8.二つ首の龍

 中禅寺バスターミナルに戻りプラプラしていると、何やら近くに戦場ヶ原なるものがあるらしく、戦士たちの弔いも兼ねて行ってみることにする。
 ただ、これ以上タイソンの電力を割くことは、昨夜の「携帯充電切れ遭難事件」をも超える大惨事を引き起こすことになる。そのため、ここからバス移動とする。
 「あなたの良いところは失敗から学ぶところよ」と幼い頃は母によく言われていたものである。

 15分ほどバスに乗り、赤沼というバス停で降りると戦場ヶ原の看板が出ていた。私は「ヶ原」というくらいだからひらけた原っぱを想像していたが、実際には見渡す限りの森であった。
 戦場ヶ原の森はハイキングコースになっており、川のほとりに小さな遊歩道があった。少し歩いて見ると、白樺や無名の木が立ち並び、川はとてつもない透明度で、まさに清流という感じである。歩いていると突如空へと続く白い階段が現れ、登った先には三途の川。なんてことが日常的に起こっていそうなくらい気持ちの良いの森である。


 15分ほど歩いた先に、「この先2.0km龍頭の滝(りゅうずうのたき)」という看板が出て来た。龍頭の滝。素晴らしくカッコいい名前ではないか。「めっちゃかっけえ」の期待も高まる。日没までは1時間30分ほどあるし、行って見ることにした。

 極楽のような気持ちよさの遊歩道を30分ほど歩いたら急に川の流れが早くなり、控えめな落差の滝が先へ先へと連なっていた。もう少し進むと滝の段々がどんどん急になり、最終的に二股に分かれ勢いよく滝壺に落ちて行った。
 龍頭の滝はキングギドラ的な二つ首の龍なのであった。

 そして、華厳の滝のような急転直下の滝ではなく、龍頭の滝は長いこと滝になっているのである。滝の壮大さや迫力ではなく、自然の繊細さを感じる非常に素晴らしい滝であった。
 ふと疑問に思う。滝の定義とはどうなっているのか。もし、水が地面から離れる部分だけが滝という定義なのであれば、いくら何でも龍頭の滝を軽んじている気がする。
 しかし、川の水の勢いが増してからが滝です。と言われてもなんとなくしっくりこない。まあその辺の疑問に関して、私は疑問のまま終わらせても充分すっきりした気持ちで居られるので、そっとしておくことにする。

 なににせよ、「めっちゃかっけえ」であった。


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