コント・母親のカレー

◯カップルで同棲している2人の部屋のリビング
◯タケシは座っている。カナコは鍋でカレーを作っている。

タケシ「…悪いな。…いきなりカレーなんて作ってもらってさ。どっか外で食べてこれば良かったんだけど」
カナコ「いいのいいの。私が作りたいって言ったんだから。美味しいの作ってるから、ちょっと待っててね」
タケシ「…うち幼い頃に父親がどっかの女と駆け落ちしてさ、母ちゃんが女手一人で育ててくれたんだ。もの凄い貧しい暮らしだったよ」
カナコ「…うん」
タケシ「周りの友達が新品の自転車に乗ってる中、俺1人だけその後ろを追って走ってるぐらい貧乏だったんだ」
カナコ「うん」
タケシ「周りの友達にも馬鹿にされて悔しい思いもしたんだ。でもさ、夕方トボトボ歩いて帰ると、家の中からカレーの匂いがする時があるんだよ。そん時は嬉しくてさ。母ちゃんと2人で食べるカレーが旨かったんだ…」
カナコ「…うん」
タケシ「…でも、母ちゃん朝から晩まで働き過ぎて体壊しちゃって、俺が高校生の時に死んじゃったんだ」

◯タケシ、堪えきれずに泣く。
◯カナコ、タケシの背中をさする。

タケシ「…ごめん。つい思い出して。…今日がちょうどそれから10年の節目なんだ」
カナコ「お母さんのこと、大好きだったんだね」
タケシ「えへへ。…だからさ、俺すごい嬉しいんだよ?カナコが今日カレー作ってくれてさ」
カナコ「よし、張り切っちゃうぞ!タケシのお母さん程上手くは作れないかもしれないけど。笑」
タケシ「そんなことないよ。それに、その心遣いが嬉しいんだよ」
カナコ「…うん」
タケシ「…母ちゃん。…俺、こんなに思いやりのある彼女がいて幸せだよ」
カナコ「…タケシ」
タケシ「本当だよ。カナコ、いつもありがとう」
カナコ「やめてよ。照れるじゃん」
タケシ「だって本当だもん」
カナコ「はいはい。ほら、そんなこと言ってるうちにカレー出来たよ」
タケシ「おお、スプーン出すね」
カナコ「お願い」

◯カナコ、カレーを皿に盛る。
◯タケシとカナコ、席につく。

カナコ「よし、食べよっ!」
タケシ「…カナコ、このカレー」
カナコ「え?どうかした?」
タケシ「このカレー、グリーンカレーだよね?」
カナコ「そうだけど?上手く作れたかどうか自信ないなぁ。笑」
タケシ「あ、ああ、そうじゃなくて」
カナコ「いただきます!」
タケシ「いただきます…」

◯タケシ、カレーを食べる。

カナコ「…どう?」
タケシ「え?どうって?」
カナコ「味だよ味」
タケシ「…うん。…美味しいよ」
カナコ「本当に?良かったーー!」

◯立ち上がるタケシ。

カナコ「?!どうしたの突然?!」
タケシ「…違うんだよ。…なんか違うんだよ!」
カナコ「え?美味しくなかった?」
タケシ「美味しいよ。めちゃくちゃ美味しいよ。でもさ、母ちゃんのカレーはグリーンカレーじゃなかった!至ってごく普通のカレーだった!」
カナコ「…一生懸命作ったのに。…私なりに精一杯、あなたのお母さんの味を再現しようと頑張ったのに!」

◯カナコ、泣く。

タケシ「…ごめん。そうゆうつもりじゃなかったんだ」
カナコ「(泣いている)」
タケシ「…ちょっと気が動転しちゃっただけなんだ。あまりにも自分の予想外の事が起きたから驚いてるだけなんだ。カナコを責めてるわけじゃないんだよ」
カナコ「…ほんとに?」
タケシ「ほんとほんと。まさかグリーンでくると思わなくてね」
カナコ「そう。ならいいんだけど」
タケシ「いきなり怒鳴って悪かった。カナコの実家では、お母さんの作るカレーがグリーンカレーなのか?」
カナコ「ううん。普通のカレーだよ」
タケシ「普通のカレーか。…そっか。じゃあ、なんでグリーンカレー作ったんだよ!」

◯タケシ、怒って立ち上がる。

カナコ「なんで怒鳴るの?!」
タケシ「納得いかないんだよ!」
カナコ「(泣きながら)やっぱり美味しくなかったんだ!」
タケシ「美味しいよ!めちゃくちゃ美味しいよ!」
カナコ「じゃあなんで怒鳴るのよ!」
タケシ「母ちゃんのカレーの再現してくれるって言ってくれたじゃん!なんでグリーンカレー作るんだよ!おかしいだろ!」
カナコ「ちょっと緑が入っただけじゃない!」
タケシ「料理ごと変わってんだよ!カレーとグリーンカレーっは全くの別料理なんだよ!お洒落過ぎんだよ!もっと庶民的なのがいいんだよ!」
カナコ「うるさい!!私はあなたのお母さんじゃないもん!」
タケシ「…それは知ってるよ。それを言っちゃあおしまいよ。…俺の母ちゃんの味を再現してくれるって言ってくれたから…」
カナコ「それにも限度があるっての!」
タケシ「…えぇ〜…。…でもグリーンカレーって…」
カナコ「食べないなら捨てるよ!どうする!食べる?!食べない?!」
タケシ「食べるよ。食べます。ごめんなさい」
カナコ「全くもう」

◯2人、カレーを食べる。

タケシ「やっぱりコレはコレで美味しいね」
カナコ「…そうでしょ?…家族ってこんな感じだよね」

◯2人とも笑う。

タケシ「うん」

《完》

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