コント・リコーダー

◯女子高校生の山本ハルカ(15)が放課後の廊下を歩いている。
◯教室前の廊下のロッカーを開けて忘れ物を手に取る。
◯ふと、教室に耳をすますとリコーダーの音色が聞こえる。
◯ハルカがそっとドアを開けてみると、クラスメイトの男子・田中ケンジ(15)がリコーダーを奏でている。
◯ケンジがハルカに気づく。

ケンジ「うああ!?や、山本さん…」
ハルカ「…リコーダーの練習?田中君結構上手いんだね。知らなかった」
ケンジ「…いや、その」
ハルカ「あ、邪魔してごめん。…あれ、そのリコーダー……きゃあああ!?それ、私のだよね…?!」
ケンジ「違う。これには訳があって」
ハルカ「田中君最低。隠れてこんなことやってたんだ。みんなにバラしてやるから」
ケンジ「違うんだよ。僕はただ、山本さんのリコーダーを舐めたかっただけなんだ」
ハルカ「それが気持ち悪いって言ってんのよ!ほんと気持ち悪い!」
ケンジ「待ってよハルカ!」
ハルカ「下の名前で呼んでんじゃないわよ!」
ケンジ「ごめんなさい!いつも想像ではそう呼んでたから」
ハルカ「あー気持ち悪い!本当に気持ち悪い!」
◯そこへ、ベートーベンのような白髪のおじさんがやって来る。
おじさん「……。あれ、たしかこの教室から聞こえたような…。君たち、リコーダーの音が聞こえなかったかい?」
ハルカ「…え、誰ですか?」
おじさん「ああ、私は新しくこの学校に赴任してきた先生だけど」
ハルカ「先生なんですか?!じゃあ、聞いてください。コイツ、私のリコーダーを勝手に吹いていたんです!」
おじさん「何?!じゃあさっきの音色は君が?!」
ケンジ「違うんです!吹くつもりはなかったんです。ただ、気分が高揚して気づいたら音を奏でてたんです」
ハルカ「舐めたのか吹いたのかの問題じゃないのよ!本当に気持ちわるい!先生、コイツどうにかしてください」
おじさん「そうするしかなさそうだ。もったいない。こんな才能がこんな学校にいるなんてもったいない」
ハルカ「…は??」
おじさん「君、リコーダーの才能があるよ。私の元で学んでみないか?」
ケンジ「どうゆうことですか?」
おじさん「私はね、ただの音楽教師ではなく世界的に認められている音楽指導のプロフェッショナルなんだよ」
ケンジ「あなたが?」
おじさん「もう一度私の前で吹いてみてくれないか?」
ケンジ「まあ、いいですけど」
ハルカ「勝手に何言ってんの!私のリコーダーはとにかく返して!」
ケンジ「いや、でも、これじゃないと僕の本気が出せないんだ」
ハルカ「うるさい!返せ!」
おじさん「勝手な真似をするな女!」
ハルカ「何言ってんの?!」
おじさん「彼は将来日本を背負って立つ男なんだぞ!リコーダー舐められたぐらいでなんだ!このリコーダーは将来、とんでもない価値になるかもしれないんだ!そうしたらその金で好きなだけリコーダー買えばいいだろ!」
ハルカ「よくないわ!大体コイツが有名になれる訳ないじゃない!あんたが世界的に認められてるってのも嘘に決まってる!」
おじさん「あー、酷いこと言った!お前みたいな小娘に音楽がわかってたまるか!さっさと去れ!去れー!」
◯ハルカとおじさんが言い合いになっていく。
◯ケンジ、2人を止めようとするが出来ない。仕方なくリコーダーで一曲奏でる。
◯ハルカとおじさん、言い合いをやめる。
◯一曲奏で終えると、3人とも静かになっている。
ケンジ「……喧嘩はやめてください」
おじさん「……ごめん」
ハルカ「……クソーーーー!!あんたリコーダー上手いよ!すげえ気持ち悪いのに、すげえ上手いよ!ちくしょー!ちくしょー!!」
◯ハルカ、うずくまって泣く。
◯ケンジ、ハルカの肩を抱く。
◯リコーダーは地面に置く。
ケンジ「…ハルカ!」
ハルカ「やめろ!気持ち悪い!」
ケンジ「ダメかあ…」
◯おじさん、リコーダー拾う。
おじさん「私も昔はリコーダーの神童と言われたものだよ。君は昔の私にそっくりだ。あの頃を思い出すよ」
◯おじさん、勝手にリコーダーで一曲奏で始める。
ケンジ「ちょっと!!何してくれてんだよ!!うああああ!ハルカのリコーダーが汚されてくーーーー!!!」
◯ケンジ、気を失ってハルカの上にのしかかる。
ハルカ「いやああ?!もういやーーー!!!」
◯ハルカも気を失う。
◯おじさんの曲が流れながら暗転

《暗転》

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