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愛猫よ安らかに

愛猫がつい先程、息を引き取った。来月で14歳になるね、と話していた矢先だった。体調不良から数日のことであまり実感がないが、その数日はずっと愛猫のことを考えることができたから、不安に押しつぶされずに送ることができた気がする。

ただ、何かしないと落ち着かないので愛猫との思い出を書いてみることにする。

愛猫は当時の職場の同僚から譲ってもらった猫だ。その方の家はまさに猫屋敷で、すでに30匹超の猫が暮らしており、そこに9匹子猫が生まれてしまった、さすがに40匹は飼えないからもらってくれないか?と言われたのだ。口車に乗せられ、まずは見においでよと誘われたのがきっかけだった。

母猫は三姉妹、父猫は1匹でその三姉妹を孕ませたそうで、なんとも言い難いカオスな展開だな…と複雑な気持ちになったが、父猫も母親もそれはそれはきれいな猫だった。そこに無邪気に遊ぶ子猫の可愛さたるや、神々しさまで感じられ、とにかくきれいで小さくて、飼いたい!けど私らにできるのか…と、生き物を飼う責任との葛藤があったものの、思わず「じゃあ1匹なら…」と言ってしまったほどだった。

見学に行った翌週には、初めて買ったケージと、手土産の小玉スイカを持参して、子猫をもらいに行った。ちょうど梅雨終わりの夏の手前でうっすら暑く、駅でワクワクしながら同僚の迎えの車を待ったのを今でも覚えている。小玉スイカが出る季節になるといつも思い出す。

5月生まれの子猫を7月に譲り受けるのはまだ早いのでは…と、母猫から引き離すのはかわいそうでもあったが「それなら2匹なら寂しくないよ」「1匹でも2匹でも変わらないよ」と上手いことを言われ、なんやかんやで兄弟2匹をもらうハメになってしまったのだった。

はじめは難色を示していた夫の膝にちょこんと座り、夫を魅了した愛猫たちは賢かった。夫は猫にメロメロになり「一緒に暮らしていただいている」と言うくらい立派な愛猫家になった。

足だけ白くて足袋を履いているみたいだから「たび」と名付けた。もう1匹は秋のような色合いだから「あき」。どちらもとてつもなく優しくて穏やかだ。

それから今まで、いろんなことがあってどれも楽しかった。喉をゴロゴロいわす音がこんなに大きいとは知らず、病気かと思い動物病院にかけこんだり、猫雑誌の取材を受けたりもした。フリーズドライのササミが大好物で、ねずみのおもちゃでジャレて遊んだ。床暖房で野性味なく伸びる姿に笑ってしまったり、すぐ膝に乗ってきてはゴロゴロいって、アイスやケーキを食べてるとすかさず寄ってきては一緒に食べたり、テレビを見たりした。楽しかった。

猫は柔らかな毛に顔を埋めると、干した布団みたいないい匂いがすることも教えてくれた。

私に息子が生まれたときも、赤ちゃんに添い寝して立派なお兄さんをしてくれたし、私が体調不良なときは何かわかるのか、そっと来てくれた。月並みな言い方だけど、愛猫は大事な家族だ。ずっと一緒に過ごせるものだと思っていた。

たびちゃんが急に嘔吐と下痢をし始め、それからはあっという間だった。最期は家で、夫と私とで撫でながら看取った。あきちゃんもさりげなくそばに来ていた。大好き、うちに来てくれてありがとうとたくさん伝えた。どんなときもかわいかった。

死は平等に訪れるというけど、いつかは来るとはわかっていたけど、もう少し一緒にいたかった。今だってスヤスヤ眠っているみたいに見える。どうしたって辛い。悲しい。

本当に最後まで頑張った、強くて美しい子。立派だった。本当に本当にありがとう。先に行って待っててね。たびちゃんに出会えて幸せでした。ありがとう。ありがとう。どうか安らかに。




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