BTNopenは本当に40%でいいのか
はじめに
GTOが普及した今の時代、調べるとすぐに以下のようなBTNオープンレンジが出てきます。そしてこのレンジに従っている人が多いと思います。
ただ、本当にこの40%程度のオープンレンジが実践的にも正しいのでしょうか?相手の戦略がGTOと一致していない以上、この戦略が本当に最適なのかについては疑問が残ります。
また、エクスプロイト的な発想を持たれている方は「相手の3betがGTOよりも狭いからこのレンジをもっと広げよう」といったことを思うかもしれません。
ただ、その思考(+GTOソリューション)だけでは、「じゃあどのくらいオープンを広げていいの?」という質問だったり、「相手の3betレンジは狭いけどCallレンジが広い時にはどうすればいいの?」といった質問に対して、かなり曖昧な回答しかできないと思います。
そこで、この記事では別のアプローチからBTNのオープンレンジについて考えてみたいと思います。
pot回収率の概念
まずpot回収率という概念を提案させてください。
どういったものかといいますと、名前の通り「特定のスポットでpotを争った場合に、平均してそのpotの何%が回収できるか」という概念です。
そして誤解を恐れずに言いますと、相手の戦略が固定化されている状況において、BTNが特定のハンドをオープンできるかは、オープンをBBにコールされた場合のpot回収率のみで決定されると言えます。
どういうことか、例を出して示します。まず以下の前提を置きます。
ここで、以下の事実があります。
(ソリューションやレーキによって違う頻度になりますが、そういった話は一旦無視します)
この場合、BTNのスチール結果は
・スチール成功:84.5% * 60.2% ≒ 51.0%
・3betされる:15% + (100% - 15%) * 13.9% ≒ 26.8%
・Flopが開かれる:100% - 51.0% - 26.8% = 22.2%
となります。またそれぞれのアクションの期待値は以下の通りです。
・スチール成功: +1.5bb
・3betされる: -2.5bb
・Flopが開かれる:5.5bb * pot回収率 - 2.5bb
※BBがcallすると5.5bbのpotになるため。(SBのcallは今回は無視します)
ここでOpenした時のEV > 0 (=Foldした時のEV)になるためには、
1.5bb * 51.0% - 2.5bb * 26.8% + (5.5bb * x - 2.5bb) * 22.2% > 0
になればよく、これをとくと x>0.3767…
つまり、BBにコールされFlopが開かれた時にpotの38%程度を回収できるハンドなら、Openしたほうが良いことになります。
さらに言えば(GTO相手に)オープンレンジを考える際には、もしCallされた場合にpotの38%を回収できるかどうか、のみ考えればよいのです。
pot回収率をどう見積もるか
一方で前述のpot回収率を計算することは難しいのでは?といった意見があると思います。ただ、実はEquity × Equity Realization(EQR)である程度pot回収率を見積もることが出来ます。
例えばBTN2.5bb open→BBcall→BBcheck
の場合における、BTNのフロップのEQRを見てみます。
(本当はプリフロップ時点でのEQRを出せるといいのですが、現状そういったものは計算可能なソルバーがないようなので、特定のFlopを例に見ていきます。)
すると、BTN側はEQRがおよそ80%~120%のハンドがほとんどであり、
また平均するとハンド全体のEQRは100%程度であることがわかります。
勿論ボードによって各ハンドのEQRは変わりますが、平均すると上記のような値に落ち着くことは納得いただけるかと思います。
※レーキによって、この数値は多少変わります。
※AxやKx(とくにオフスート)のハイカード系のEQRは低い傾向にあります。私の大体の感覚だとこういったハンドのEQRは60%~90%です。時間さえかければこの数値はより正確に計算することもできます。
※余談ですがOOPのEQRは40~50%程度です。いかにIPが有利かということがわかりますね。
つまり、相手のCallレンジに対してのEquityを計算し、そこにEQR(100%, ハイカード系はもう少し下げる)をかけることで、おおよそのpot回収率を見積もることができます。例えば32oを仮にオープンした場合、BBのコールレンジに対して32oは31%程度のEquityがあります。
