Vol.8 三角関数の「和→積」「差→積」

先月出題の問題の解答

まずは、三角関数の「和→積」の公式の導出から・・・

 先月の問題は三角関数の和を積とする事を求めているので、三角関数の「和→積」の公式を使う事を考えた、と云うところから話を進めてみようと思う。

 三角関数の「和→積」「積→和」の公式の全てを、正確に記憶するのが面倒な人は多いかもしれない。丸暗記だと、思い出すときに若干間違えて思い出すかもしれない。

 「若干間違えて」と述べたが、「若干」間違えると云う事は(言葉は過ぎるかもしれないが)全くデタラメに思い出すのと同じ結果になる可能性は大きいと思う(数学の公式や定理の場合は)。

 公式は適宜導出すると、丸暗記や語呂合わせよりは遥かに間違えにくいし、導出過程は比較的記憶に残りやすい。お勧めである。公式の形を記憶していると思っていても、その公式を思い出すときに、正確に思い出す助けになる場合も有るだろう。


 三角関数の「和→積」「積→和」の公式の導出は三角関数の加法定理の式を用いて行う。そのため、(他の事のためにも。貴方の人生のためにも?)以下に示す、その加法定理の 2 式だけは記憶しておこう(それ以前から始めるのは面倒である。但し、私の感覚である)。

$$
\begin{array}{lll}
\sin{( \alpha \pm \beta  )}&=&\sin{\alpha}\cos{\beta} \pm \cos{\alpha}\sin{\beta}           \cdots(1) \\ \\

\cos{( \alpha \pm \beta  )}&=&\cos{\alpha}\cos{\beta} \mp \sin{\alpha}\sin{\beta}           \cdots(2)
\end{array}
$$

 ( 1 ) と ( 2 ) は、共に複合同順である。

 導出せよとか記憶せよとかごちゃごちゃ述べているが、問答無用で最低限記憶すべき事(記憶して無いとお話にならない事)は有るのだ(というか、そういった事柄は頻出のため、学習をしているうちに自然と記憶に残ってしまうという事は有る)。

 前置きやら余談らしきものが長くなった。本題に入ろう。まず複合を用いて表現している( 1 )を2式に分けて書くと、

$$
\begin{array}{lll}
\sin{( \alpha + \beta  )}&=&\sin{\alpha}\cos{\beta} + \cos{\alpha}\sin{\beta}           \cdots(1-1) \\ \\
\sin{( \alpha - \beta  )}&=&\sin{\alpha}\cos{\beta} - \cos{\alpha}\sin{\beta}           \cdots(1-2)
\end{array}
$$

 正弦関数の「和→積」の公式の「和」の部分は、(1-1)と(1-2)の和をとったときにできる「左辺同士の和」であり、「積」の部分は右辺同士の和をとったときの正弦関数と余弦関数の積の項同士の加減の結果である。

 という分けで、(1_1)と(1_2)を辺々加えると、

$$
\sin{( \alpha + \beta  )} +\sin{( \alpha - \beta  )} = 2 \sin{\alpha}\cos{\beta}   \cdots(A)
$$

 これで三角関数同士の和を、三角関数同士の積で表現することが出来た(これで「和→積」の公式とは言わない。教科書や公式集と違う。でも、この式の段階でそう言って良いかもしれないとも思う、私的には)。

 何と簡単な事ではないか!その加法定理の辺々を加えるのみである。そうする事で右辺同士の和をとるときに項同士で互いに異符号のものが消え、同符号のものが生き残り、結果として右辺に三角関数の積の項が一つだけ表れる。これが「和→積」の公式である。

 なので、正弦関数同士の差の場合でも同様にして(1_1)と(1_2)の辺々の差をとると、

$$
\sin{( \alpha + \beta  )} - \sin{( \alpha - \beta  )} = 2 \cos{\alpha}\sin{\beta}   \cdots(B)
$$

 前述の(A)に倣えば、(B)は「差→積」の公式と言うべきかと思う。

( 因みに(A)と(B)は正弦関数が奇関数であることにより、相互に同等の式とみなせる。確かめられたし )


