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【現場学校レポ】戦略に基づいた批評をしよう|デザイン批評の現場(長谷川 恭久さん)

こんにちは!
ライブ配信セミナー『現場学校』レポート班のSカオリです。

2019年2月25日に開催された、長谷川 恭久さんのセッション「デザイン批評の現場」のセミナーレポートをお届けします。

批判と批評のちがい

今回のテーマ「デザイン批評」の「批評」と「批判」は字面は似ていても意味しているものが違います。まず批判という言葉の意味は、

批判とは
・成長のためあえてキツく言う
・議論を促すために
・自分が求める結果にするため
・相手を傷つけるため
・機嫌が悪い
・自分のエゴのため

つまり、デザインなどの成果物に対してでなくそれを作った人に対してきつくあたるような態度は批判になります。そして批判は「ダメというのはわかるけど、じゃあ何をしたらいいのか」というのがわかりにくい。

今回のテーマ「デザイン批評」とは「悪いデザインにダメ出しする」という意味ではないことをまず念頭におきましょう。

デザインプロセスで抜けている視点とは?

デザイン(サイト制作)のプロセスは大きく4つのフェーズに分けられます。

VISION
クライアントは何を目的としてこのプロジェクトをしているのか。クライアントが会社としてどうありたいのかというビジョン。

STRATEGY
そのビジョンに基づいて自分たちはなにをしていけばいいのか?進み方・考え方の戦略を練る。

DESIGN
その戦略に基づいて、デザイン・設計をする。

DEVELOP
その設計に基づいて成果物を作り上げる。

この4つのフェーズを一貫性をもって行わないと、必ず物事でうまくいかないところが出てきます。

これを一貫性をもたせないと、議論もいろんな方向にいってしまい、成果物も「できたものの何だろうこれ…」ということになりかねません。

このプロセスの中で、もっとも足りていないのはSTRATEGY=戦略(企画)です。

スタートからゴールまでたどり着く道筋の選択肢の中から、吟味して「どういう道筋で進むのか」と決めることが、戦略です。

わたしたちが普段サイトを作るときに考える、「見た目(デザイン)」「CMS」「マーケティング」「機能」「運用」「SEO」……これらは戦略ではなく、手法(戦術)にすぎません。

戦略を考えるより前にデザインが〜とかCMSが〜と言い始めてしまうのは、戦略がないのに戦術のことだけを話しているということ。これでは、何も決めないでとりあえず進んじゃおう!と同じといえます。

スタートからゴールまでいろんなやり方、進め方が考えられ、どんな方法でも最終的にゴールにたどり着けるとしても、「これが我々がとる進路だ」と決めていなければ、意見がわかれてしまったり別の方法があるんじゃないかとブレてしまうことになります。

戦略がないと何が起こるのか?

戦略がなく手法から入ってしまうとどんな弊害が起こるのでしょうか?

・行き当たりばったりになりやすい
・進行が遅れたり、混乱を招く
・偉い人の好みで決まる
・一貫性を失う

確固たる道筋がないと、何が正しいのかわからず、それぞれが好きに意見を言っているので遅れが生じ、ぐちゃぐちゃになってきます。そうなると、偉い人の鶴の一声で決まってしまうことも…。あるあるある…

戦略がない制作をしているとぶちあたる限界

多くの制作会社、フリーランスは戦略がない制作、具体的にはデザインと開発だけが自分の職域だという方も多いでしょう。つまり、「作り上げる」というところを専門分野として受け持っています。(わたしもそうです)

しかし、デザイン・開発のみでは限界がきます。
なぜかというと、今ではサイト制作ツールがたくさん出てきていて、簡単に無難にいい感じのサイトを作れるサービスがどんどん登場してきています。AIも進化してますしゼロ円でも知識がなくてもサイトが簡単に作れる時代はとうに来てしまっています。

そのため、デザイン・開発という「作る」ことだけを専門にしていると、きびしくなってきます。そういったツールでちゃちゃっと作ったサイトと制作会社がしっかり作ったサイトの差を、普通のお客さんが理解しているケースはそれほど多くないでしょう。