つまり、32oをオープンしてBBにコールされた場合、pot回収率は31% * EQR(100%) = 31%と見積もることができます。
これは前述の38%という数値を超えていない(十分にpotを回収できない)ためオープンする期待値はマイナスで、32oはオープンしないほうがいいハンドであるということがわかります。
GTO戦略との整合性
このpot回収率の計算方法が妥当なのかをチェックするために、GTOがBTNオープン時に混合戦略をとっている98oやJ4s、A3oについて、BBのCallレンジに対するEquityを見てみます。
98oやJ4sのEquityは約40%と、理論的な数値に近い値になりました。
A3oについては98oやJ4sと異なりかなりエクイティが高い(50%程度)ですが、混合戦略になっています。これは前述したハイカード系はEQRが低いことから生じるものと考えられます。
(理論的にはA3oのEVは38%程度になるはず→逆算的に考えると、A3oのEQRは80%程度のようです。これも先ほどの結果と矛盾しません。)
EQRの見積り方には若干注意がいるものの、この計算でざっくりとpot回収率を見積もることが出来ることはご納得いただけると思います。
実践
以上の議論を実践にも当てはめてみます。
私の持っているデータ(Poker starsのzoom、BAN以前のものなのでかなり古いデータです)ではBTNの2.5bbオープンに対して、人口全体は以下のようにプレイしていました。
ここで一度、記事の前半で出したGTOの頻度とこの人口全体の頻度を比べ、どのくらいのオープンレンジが最適か考えてみてください。
なかなかはっきりとした答えは出せないと思います。
では次に記事の前半と同様の手順で、必要なpot回収率(と、そこからオープンレンジ)を計算してみます。まずスチール結果は
・スチール成功:80% * 60% = 48.0%
・3betされる:13% + (100% - 13%) * 10% ≒ 21.7%
・Flopが開かれる:100% - 48.0% - 21.7% = 30.3%
となります。そして
Openした時のEV > 0 (=Foldした時のEV)になるためには、
1.5bb * 48.0% - 2.5bb * 21.7% + (5.5bb * x - 2.5bb) * 30.3% > 0
になればよく、これをとくと x>0.348…
つまり、pot回収率が34.8%程度あればオープン可能という結論になります。これはGTOよりも少ない値であり、GTOよりも弱いハンドでのオープンが正当化されることがわかりました。と同時に、32oのpot回収率は31%程度と予想されるため、そういったハンドはプレイできないこともわかります。
この後はEquilab等を使えば、より正確に適切なオープンレンジを見積もることができます。
(私のざっくりした計算では、この人口全体に対してはレンジをかなり広げ、60%程度のハンドをオープンできるんじゃないかと思っています。)
最後に
一般に言われる「GTOをベースにして混合戦略を少しだけエクスプロイト方向に調整する」という考え方も大いに賛成なのですが、この考え方だけだとエクスプロイトが足りない部分が多いと個人的には思っています。
例えば、私はフィールドによってBTNオープンが60%以上になることは自然なことだと思いますが、上記の発想ではなかなかそういったプレイにつながりません。
そこで、このpot回収率の概念を使うことで、GTOレンジを眺めるだけよりも、より正確に相手を搾取できるようになると思っています。ぜひこの概念が皆様の参考になれば幸いです。
(余談)
実はこの話は「BTNopen以外の状況はどうなの?」とか、「アンノウン相手には実際どのくらいのEQRが見込めるの?」とか、「オープンサイズ別に分析するとどうなの?」とかあらゆる話に派生していくのですが、文字数が4500字を超えてきましたので今回はここで筆をおかせていただきます。
反応が良ければまた記事を書こうと思いますので、ぜひスキやTwitterのRT、フォローなどよろしくお願いいたします。
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