 余弦関数同士の「和→積」「差→積」の公式も同様である。(2)を複合同順に2つの式で書くと、

$$
\begin{array}{lll}
\cos{( \alpha + \beta  )}&=&\cos{\alpha}\cos{\beta} - \sin{\alpha}\sin{\beta}           \cdots(2-1) \\ \\

\cos{( \alpha - \beta  )}&=&\cos{\alpha}\cos{\beta} + \sin{\alpha}\sin{\beta}           \cdots(2-2)
\end{array}
$$

 これら2式の辺々を加えた、その左辺が余弦関数同士のとなる。右辺の積の項同士の加減で生き残った部分が「和→積」の積の部分となる。よって、( 2-1 ) と ( 2-2 ) を辺々加えると、

$$
\cos{(\alpha+ \beta)} + \cos{(\alpha- \beta)}  =  2\cos{\alpha}\cos{\beta}        \cdots(C)
$$

 また、同様に ( 2-1 ) と ( 2-2 ) の辺々の差をとると、 

$$
\cos{(\alpha+ \beta)} - \cos{(\alpha- \beta)}  =  -2\sin{\alpha}\sin{\beta}         \cdots(D)
$$

 本稿では上記(A)~(D)を、三角関数の「和→積」「差→積」の公式としておこうと思う。

 更に、上記(A)~(D)を「右辺から左辺」と読むと「積→和」「積→差」の公式となる事にお気付きと思う。


では、問題その1-1の解答解説を・・・

 加法定理の公式からスタートして、これで先月の問題の解答解説の準備が整った(またしても前置きが長くなってしまった・・・)。 

 「問題、その1」の1では、

$$
\sin{x} + \cos{y}     \cdots(3)
$$

を三角関数の積の形で表現するのであった。これは「正弦関数と余弦関数の和」となっている。上記(A)~(D)の公式は、同種の三角関数同士の和や差についての公式であり、直接は利用できそうにない。なので、

$$
\cos{y} = \sin{ \Big( y+\dfrac{\pi}{2}  \Big) }
$$

である事を利用して、

$$
\sin{x}+\cos{y} = \sin{x} +\sin{ \Big(  y+\dfrac{\pi}{2}  \Big) }               \cdots(4)
$$

となる。(4)右辺は正弦関数同士の和である。これを積の形に表現する公式(A)を使える。

 そこで(4)右辺と(A)を比較すると、

$$
\begin{array}{ll}
&\sin{( \alpha + \beta  )}  + \sin{( \alpha - \beta  )} = 2 \sin{\alpha}\cos{\beta}   \cdots(A) \\ \\
&\sin{x} + \sin{ (  y+\dfrac{\pi}{2}  ) }                                                                                           \cdots( 4 )右辺

\end{array}
$$

 ( 4 )右辺を積の形にするために、公式( A )に落とし込むには、以下の連立方程式の計算により $${\alpha}$$ と $${\beta}$$ を $${x,}$$ $${y}$$ で表すことになる。

$$
\begin{array}{ll}
& \alpha + \beta  =  x\\ \\
& \alpha - \beta  = y+\dfrac{\pi}{2} 
\end{array}
$$

 すると、

$$
\begin{array}{rr}
&\alpha = \dfrac{x + y}{2} + \dfrac{\pi}{4} \\ \\
&\beta  = \dfrac{x - y}{2} - \dfrac{\pi}{4}
\end{array}
$$

 これら $${\alpha,  \beta,  x,  y  }$$ の関係式に基づいて(A)を $${x,  y}$$ で表すと $${\sin{x} + \cos{y}}$$ は、

$$
\begin{array}{lll}

\sin{x} + \cos{y}&=&\sin{x} + \sin{ (  y+\dfrac{\pi}{2}  ) }                                                                    \because  (4)\\ \\

&=&2 \sin{\Big(\dfrac{x + y}{2} + \dfrac{\pi}{4}\Big)} \cos{\Big(\dfrac{x - y}{2} - \dfrac{\pi}{4}\Big)} 

