5.騙し上手の宇都宮

 宇都宮駅につき、宿泊先のホテルの名前も覚えていなかったため、ひとまず充電のために立ち寄ったタリーズに立ち寄った。
 入店し席に着き、辺りを見渡してもお手洗いがないため店員さんに尋ねたところ、トイレまで先導案内してくれるとのこと。
 もし、都内でそんなことをやられたら時には、「場所だけ教えんかいあほんだら」と声を荒げたかもしれないが、ここは栃木である。「郷に入れば郷に従え」を重んじる私はガラガラの店内を大人しく先導された。入り口付近にお手洗いはあり、店員さんが男性トイレの押し扉を紳士的に開け、「ごゆっくりどうぞ」と。私が催したのは小である。危うく声を荒げそうになったのであった。

 充電が10%になった所で私はそそくさと退店し、タクシーを捕まえて美味しい餃子のお店に連れて行って欲しいと伝えた。
 タクシーの運ちゃんオススメの餃子屋に到着した。店名は忘れてしまったのだが、大衆居酒屋のようなお店で人気餃子3種盛りみたいなものとビールを注文した。ひどく疲れていたのでビールが身体に行き渡るには1杯では足りず、餃子が届くまでに2杯飲んだ。
 ほどなく餃子が到着し食べてみたのだが、さほど美味しくはない。不味くはないのだが美味しくはない。そもそも餃子にめちゃくちゃうまいなんてあるのか疑問に思い始めた。
 ここの餃子より王将の餃子の方がわたし的には美味しいのだが、王将の餃子がめちゃくちゃにうまいかというとそうではない。
 しかし、わたしには王将の餃子以上にうまい餃子を想像することはできないし、王将こそが餃子の行き止まりである。だがそれで結論付けるのはなんだか腑に落ちない。
 わたしの見解だが、王将の餃子はめちゃくちゃうまい。だが、あまりに庶民的で我々は普通に食べ過ぎているがために脳がそれこそが餃子の味と格付けを見誤ったのである。
 嗚呼王将よ、君はなんと哀れな将なの。天下をとるべきは君だったのではないか。
 等々、高尚な考察をしつつ、神妙な面持ちで餃子をもぐもぐしていた。結局のところ、餃子はビールに抜群ということには変わりないので、餃子のおかわりまでしてしまい、幾分酔っ払ってしまった。

 タクシーでホテルに向かい、チェックインを済ませ部屋に入った。いたって普通のビジネスホテルである。
 部屋で地酒を嗜みながら、今日の道程を思い返した。不思議なことに脳裏に現れるのは煌(きら)びやかなブロンドヘアー、スラリと背が高く、パッチリお目々にシュッとした鼻。今日幾度もすれ違った外国人旅行者である。
 外国の女性は如何にこうも美しいのであろうか。皆モデルのような出で立ちではないか。それでいて気取った風でもなく、不思議な国日本を心から満喫してくれているかのような笑顔。彼女たちのうねったブロンドヘアーを指で梳(と)かしたい。
 いやいけない。こんな心持ちでは、明日に控える華厳の滝(けごんのたき)を全身全霊で感じることはできない。
 観瀑台に溢れるブロンドヘアーを目で追いかけまわし、華厳の滝を見た彼女たちがどんなに愛らしい反応をするのかを観察することになってしまう。
 大問題である。私は華厳の滝を見るために日光まではるばる来たわけで、自然の雄大さ、迫力に充分感動した後は、華厳の滝を目前に今後の身の振り方を考えたり、心に蔓延る小さな悪を全て洗い流す等の旅人がしそうなことをする予定なのだ。
 しかし、現状の心持ちでは充分なパフォーマンスが発揮できそうにもない。どうにか解決しなければならない問題である。私も赤い血の流れた男性である以上、美しい女性に好意を寄せることは何ら悪い感情ではなく、むしろその気持ちを抑圧くることこそが悪なのである。

 かくして私は西洋の女性を派遣してくれるというお店に連絡をし、訪ねて来た艶(つや)やかな中国人女性と60分の甘美な時間を過ごした。

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