00【いきなり番外編】烏賀陽弘道氏と「一月万冊」問題についての個人的見解

●おことわりとお詫び

この文章は、もともとTwitterでの、以下の烏賀陽弘道氏の私へのメンションの返答として書いたコメントである。

「私の世代にとっては「サルでもかけるマンガ教室」での相原コージとのコラボレーションで神格化されている竹熊健太郎さんも、一月万冊から本を出す話があり、番組出演の誘いが清水有高さんからあったと聞く。あれはどういう経緯だったのだろう?」
https://twitter.com/hirougaya/status/1420597608720916483?s=20

このツイート、実は烏賀陽氏と一月万冊の間に起きているトラブルについての私の見解を表明するきっかけとして、私から烏賀陽氏に「烏賀陽さんのTwitterで私に話題を振ってください」とお願いしたものだ。読者にとっては何の関係もないと思える竹熊が口を挟むきっかけが欲しかったのである。そして、くだんのツイートが書かれ、それへのリプライを私は書いたのだが、「一月万冊」出演者一同を最初に紹介したとき、一番の重要人物である烏賀陽弘道氏の名前を抜かしたまま文章を進めてしまい、それを烏賀陽氏から指摘されて気がつくという失態を演じた。本論に入る前だったが私のツイートはいったん削除して、頭を冷やしてから書き直すことにした。

いったん投稿したツイートは削除して再投稿する以外書き手が訂正できないというTwitterの仕様は、こういうデリケートな問題を含んだやりとりにはふさわしくない。改めてnoteへの投稿という形で、上記ツイートへの回答を書く次第である。烏賀陽氏には深くお詫びしたい。申し訳ありませんでした。

●私からの経過説明

さて、予備知識のない読者のために最低限の事情を私から説明する。

烏賀陽弘道(うがや・ひろみち)氏は元朝日新聞記者で、2003年に退職してからはフリー。ジャーナリストとしてだけではなく、カメラマンとしてのキャリアも長い。2011年3月11日の福島原発事故では、事故が判明した直後から福島入りし、現在まで一貫して福島事故とその影響についての取材報告をnoteなどで発表し続けている。詳しいプロフィールはWikipediaの烏賀陽弘道氏の項目をご覧いただきたい。

「一月万冊」は実業家で読書家の清水有高氏が主催するYouTube番組で、烏賀陽弘道氏を始め本間龍氏・安冨歩氏・佐藤章氏・今一生氏といったベテランの作家・大学教授・ジャーナリストを集めて毎日休みなく配信されている。それも一日に4〜5本、更新されているのである。私が同番組を見始めた2020年9月の時点では登録者が確か7〜8万人だったと思うが、その年の暮れには10万人を突破し、これを書いている2021年7月31日現在では15.7万人に達している。

もともとは読書好きのためのサイトだったが、烏賀陽氏の福島事故に関する話題や、本間龍氏の東京五輪が抱える問題点など時事テーマを扱っているうちにどんどん登録者数を伸ばし、今では時事・社会問題を扱う硬派な評論(一部報道)系YouTube動画としては、他を圧倒する人気番組だと言っていい。国会議員も見ているらしく、国会質疑内で「一月万冊」の動画内容が取り上げられたこともある。

私は昨年秋から番組を視聴し始めたが、「ブラックボランティア」の著者である本間龍氏が独自入手した五輪関係者の内部告発を報道し始めたあたりから、目が離せなくなった。一般マスコミは全く取り上げない情報だったからである。

以来、「一月万冊」を面白く視聴しているが、今年の3月26日を最後に、烏賀陽氏の出演が途絶えたので、不思議に思っていた。

それからしばらくして、清水氏が自費出版する予定だった烏賀陽氏の「メルトダウンまでの50年」復刊を巡り、両者の間でトラブルが起きていたことが判明した。トラブルの詳細については、Twitterの烏賀陽・清水双方のツイートを含むまとめサイトが公開されているので、ご一読をお願いしたい。

●烏賀陽弘道さん一月万冊の降板劇 → 烏賀陽さん逆襲!!(Togetterまとめ)https://togetter.com/li/1702834


●一月万冊への企画持ち込みについて

烏賀陽氏がお書きになった「清水氏から竹熊への、番組出演の誘い」があったことは、私が烏賀陽氏に話したことであり、事実である。

実はそれ以前に、私は清水有高氏に私の出版企画に関心があるかの打診メール(Facebookのメッセージ)を書いていた。

私は番組内で清水氏がたびたび口にされる出版界の現状認識、特に取次と流通システムの問題点などの話が、私のかねてからの持論と同じであり、具体的にこれを乗り越えるための出版活動を実践していることに注目した。

私が試しに購入したのは「一月万冊」の版元名で出された安冨歩氏の「複雑さを生きる」である。これは東京大学東洋文化研究所教授である安冨氏が2006年に岩波書店から刊行した著作の復刻で、初版の定価は税抜きで2200円だった。これを一月万冊では3万4000円で直販している(ただし著者の講演動画10時間分つき)わけだが、かねてから「本の価格は安すぎる」ということが私の持論であり、岩波版は現在絶版だが、古書として2万円を超えるプレミアが付いて取引されている。

また版元直販なので、購入者一人一人に本を発送する手間も馬鹿にならない。本は一種の情報商材であり、価格は本来、あってないようなものだ。

売り手が本の価値に値段をつけ、買い手が納得するなら、価格が何万しようが、商取引として成立する。日本の出版流通システムは「薄利多売」の前提で成立しているところがあり、価格は一定の抑えが効いているが、ひとたび古書になると、価格を安く売ろうが高く売ろうが売り手の自由。なので3万4千円という値段に私は驚かなかった。いつかはこういう版元が出るだろうと思っていたからである。

