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米国クライテリオン盤・黒澤明「七人の侍」Blu-ray

米国クライテリオン社の「七人の侍」Blu-ray。たびたび世界映画ベストテン1位に輝く日本映画の最高傑作です。

脚本の橋本忍と共に「本物の時代劇」を作ろうと考えた黒澤明は、「侍の1日」をテーマにした作品を完璧な時代考証で再現しようとしましたが、「侍が城に出勤するときは弁当持参だったのか、給食が出たのか」「江戸時代は陽が落ちたら寝るので1日2食であり、昼食の時間は無かったのではないか」などの細かい疑問に答える史料が無く、この企画を断念しました。

企画が暗礁に乗り上げていたとき、プロデューサーの本木荘二郎が「宿に困った武者修行の侍は、百姓に雇われて食事を与えられる代わり、盗賊などから村を守っていた」という史料を見つけて来ました。黒澤はこの話に興味を示し「七人の侍」を構想しました。

黒澤明の完全主義伝説は、この作品の制作中から始まっています。撮影は1年に及び、当時の日本映画7本分の予算を費やして完成しました。あまりにも予算と時間がかかるので、会社の重役たちが「とにかく今撮影が完了した分のフィルムを見せろ」と言って来ました。何とか撮影完了分で映画ができないかと考えたためです。

黒澤は了承し、完成部分の映画を見せましたが、フィルムは三船敏郎の菊千代が農家の屋根に登り、遠くの山陵から野武士の軍団が村めがけて駆け降りるのを見て「来やがった来やがった!」と叫ぶ場面でプツンと切れていました。

そこまでの映画の余りの面白さに我を忘れて見入っていた重役たちは「君、これの続きは?」と黒澤に問うたところ、「まだです。これから撮ります」との返事。こうして「終わりまで撮ってよし!」と撮影は続行したのです。

ところで初期の黒澤映画七不思議の一つに「台詞がよく聞き取れない」というものがあります。当時はマイクの質が低く、多くの映画は同時録音ではなくアフレコで台詞を入れていたのですが、黒澤はあくまで同録にこだわったからだと言います。アフレコで芝居の呼吸が変わるのが嫌だったのでしょう。

この映画も同様で、台詞は極めて聴き取りにくいです。ところが米国クライテリオン盤では音質が改善されて、台詞がハッキリ…ではないですが、意味が通る程度に聴こえるのです! 

たとえば『七人の侍』の前半の最後、侍が六人揃った宿に、グデングデンに酔っ払った菊千代(三船)がやってきてケンカになるというシーン。ここまで書けばもうお分かりでしょう、あのセリフの通らない三船が、単に怒るだけでなく「酔っ払って」いるんですよ! では、その部分を普通版のDVDでヒアリングしてみます。

「おんでぇーす? おでをなぐりゃーがったんでたあ? どめぇあ? むぐう、ごのぶれもん! ごうかいってやっかごれぁ? ごらあ! おう? へ、ばじがいねえ! ごんのづらぁぐめにもばすれねぇ! ごめ、ぞれでもさむれえかあ? ござあ、ごっみえてもちゃーんとじたざむれぇだあ!」

以上のセリフを普通のDVDで十回以上ヒアリングし、前後のシーンのつながりから判断した結果、ようやく次のような意味ではないかと思い至りました。

「俺を殴ったのは誰だ? おめえか、この無礼者! やるかこの野郎、こら! (ここで志村喬演じる勘兵衛に気が付く)おや? これは間違いない。このツラは夢にも忘れねえ。よくも〝お前はそれでもサムライか〟なんていいやがったな? 俺は、こう見えてもちゃんとしたサムライだ!」

普通のDVDなどではかように台詞が通らない映画なのですが、米国クライテリオン盤だと何とか「意味が通る」程度に聴こえるから不思議です。クライテリオンには音声調整の天才が勤務しているのではないでしょうか。

ちなみに黒澤映画の台詞の聞き取りにくさは公開当時からそう言われていて、「黒澤映画が日本よりも海外で高く評価されているのは、海外上映には字幕があるからだ」と言われていたと聞きます。

Amazonでもまだ販売していますが、新品価格だと現在6546円。ですが東宝が販売する正規盤を含めても、これまでに観たことのないような高画質高音質盤です。

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↑プライム・ビデオ「七人の侍」


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