発散級数の和をどのように捉えるか

先日放送されたNHK「笑わない数学」のテーマは$${1+2+3+4+\cdots=-\frac{1}{12}}$$でした。

勿論普通の級数の定義では無限大に発散するのでこの等式は意味をもちませんが、適当に解釈することでこの等式に意味をもたせることができるのです。

それを考える前にいくつか簡単な例を考えることにしましょう。

例1.関数$${\displaystyle f(z)=\frac{\sin z}{z}}$$を考えましょう。$${z}$$は複素変数ですが、複素関数を知らない人は実変数だと思っても構いません。

これは$${z=0}$$を除いたすべての点で定義される正則関数です。(すなわち微分可能な関数です。)

ところが$${\displaystyle\lim_{z\to 0}f(z)=1}$$なので$${f(0)=1}$$とおくことで$${z=0}$$も含めたすべての点で正則な関数に拡張することが出来ます。


例2.  よく知られているように$${|x|<1}$$のとき$${\displaystyle 1+x+x^2+x^3+\cdots +x^n+\cdots=\frac{1}{1-x}}$$

が成り立ちます。しかし右辺は$${x\ne1}$$なる限り定義されるので、$${|x|\geq1,x\ne1}$$のときも左辺の値を右辺の値で定義することで$${x\ne1}$$なるすべてにおいて成立する等式と考えることができます。

たとえば

$${\displaystyle 1-1+1-1+\cdots=\frac{1}{2}\quad(x=-1)}$$

$${\displaystyle 1+2+4+8+\cdots=-1\quad(x=2)}$$

$${\displaystyle 1-2+4-8+\cdots=\frac{1}{3}\quad(x=-2)}$$

などです。

ちなみに$${p}$$を素数とするとき、$${x=p}$$とした等式が$${p}$$進数の意味では本当に正しい式です。
($${p}$$進数体上では$${n\to\infty}$$のとき$${p^n\to0}$$が成り立つから。)


以上の例のように(複素)関数の定義域を(解析的に)拡張することを解析接続と呼びます。

複素解析によれば解析接続は(可能ならば)一意的であることが保証されています。

さてテーマの等式の意味を説明するためにいくつか準備をしましょう。

$${\displaystyle\zeta(s)=1+\frac{1}{2^s}+\frac{1}{3^s}+\cdots+\frac{1}{n^s}+\cdots}$$をリーマンのゼータ関数と呼びます。

これはRe$${(s)>1}$$において収束することが知られています。

形式的に$${s=-1}$$を代入したもの(すなわち$${\zeta(-1)}$$)が左辺の級数となります。そこでこの関数を解析接続することを考えます。

実際$${s\ne1}$$なるすべての複素数に解析接続されることがわかります。それを証明なしで説明しましょう。

まず次の関数(ガンマ関数)を考えます。

$${\displaystyle\Gamma(s)=\int_0^{\infty}x^{s-1}e^{-x}\,dx}$$

これはRe $${(s)>0}$$において収束する正則関数ですが、部分積分によって$${\Gamma(s+1)=s\Gamma(s)}$$

がなりたつので、この等式によって解析接続することが可能です。

たとえばRe$${(s)>-1}$$のとき$${\displaystyle\Gamma(s)=\frac{\Gamma(s+1)}{s}}$$となるので、$${\Gamma(1/2)=\sqrt{\pi}}$$を用いれば

$${\Gamma(-1/2)=-2\sqrt{\pi}}$$となります。

$${\Gamma(s)}$$は0以下の整数で1位の極をもつ有理型関数になることがわかります。

さて$${\xi(s)=\pi^{-s/2}\Gamma(s/2)\zeta(s)}$$とおくと、これは関数等式$${\xi(1-s)=\xi(s)}$$を満たすことが

知られています。そこでこの関数等式に$${s=2}$$を代入することで、$${\displaystyle\zeta(-1)=-\frac{1}{12}}$$

が成り立つことが証明できるのです。($${\displaystyle\zeta(2)=\frac{\pi^2}{6}}$$はよく知られている。)

つまりこの等式はリーマンのゼータ関数を解析接続した関数の$${s=-1}$$における値が$${\displaystyle-\frac{1}{12}}$$

に等しいことを意味しているのです。

ちなみにベルヌーイ数を用いると自然数$${m}$$に対する$${\zeta(2m),\zeta(1-m)}$$の値も求めることができます。

$${\displaystyle\zeta(2m)=\frac{(-1)^{m-1}B_{2m}}{2(2m)!}(2\pi)^{2m},\zeta(1-m)=-\frac{B_m}{m}}$$

ここでベルヌーイ数$${B_n}$$は$${\displaystyle\frac{te^t}{e^t-1}=\sum_{n=0}^{\infty}\frac{B_n}{n!}t^n}$$で定義されます。



参考文献
[1] Daniel Bump『Automorphic Forms and Representations』,Cambridge University Press.
[2]荒川 恒男,伊吹山 知義,金子 昌信 『ベルヌーイ数とゼータ関数-整数論の風景-』,共立出版.

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?