実を言うと、私も清水氏とほぼ同じ現状認識から、自分の企画で自費出版を考えていて、一般的な書籍流通を介さずにネット通販ができないかと漠然と考えていた。それとほとんど同じ考えを先に実践した人がいるわけだから、出版人として、強い興味を抱いたのである。

私が「一月万冊」に企画を持ち込んだ理由は、清水氏の出版理念に賛同したこともあるが、連日の動画配信で出演者の著作を紹介し、その本を確実に増刷まで持っていく「宣伝力」に舌を巻いたこともある。一月万冊から出す本の著者印税は30パーセントだそうで、通常の書籍の3倍以上。これを何万という値段で売るのだから、著作者からすれば、夢のような話だ。

その後、12月に入って私はFacebookで清水氏にメッセを送り、私が考えている書籍の企画を、一月万冊で出版する気はありますか、と打診した。清水氏から返事が来て、メッセで何度かやり取りした後、zoomで会話し、電話でも1回お話しした。清水氏は乗り気な様子で、「企画に入る前に、竹熊さんもぜひ一月万冊に出てください」と言われた。

私はしばらく出演依頼を待っていたが、連日、土日も含めて数本のYouTube動画を本人司会で収録・公開している清水氏は、私の想像を遙かに上回る多忙ぶりだった。こちらからメッセを送ると、なんと番組収録中に出演者と違う会話をしながら手元のキーボードで私への返事を書いてくるというアクロバットなコミュニケーションをしてくるので、私は恐縮し、連絡を控えたまま現在に至るというわけである。清水氏からの連絡は、それから一度も無い。

結局私は一月万冊から本を出すことを諦め、クラウドファンディングで資金を集める計画に切り替えた。この計画はいまも進行中である。

●企画持ち込みを断念した理由

ある日、私の企画に協力してくれているフリー編集者に「一月万冊」と清水有高氏の話をしたところ、彼は血相を変えて、「その人物と仕事するのは絶対に止めてください」と言われた。

清水氏は数年前に民事訴訟を起こされていて、元になった事件はマスコミで報道もされていた。そのためネットで炎上し、今もアンチサイトが多数存在している。私に忠告した彼は、それらを読んでいたのである。

そのことは、実は私も知ってはいた。しかし民事事件であること、裁判は結審していないこと、なにより烏賀陽氏を始め、本間・安冨・佐藤氏のような、実績も見識もある著者達の信頼を受けていることで、ネット内でのアンチの発言を簡単に鵜呑みにすることはできなかった。私も八年前にネットで炎上をやらかしたことがあり、そのときの経験から、ネットのアンチ発言はかなり割り引いて考えるクセがついていたからである。

しかし今年の春、烏賀陽氏が一月万冊に出演しなくなった後、自分一人でYouTube配信を始め、Twitterで一月万冊批判をし始めたことで、事態は一変した。私は烏賀陽氏に連絡をとり、詳しい事情を伺った。

清水氏が訴えられた民事裁判は係争中で、結審するまでは部外者としてこの件にコメントすることは控えたい。烏賀陽氏と清水氏のトラブルも同様、烏賀陽氏から事情は伺ったが、清水氏に取材したわけではないので、これも詳しいコメントは控えたい。が、公表された当事者からの情報から、ひとつだけ。

烏賀陽・清水両氏間のトラブルのはじめは、清水氏が番組内に弁護士で東京都知事候補者だった宇都宮健児氏を出演させたことを、烏賀陽氏が「特定の立場の政治家を出すことは、ジャーナリズムの公平性が失われる」と批判したことだった。

これについては私なりの意見があるが、烏賀陽氏の意見はジャーナリストの立場からの異議として、理解できる。

しかし本当に問題になっているのは、烏賀陽氏の旧著「メルトダウンまでの50年」の復刻を巡って、清水氏が予約注文とカンパを集めながら、本が3年間も出版されず、説明がないまま放置されていた、というところだ。当事者(著者)である烏賀陽氏がこの事実をネットで公表した。このことが露見してから、一部の高額出資者には返金が始まったらしいが、清水氏からの公式見解は発表されていない。この点だけは出版に携わる人間として、看過できないものがある。

私が烏賀陽氏の立場なら、清水氏に苦情を言うのは当然である。そしてお金を集めながら出版されず連絡もないのでは、購入者は困るだろう。この件については、ネット内に問題点を指摘するサイトや動画が多数あるが、私からこれ以上のコメントは、現段階では差し控える。何度も言うが、烏賀陽氏とは異なり、私は部外者だからである

ただ、一度は一月万冊の活動を認め、清水氏宛に出版の打診までしたわけだから、私も完全に無縁というわけでもない。私の計画は遠からず発表する予定で、高額な書籍をネットで販売するスキームは同じなので、早い段階で誤解が生まれる余地を潰しておきたいのである。念のため。私の計画は読者からのカンパは募らず、資金はクラウドファンディングで集める。(リターン品は商品そのもの)。私は零細ながらも会社をやっていて、計理担当者も税理士もいるので、金銭に関しては何の問題も起きぬよう、キッチリやる。


私のこの件についての意見は以上だ。私のこの文章に事実誤認や誤解が含まれているなら、公の文章として訂正する。と、いうことで私は、「一月万冊」については、今後関わることはないだろう。私の出版計画については、年末か年始のどちらかになると思うが、クラウドファンディングの開始とともに発表する。



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