開かない饅頭屋

あかない饅頭屋

              胡桃

枇杷の木が枯れた

饅頭屋の前に植えられた枇杷の木

冬に小さな米粒のような花を咲かせる

去年の夏から枇杷の葉が枯れだした

ガラス戸にひかれた白いカーテンはあかない

 

店はときどきあいていた

その間隔がとおくなる

 

クリスマスにはケーキを売った

いかにも手作り風で笑ってしまうケーキ

なかに餡子がはいっているのではと

どきどきしてナイフをいれたが、餡子はなかった

 

正月前には餡子を売った

楽しみにしているのは歳末ロールケーキ

どんと大きなロールケーキが千円

箱根駅伝をみながらおやつに食べるのが

わがやの習わしであった

 

いつも白い上着に白いエプロンの店主

饅頭屋なのにカステラを焼くのが上手

ときどき店の前にたたずんでいる人がいる

なにか張り紙でも探しているのかも

 

閉店の張り紙はないけれど

枇杷の木が本格的に枯れてしまって

これはだめなのか でもあきらめきれない

春にはあくのではないかと待っている

 

古い店や家が取り壊され

あたらしいカフェや駐車場になる

昔ねここに饅頭屋があったんだよ

饅頭屋だけどロールケーキが美味しかった

わたしは生きているあいだ語り

お母さん また同じことを言っているよと

笑われるだろう


※2023年2月14日 岩手日報掲載

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