、朝の通勤時間帯と言えば黒やネイビー、茶色といったダークな色がひしめく空間である。そこには色鮮やかな空間は存在しない。
体にフィットしたワインレッドのロングコートを纏い、肩から細いチェーンのハンドバックをぶら下げるその出立ちは、まるでキャサリン妃を彷彿させるものだった。
先を急いでいるのだろうか。颯爽と降りてくる姿はすぐに消えてしまったが、目を見張るその姿にどうも脳裏にその姿が焼き付いてしまった。
もうすぐミーティングが始まってしまう。早く行かなきゃ。
✴︎
電車に乗った彼女は、ふとエスカレーターですれ違った、頭がボサボサの人が脳裏によぎった。
そう言えば、昔付き合っていた彼があんな風貌だったなと。
何度言ってもボサボサ頭をそのままにしている彼が、ある日突然坊主頭にしてきたのには驚きを通り越して逆に笑ってしまったなと。
もっと言い方を変えれば変わってくれたのかなと今ではそう思ってる。
見切りをつけた彼女は、これから歩む自分の人生を改めて考え直していた。
今日はこれからクライアントとミーティングだし、やるべきことは沢山あるけど…。
今度、久々に田舎にでも帰ってみようかな。
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