Vol.10 卵が先か?鶏が先か?因数分解の公式~~その1
前回出題の問題1の解答解説
因数分解、その1
「次の式の因数分解を導出過程も含めて記述せよ」と云う出題を考えてみる。
$$
a^3 + b^3 \cdots(1)
$$
この式の因数分解もまた、多くの高校数学の教科書や公式集が公式として掲載していると思う。先ずは(1)が$${ ( a + b ) }$$ を因数に持つかもしれないと考え、展開結果に(1)式の2項が現れるように、試しに以下の様に式変形をしてみる。
(実は「$${ ( a + b ) }$$ を因数に持つ」と考えるのには根拠がある。「既に因数分解の結果を記憶していたから」とか、山勘や雰囲気とか云うだけでは無い。それについては次回に述べようと思う。但し、どうして良いか分からなければ、堪で進めてみても良いとは思う。)
$$
a^3 + b^3 = ( a + b )( a^2 + b^2 ) - ab^2 - ba^2 \cdots(2)
$$
右辺3項目と4項目は、右辺1項目に作った形の帳尻合わせのために加えたものである。
ここで(2)式右辺の2項目と3項目を、その共通因数 $${ -ab }$$ で括ると、式全体の共通因数となる $${ ( a + b ) }$$ が現れる。よって(2)式右辺は、
$$
\begin{array}{ll}
&( a + b )( a^2 + b^2 ) - ab^2 - ba^2 \\ \\
= &( a + b )( a^2 + b^2 ) - ab( a + b ) \\ \\
= &( a + b )( a^2 - ab + b^2 )
\end{array}
$$
結局、
$$
\therefore a^3 + b^3 = ( a + b )( a^2 - ab + b^2 ) \cdots(3)
$$
因数分解する事が出来た。
さて、教科書が(3)式を因数分解の公式として示していたとしよう。左辺の因数分解が右辺なのは、右辺を展開すると左辺になるからだと考えるべきだろうか?。だとすると初めに右辺を作り、その展開結果が左辺であると考えたことになる。
しかし右辺の式の形を「これを展開してみよう」と、特段のきっかけ無く考え付くだろうか。誰が初めにこのような式を思い付くのだ(天才は別として)?
( 但し「何らかの必要に迫られて」とか「行きがかり上」という事は有るかもしれないが )
この(3)式は、初めに左辺を因数分解してみようと思って出来た公式なのではないか?鶏と卵で言えば、(3)式の卵は左辺では無いかと思う。但し、凡庸なる私の考えでの話である。
貴方は何が言いたいのか?とか言われそうだが、つまり、学習者は $${ a^3 + b^3 }$$ の因数分解を導き出せる必要があると言いたいのである。
(3)式を丸暗記し、右辺の展開結果が左辺であるから「これで良いのだ」では、私は何か寂しいのである。
卵から鶏なら、その方向で公式を導き出せるほうが自然な数学の学習の仕方と思う(多分卵は恐らく左辺の方だ)。
因数分解、その2-1
「因数分解、その1」の結果を利用する方法
( 以下「$${ a^2 + 2ab + b^2 = ( a + b )^2 }$$」 については既知とする )
次は、
$$
a^3 + 3a^2b + 3ab^2 + b^3 \cdots(4)
$$
を因数分解してみる。(4)式の各項を見て、前述の $${ a^3 + b^3 }$$ の因数分解と $${ 3a^2b + 3ab^2 = 3ab( a + b )}$$ との共通因数が $${ ( a + b ) }$$ であることに気付けば、(4)式は、
$$
\begin{array}{ll}
&a^3 + 3a^2b + 3ab^2 + b^3 \\ \\
=&( a + b )( a^2 - ab + b^2 ) + 3ab( a + b ) \\ \\
=&( a + b )( a^2 - ab + b^2 + 3ab ) \\ \\
=&( a + b )( a^2 + 2ab + b^2 )\\ \\
=&( a + b )( a + b )^2\\ \\
=&( a + b )^3
\end{array}
$$
$$
\therefore a^3 + 3a^2b + 3ab^2 + b^3 = ( a + b )^3 \cdots(5)
$$
前節で「卵が先か、鶏が先か?」等と述べているが、(5)式はどうか?この式については、いきなり左辺を「これを因数分解しよう!」と思い付くだろうか?
