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人事・給与制度に定石はあるのか? ~「伝習録」からの学び~

「コピー不可」という言葉の真意は?

前回の記事で、今後は陽明学を絡めた人事制度の改善について述べていきたいとお伝えしました。今回はその第1回目です。「福博えびす大学」で学んでいる内容をもとに、人事制度へのアプローチを語っていきたいと思います。
 
陽明学の祖である王陽明の言葉を書き記した書物「伝習録」の冒頭に、「徐愛の序」と呼ばれる一節があります。徐愛というのは王陽明の弟子で、伝習録を著した人なのですが、この徐愛の序は会社の経営改善にも通じる、含蓄のあるエピソードです。ざっくりと意訳すると、以下のようなことが書かれています。
 
王陽明が話す内容を門人の1人が書き留めていると、王陽明はそれをとがめた。理由が分からず戸惑う弟子に対し、王陽明はこのように説明した。
「医者は患者に対し、その人の病状をつぶさに観察して薬を処方する。目的は病を治すことであり、最初から薬を決めて処方するようなことはない。もし特定の薬に固執するようなことがあれば、それは患者にとって毒にもなろう」
 
「同じように私も、門人の諸君に合わせた話をしている。この意を解して、目的を達することができれば、もはや言葉自体も不要となることだろう。反面、私が伝えた言葉に固執してしまっては、誤った道をたどることになる」
 
つまり医学にも思想にも万能薬というものはなく、相手をしっかりと熟知して対峙しなければならないと説いたわけです。これが伝習録の冒頭に置かれているということからは、「この書物も万能薬ではありません」という徐愛の心遣いが感じられます。同時に、あえて書き残されているからこそ、私たちは陽明学という思想を知ることができるのです。 
 

経営改善にも「万能薬」はない!


ここまで述べたエピソードは、会社の経営改善についても、当てはめることができます。
 
社労士の中には、時代のトップランナーや先達の言葉をそのまま鵜呑みにして、特定の手法や考え方を万能薬のように様々な会社で使おうとする人もいます。私も駆け出しの頃は、そのようなミスをしたものでした。
 
もちろん、その手法が成果を上げることもあります。新しい考え方や手法は瞬発力があるからです。しかし、万能薬の効き目は薄いのが世の常で、やがて改善は行き詰まります。手法のコピーをしただけでは、問題の本質を治すことは難しいのです。
 
こうしたケースの典型といえる事例を、私も取り扱ったことがあります。それは、ある不動産会社からの「歩合給制度を取り入れたが、業績が落ちてしまった」という相談でした。
この問題で、どこに落とし穴があったのか、どうすれば良かったのか、詳しくは次回以降で語っていきたいと思います。