\end{array}
$$

 よって問題その1-1の答えとしては、

$$
\sin{x} + \cos{y} =2 \sin{\Big(\dfrac{x + y}{2} + \dfrac{\pi}{4}\Big)} \cos{\Big(\dfrac{x - y}{2} - \dfrac{\pi}{4}\Big)}                                      \cdots(5)
$$

となる。


続いて、問題その1-2の解答解説を・・・

 それでは $${\sin{x} + \cos{x}}$$ を積の形で表現しようとすると、どうなるか?と云うのがこの問題である。

 この式は(5)左辺で $${y}$$ を $${x}$$ に置き換えたものだ。(5)右辺は積の形になっている。なので(5)両辺の $${y}$$ を $${x}$$ に置き換えると、その右辺が求める答えとなりそうだ。 

$$
\begin{array}{lll}
\sin{x} + \cos{x}  &=& 2 \sin{\Big(\dfrac{x + x}{2} + \dfrac{\pi}{4}\Big)} \cos{\Big(\dfrac{x - x}{2} - \dfrac{\pi}{4}\Big)} \\ \\
&=&2 \sin{ \Big( x + \dfrac{\pi}{4} \Big) } \cos{ \Big(-\dfrac{\pi}{4} \Big )} \\ \\
&=& \sqrt{2} \sin{ \Big( x + \dfrac{\pi}{4} \Big) }
\end{array}
$$

$$
\therefore  \sin{x}+\cos{x} =\sqrt{2} \sin{ \Big( x + \dfrac{\pi}{4} \Big) }
$$

 これは正弦関数と余弦関数の合成を行った結果を表す式では無いか!それを「和→積」の公式を用いて導いた事になった。

 $${\sin{x} + \cos{x}}$$ を「和→積」の公式を用いて積の形で表現しようとすると、それは結果として正弦関数と余弦関数の合成を行うのと同じ事となった。

 本稿は、三角関数の公式理解や計算練習の題材としてお勧めである。特に三角関数の演算の、苦手克服のための題材としてお勧めである。脳トレにもどうぞ。


問題、その2

 私の地球温暖化問題を含む地球環境問題の意識が極めて高いことは、先月の記事の内容でお分かり頂けたことと思う。

 しかし、私は先月の記事で重大な(というかアホな)事を書いたことに気付いてしまった。

 暖房費節約のために温暖化効果の高いメタンガスを室内に充満させるのと、それが大気中に漏れ出て、より地球大気に温室効果ガスを供給することになり、結果的に地球温暖化を促進してしまう事に気付いた。

 (こんなことを書いていては、牛のゲップのもたらすメタンガスに神経を尖らせているヨーロッパの人達に人間性を疑われかねない。悪くすると、私の先月の記事の削除要請が、それもヨーロッパ諸国の環境保護団体等から有るかもしれない。まあ、そんなことも無いだろう。私の記事の世間的影響など、あまり無いだろう。・・・これは私の正常性バイアスと云ったものだろうか?今夜も眠れない)

 気体を制御するのは難しい。室内からメタンガスが漏れ出ないように管理するのは極めて難しい。出来てもかなりの費用が掛かる。

 しかしである、炭酸ガスなどより遥かに温暖化を促進するとされるメタンガスは、その側面からは悪者となるが、その悪者を、その性質を上手く利用する事が出来ないかという視点を持てたことに、私は自分を褒めてあげたい気分である。

 お知らせ
 
この「問題その2」の解答解説につきましては、PDF版では「断腸の思いで(?)」カット致しますので、御了承下さい。


今月の問題

問題、その1

今月の出題はお休みします。

問題、その2

休憩しましょう。


  マガジン「高校数学1ミリメートル」の 4月から 6月の更新はお休みし、次回の更新は令和 6年 7月 31日迄に致す予定です。

 その間、マガジン「中学数学1ミリメートル」の記事を公開するかもしれませんので、そちらの方も宜しくお願い致します。

 次回も宜しくお願い致します。


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初稿 2024年 3月 20日

高校数学1ミリメートル
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