そして制作費はどんどん安くなっていっているのに、責任の難易度は上がってきてしまっている。そのギャップをどう埋めるのか。

また、「作る」というだけの立場ではデザインの批評をすることはほぼ不可能。戦略なき制作、一貫性のない制作になってしまうんですね…。

戦略を自分たちのデザインプロセスに取り入れるためには

「ユーザー」って誰?どういった経緯で使われる?何をもって「良いデザイン」とするのか?という基準をさだめ、ステップごとに評価をしていきます。戦略がなければ、これらの基準もなく、何がいいのか悪いのかが判断できないですね。

戦略があることで得られるメリットは

・理由に基づいた制作ができる(なぜこれを作るのかの説明がしやすい)
・プロジェクトにおける良いの共有ができる(誰かの好みでなく、プロジェクトにとって意味があることだという視点で議論ができる)
・デザイン批評がしやすくなる
・お金になる(!)

長谷川さんいわく…
「作る」ついでに戦略のことを考える、では「じゃあついでにやってよ」になってしまい、なかなかお金を取れない(下から上へはお金取れない)けども、上(戦略フェーズ)から提案するとお金が取れるそうです。むしろ戦略だけでも取れるぐらいだそうで…不思議…!

ビジョンは往往にして言語化されていない「社長の想い」だけであることも多く、そのイメージを視覚化・明文化し、基準のある批評でもって進み方を決めた上で作る。
当初そうやってビジョン、戦略を立ててパワーポイントなどで落とし込んだとしても、忘れてしまいますし、だんだん目移りしてきます。あっちのほうがよかったかもしれないなどの迷いが出てきます。

しかしそこで「こういう風に決めたよね、だからやるんだよね」というところを会話を通して思い出してもらうのが、デザイン批評のポイントなのだそうです。

このビジョンの言語化・視覚化というのが大事で、ここが後のほうにまで響いてくるとのこと。そのために認識を合わせ共有するという作業は大事ですね。視覚化にはムードボードやPinterestを使って漠然としたイメージを具体的に視覚化します。

約束事を決める

長谷川さんはまず「約束事」を決めるそうです。例えば「0.1秒でも早く表示させること」など…(制作者として当然やるべきなことであっても)約束事として明文化して共有しておかないと、なぜ制作者たちが時間をかけてチューニングしているのかが理解してもらえないし、最終的にボランティアになってしまい、成果物の評価も正当にされないという結果になってしまいます。なのでこういった理由を共有すること、大事ですね…。

「お客さんはwebのことに疎いから、難しいことを言ってもわからない。わからないからわざわざお客さんには言わないけど作業としてはやる」ということが実際少なからずありますよね…。でも「なぜそうするのか」をお客さんと共有しないまま、ページスピード早めておきました!って言っても「はぁ…それって大事なんですか?」なんて返される可能性だってあります。この作業は必要なことなんだってことがあらかじめお客さんに共有されていないと、後から必要だからやりました!と言ったところで「はぁ」なんですよね…。それを「webがわからないお客さん」のせいにせず、必要なこととしてあらかじめ約束事にしておかなかったことがまず悪手であったという、簡単なことですが意外とできていないことだなって思います。

戦略の進め方

戦略の下準備
・ビジョンが共有されていない場合、どういった価値観をもっているのか
・『良い』の言葉の意味を探る。どういうものを良いとしているのか
・すること、しないことを決める
・調査をする口実にする 調査をしてからデザインしましょう!だと調査にかける時間や予算がない…と言われてしまうが、どういった目的で、そのためのツールとして調査をしましょう、であれば理解されやすい
戦略を作る
・ファネルとチャネルをプロットする
・ビジョンとリソース
・今、何をすべきか決める

このプロセスをへて、ようやくデザイン批評ができます。この批評においては「色は赤がいいか青がいいか」という次元の話はしなくていいし、偉い人が突然「こうしたらどうだろう」と言い出してもある程度コントロールができるようになります。

デザイン批評のための指標をもうける

戦略にもうひとつプラスアルファするとしたら、デザインがうまくいったか測るための指標を設けます。

この指標は、単純にPV数や訪問者数…といったものを見るだけではなく、より具体的な指標であるべきです。

品質が測れない指標
・様々な解釈が生まれる(コンバージョン率と実売数など)
・ユーザーの姿、行動が見えにくい(ユーザーの行動は点でなく線)
・短期的ゴール達成の施策が増える(その場その場の対策になりがち)

