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ショウダウンバリューがあるハンドはブラフしてはいけないのか


はじめに

ポーカーをプレイしている中で、「このハンドはショウダウンバリュー(以下、SDV)があるからチェック」「このハンドはSDVがあるからブラフしてはいけない」こういったセリフはよく聞くと思います。実際間違った表現ではないですし、ポーカーの通説の中ではかなり正しいものに分類されると思います。
(誤った通説の例:セットマイン)

しかしながら最近は「SDVがある」という言葉だけが一人歩きし、内容を誤解されている方がいる気がします。今回の記事では「SDVがあるからチェックする」ということはどういうことか、もう少し整理して見ていきたいと思います。

前提

まず以下の前提で、リバーでコールするかベットするかを考えてみます。

・6maxCashGame
・アクションは以下の通り
Preflop:BU2.5bb open, SB fold, BB call (Hero:BB)
Flop(pot5.5bb):BB check → BU 1.8bb bet(約33%potCbet) → BB call
Turn(pot9.1bb):BB check → BU check
River(pot9.1bb):BB ?
・ボードはJs5h5d3c2c
・レーキは考えない
・カード除去効果は考えない

ここでBBでKQoを持っていた場合を考えます。仮にBBでチェックし、BUもチェックした場合、ショウダウン(以下、SD)でKQoが勝っている可能性はそこそこあるでしょう。すなわちこのKQoには「SDVがある」ということはご理解いただけると思います。実際にGTOwizardで確認してみます。

Borad:Js5h5d3c2c

BBの戦略とKQoのEV
BBとBUのメイドハンド構成
BBがチェックした場合のBUのメイドハンド毎のアクション

BBがチェックした場合、BUはNo made handとKing highの一部をギブアップするので、やはりKQoはSDVが十分にありそうです。実際BBの戦略を見てもKQoは100%チェックの純粋戦略になっています。

これを見て「やっぱりKQoはSDVあるしチェックだな、こんな当たり前のことは勉強するまでもないから他のシチュエーションを勉強しに行くか」と思われた方、少し待ってください。実はKQoをベットした場合もそこそこEVがあることに気づかないでしょうか。

このベットした場合のEVについてこの後の章で分析してみます。そして実は、私は実践ではこのKQoをベットしたほうが良い場面も多々あると思っているのです。

分析

まずチェック時のEVと60%potbet時のEVを見てみます。以下、リバーのpot額をs(s = 9.1bb)とし、またKQoの中でも特にKcQdを持っている場合について考えてみます。それぞれのアクション時のEVはWizardを見ると以下の通りです。

60%potbetEV:1.6bb ≒ 0.175s
チェックEV:1.92bb ≒ 0.211s

BBが60%potbetをした場合、BUがKQoよりも弱いハンドでコールすることはありません。つまりKQoはブラフというわけになるのですが、何故ここまでブラフのEVが高いのでしょう?これはBBがベットした場合に、BUはMDF(minimum defence frequency)よりもフォールドするからです。
※何故MDFよりもFoldするのかについては何故potbetに50%以上降りていいかに書いています。

このシチュエーションではBBの60%potbetにBUは50%程度降りるため、60%potbetを行った時点で(SDで全く勝てないとしても)正のEVが発生し、そのEVは 50%* s - (1- 50%) *0.6s = 0.2s 程度になります。
また仮にBBがチェックした場合、BUがチェックする確率は60.9%、そしてその中にKQが勝っているハンドは17.5%+19.1% = 36.6% (以下図を参照)なので、チェックEVは 60.9% * 36.6% * s ≒ 0.22s程度となります。

BBチェック→BUチェック時の各ハンド構成

記事上の計算とWizard上の計算は、レーキやブロッカー、チョップの関係で完全には一致しませんが、それでもある程度近い値になっていることが確認できると思います。
※ちなみにKsQhとKcQdではEVが大きく違います。この理由については本題と関係ないので、記事下部のAppendixで考察しています。

こう計算すると、意外とベットとチェックのEV差は僅かだと思わないでしょうか。もしかするとブラフの期待値は0に近いと思われている方もいるかもしれませんが、実は想像よりブラフの期待値が高いことも多いのです。

ここで、私がとある方からいただいた25NLzoomのデータを載せておきます。2023年の比較的新しいデータになります。

これは今回の前提と同様のシチュエーションでBBが30%~35%potbet or 45~55%potbetを行った場合、BU(実際にはEP~COも含まれてます)がどういったアクションをとるかを分析した結果です。小さい灰色の数値はサンプル数で、Fがフォールド率、Cがコール率、Rがレイズ率です。
例えば30~35%potbet120回に対して、プレイヤープール全体は59%程度フォールドしているようです。サンプルは十分とは言えないものの、MDFよりかなり多くFoldが貰えているのがわかると思います。

仮にBBの40%potbetにBUが55%程度Foldするのであれば、理論上のベットEVは 55%* s - (1- 55%) *0.4s = 0.37s と、前述のチェックEVよりもかなり高くなります。レーキ等も考える必要はありますが、実はSDVがあったとしてもベットする方がEVが高くなることも往々にしてあるのです。

上手いのか下手なのかよくわからないポーカープロが、SDVがありそうなハンドでブラフをしているのを見たことはありませんか?そして、それを見て「SDVがあるのにチェックしないなんて、下手なプレイヤーだな。GTOもチェックと言ってるし、これはミスプレイだろう」と思ったことはありませんか?実はそのプレイはある種のエクスプロイトプレイの可能性もあるのです。

最後に

今回私が言いたかったのは、「SDVがあるから思考停止でチェックする」ことの危険性です。「SDVがあるからチェック」するのではなく、あくまで「ベットの期待値も見積もった上で、SDでの勝率(あるいはSDまで行く確率)が高くチェックのほうが期待値が高いからチェックする」べきなのです。

この記事を読んで、じゃあ「SDVがあるハンドでも全部ベットしよう」というのもやめてください。仮にBUが弱いハンドの殆どをチェックバックしてくれるなら、その場合はチェックEVの方がベットEVよりも高くなることも考えられます。重要なのは比較のプロセスなのです。

ただSDVがあるからチェックと思考停止するのではなく、相手がどのくらいフォールドするのかを想像し、場合によってはSDVがあるハンドもブラフに回せるようになると、よりポーカーが上手くなる/楽しくなると思います。是非皆様のプレイの参考になれば幸いです。


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http://gtowizard.com/p/glass


Appdendix

【KsQhとKcQdでEVが大きく違う理由】
・BUがノーペアでターンにダブルバレルブラフを打つ場合、BUは♠♡♦を持っていないほうが(つまり♣を持っているほうが)相手のバックドア系を下ろしやすいので、ダブルバレルブラフを行いやすい。
・BUがダブルバレルを打たなかったということは、BUがノーペアの場合は♠♡♦を持っている確率が高い。
・つまりBBは♠♡♦を持っていないほうが(♣を持っているほうが)BUがノーペアの可能性が上がり、ブラフが通りやすい。
・PioSolverでも同じ結果になることを確認しています。(なので、計算誤差というわけではなさそうです。)

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