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【プレミア盤】グリフィス「イントレランス 紀伊國屋クリティカル・エディション」

映画史上最初の超大作「イントレランス」は著作権切れのため、廉価盤も多く出ていますが、画質においては紀伊國屋レーベルのクリティカルエディションが最高です。同レーベルは全て廃盤になっており、DVDは高い中古価格で取引されています。研究者向けとも思える非常に詳しい解説パンフレットが付いていて、中古価格が高いのもこのパンフの価値があるようです。ジャケット裏の作品解説が完璧な文章なので、そのまま引用します。

●『イントレランス』はアメリカの国家的映画となった『国民の創生』に続いて、D・W・グリフィスが製作した前代未聞ともいえる超大作映画である。前作ではアメリカという国家の歴史に焦点を当てたが、この『イントレランス』では一国家に限定せず、より普遍的な人類の歴史をテーマとした。

●グリフィスは初めニューヨークのスラム街を舞台とする『母と法』という題名の映画を作ったが、まもなくこの小さな映画は巨大な一本の映画の一つの部分とみなされるようになった。『母と法』で展開されたアメリカ資本主義社会の法システムの無慈悲さを、〈イントレランス〉(不寛容)という、より抽象的かつ普遍的なテーマの中に組み入れ、別の時代、別の場所で起こった出来事の中に、この映画のテーマを見出すという大胆な構想によって、さらに三つの異なった物語をグリフィスは映画として作り上げた。

●『イントレランス』は、これら四つの物語を時代の順番に並べて見せるのではなく、各物語を交差させて、あたかもそれぞれが並列する物語であるかのように語っている。それは『イントレランス』以前のいかなる映画も行わなかった壮大な実験であった。古代バビロニア、紀元一世紀のパレスチナ、16世紀のパリ、そして現代(1910年代半ば)のアメリカという四つの時代四つの場所で物語は展開し、それぞれは同時に進行する。それぞれの物語をつなぎとめているのは、ゆりかごを揺らす母親というシンボリックな映像である。同時に進行する物語は、次第に加速していき、それぞれのクライマックスが四つ同時に並列されて展開してゆく。

●このような実験的な大胆さをもった映画の構想が前代未聞だったばかりでなく、製作費もそれまでのいかなる映画よりも大きく、あらゆる意味において『イントレランス』はこれが製作された時代の標準をあまりにも大きく超える作品であった。グリフィスの抱いた映画芸術に対する理念は、この時代の一般的な映画観客の理解の範囲を超えており、莫大な製作費をつぎ込んだこの作品は興行的に失敗してしまう。その後グリフィスはこの映画によって負ってしまった借金を何十年もかけて返さなければならなくなる。そしてまた、この後のグリフィスは、興行的に安全な主題の映画を作らざるを得なくなる。『イントレランス』はグリフィスの映画監督としてのキャリアの頂点を示す作品ではあったが、同時に彼のその後の作品が通俗的な主題を持たざるを得なくなるような結果を必然的に生じさせてしまった作品でもあったのだ。

●『イントレランス』は当初からいくつかの版で上映された。グリフィス自身がこの作品に何度も手を加えているのである。その最も長い版は現在は残されていない。失われた場面をスチール写真で補ったプリントが作られてはいるが、そうした非常に長い版がグリフィスが求めていた最良の版というわけではなかったようだ。本DVDは現存する様々な『イントレランス』のプリントを比較検討して作られた復元版を収録している。(引用終わり)

映画評論家淀川長治はこの映画を子供時代に映画館で観たそうです。映画評論家として東大教授にまで上り詰めた蓮實重彦が、最後まで淀川長治に頭が上がらなかったのは、「淀長はイントレランスを本上映で見た」という、映画マニアとしては決定的な優位性にあったようです。

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