具体的な指標というのは、
単純なページビュー数ではなく、
1週間再訪したユーザーの割合」
1週間最後まで記事を読んだユーザーの割合」
20%再訪問者毎週最後まで記事を読んでいる」←BEST!
といったように下にいくほどより具体的な施策が立てやすくなります。
どういったユーザーにどういう行動をしてほしいのか?がわかりやすいですね。これだと、最後まで読ませる工夫をしよう、といった制作サイドからどういう施策をしたらいいかが提案しやすい指標になります。

良い指標の共通点
・ユーザーゴールに基づいている
・期間が区切られている
・作る前に考え始める(デザイン批評がしやすくなる)
・計測の結果に基づいて改善できる

とくに3つめちょっと気をつけたいですね。「とりあえず適当にGAタグ入れといて」「世間的にGA入れてるからうちも」みたいな、何を計測したくて入れてるかわからないGAタグも結構ありますね…そう言う場合はPV数の推移といったざっくりしたところを眺めて終わりっていうことも多い気がします。

まとめ:戦略・デザイン批評とは

①ビジョンの言語化・視覚化
「いいよね」「つかいやすいよね」というあやふやな表現を具体的に視覚化、明文化すること

②目的、文脈
ビジネス・ユーザーの目的ってなんだっけ、ユーザーはどんな文脈でそのサービスに触れているんだろうという点を共有する

③評価のための指標・評価基準

そしてこれら戦術に基づいて評価することが、批評です。

そして決めたあとも、ドキュメンテーションに残すことも大事です!!

今回のお話は
・いかに批評ができる環境を作れるか
・評価をするための基準をどのように作っていくか

がミソでした。

最後に質問コーナー!

さて、今回が本当に最後の最後の質問コーナーです。田口さんが、長谷川さんがカメラが切り替わるたびに全部カメラ目線になってるのをアーカイブでお楽しみくださいと言っていたのでレポート記事を書きながらカメラ目線ぶりを楽しませていただきました!笑

わたしの質問を取り上げていただけたのでこちらの回答をご紹介します。

(序盤で、戦略がないと偉い人の好みで決まってしまうという話で頭によぎった質問です。ワンマン系組織ではたまにあるケースです)

A. そもそもこの状況で戦略を持ち出す必要性があるのか?こういうケースだったら今の通りやっていくしかなくここに今回の話のようなことを適用するのは難しい…。クライアントの組織の体質の問題。

こういったお客さんをお客さんとして取っていく必要性とか、なにをもってそのお客さんを取ったのかという自分たちのビジョンがあるのか…。

!!うう〜ん確かにそう言われると…そこまでして組織を変えていきたいという目的ではないので無理に道筋つけて戦略的に!としなくてもいいでしょうね…。トップダウン体質のお客さんだとこちらの意見を通すより、おっしゃるとおりにやっていくしかないのかもしれないです。それが平和です…。

長谷川さんからは他のFacebookコメントについても色々と返信をいただきました。ありがとうございました!!

こういった講義に触れると、「わたしも明日からビシビシ戦略から提案しちゃうぞ!」という気持ちになってしまうのですが、お客さんの会社が戦略から提案できるような会社なのか(そこを求められているのか)というのも大事な要素ですね。

とにかく安く早くそれなりにサイト作ってよ、という目的で依頼してくるお客さんに対してもっといいもの作りましょうとか、ビジョンが、戦略が、という話から入っても何も響かないですしお客さんが求めていることではない…ですよね。「それならWixやJimdooをそっと勧めて次の案件行ったほうがいい」と…真理かもしれません。

長谷川さんは、日々のコンテンツ発信で「作るだけの仕事はしない」というスタンスをはっきりさせているので、そういったお客さんをそもそも取らない、戦略から入ってくれることを期待しているお客さんが寄ってくるという流れを作ったそうで、確かにどういうスタンスで仕事をしていきたいかを発信していくってことも臆せずにしていくべきだなと感じます!

これにて全10回の講義のレポは完走です。田口さん、スタッフの方々、講師の方々、みなさま怒涛の講義、配信ありがとうございました〜!

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