(実はパスカルの三角形や2項定理とか云うものもあるが、それでも左辺はその結果として得られるもので、最初に思い付く様なものではあるまい)
(但し前述同様「何らかの必要に迫られて」とか「行きがかり上」等という事は有るかもしれない。更に「天才は別」である)
そう思うと、(5)式については「右辺の展開の結果が左辺であるから、左辺の因数分解は右辺である」と考えたのが最初であるとするのが自然な思考かもしれない。そうなると(5)の場合、卵は右辺の可能性が大きい。
(但し、大半の高校生は「そんなのどうでも良いじゃないか!」と思うかもしれない)
しかし展開結果から因数分解できるはずだし、やってみようと思うのがささやかな数学かと思う。
因数分解、その2-2
ある定石による方法
さて、因数分解の定石の一つに「特定の文字について整理する」というやり方がある。参考迄に、そのやり方で(4)を因数分解してみる。
$$
\begin{array}{ll}
&a^3 + 3a^2b + 3ab^2 + b^3 &\\ \\
=&a ( a^2 + 3ab + 3b^2 ) + b^3 &\cdots(A)\\ \\
=&a ( a^2 + 2ab + b^2 ) + a^2b + 2ab^2 + b^3 &\cdots(B) \\ \\
=&a ( a + b )^2 + b ( a^2 + 2ab + b^2 ) &\cdots(C) \\ \\
=&a ( a + b )^2 + b ( a + b )^2 \\ \\
=&( a + b ) ^2( a + b ) \\ \\
=&( a + b )^3
\end{array}
$$
$$
\therefore a^3 + 3a^2b + 3ab^2 + b^3 = ( a + b )^3 \cdots(5)
$$
(A)では $${a}$$ で括られるところまで括り、(B)では $${a}$$ で括った括弧の中で2次式の因数分解の公式が適用できるように係数を調節し、括弧外にそのための帳尻合わせの項を加え、(C)ではその括弧の外の項を $${ b }$$ で括る事で先に行ったのと同じ因数分解の形が出来、それが共通因数となる事で因数分解が出来ていくと云う事である。
やはり(5)で「展開して左辺になるから左辺の因数分解は右辺である」のみでは、私は何か寂しいものを感じる。かなり寂しい。なので、私は本稿で挙げた類の因数分解は、必ず、絶対、授業で演習問題とし続ける事となるだろう。
(やるな!と言われればやれないが・・・それは私は、とても寂しいのである)
因数分解、その3
ついでに・・・
因数分解は有理数係数の範囲で行うのが慣習と思うが、複素数係数の範囲で行うと、次の式も因数分解できてしまう。より一般的な状況下だと、それまで出来なかった事が出来てしまう、一つの例と思う。
$$
a^2 + b^2 \cdots(6)
$$
( 因みに $${a^2 - b^2 = ( a + b ) ( a - b )}$$ である )
$${ a, b }$$ を実数、$${i}$$ を虚数単位とすると、(6)の因数分解は、
$$
a^2 + b^2 = ( a + bi )( a - bi ) \cdots(7)
$$
である。こう出来てしまうのは $${i}$$ (虚数単位)の、$${i^2 = -1}$$ の性質による。(7)の一連の運算を右辺から左辺へと書くと、
$$
\begin{array}{ll}
&( a + bi )( a - bi ) \\ \\
=&a^2 - abi + abi - b^2 i^2 \\ \\
=&a^2 - b^2i^2 \\ \\
=&a^2 - b^2(-1) \\ \\
=&a^2 + b^2
\end{array}
$$
$$
\therefore a^2 + b^2 = ( a + bi )( a - bi ) \cdots(8)
$$
因数分解の話をしてきたので、参考までに、こんな因数分解もある事を述べておこうと思った。これについては左辺と右辺でどちらが卵か鶏かは・・・(誤魔化すつもりは無いが)特に気にしない事にしようと思う。
今月の問題
問題、その1
次の式を有理数係数の範囲で因数分解せよ。
$$
( m + 1 )( m + 2 )( m + 3 )( m + 4 ) - 3
$$
(少々意地悪な出題で申し訳ないが、取り組んでみてほしい)
問題、その2
休憩しましょう。美味しい山羊のミルクをどうぞ(牛乳も)。暑さを凌ぐためにも、色々と食する事が良いかもしれません。
(そう言えば、ウナギの相場も気になります)。
(解答解説は次回に掲載予定です。)
早くも全国的になかなかの暑さの様です。私も暑いです。この夏は、ネッククーラーを試しております。
閲覧下さる皆様には、暑中お見舞い申し上げます。
次回は8月31日迄に掲載予定です。宜しくお願い致します。
100円でダウンロードボタンが表示となる、LaTeXで編集して印刷用に書式を整えた、上記数学記事のPDFファイルを絶賛?公開中です。こちらも宜しくお願い致します。
(なかなか売れないので、近々10稿程まとめて格安販売を検討中。現在のところ、その価格を400円にしようと思っている。買って頂けると、すごく嬉しい)。
↓ ↓ ↓
https://note.com/mathematic1mm/m/m1576ce8758be
(この部分はPDF版ではカットの予定です)
初稿 2024年 7月 5日
高校数学1ミリメートル
©くぼいる 2021~
All Rights Reserved
ささやかなコンテンツではありますが、貴方様の御支援を宜しくお願い致します。頂きました大切な御支援は、微力ながらも閲覧下さる皆様のために、内容の充実と継続に生かしたく思います。どうぞ宜しくお願い致します。