しとねる


粉に
少しずつ水をしみこませ
しとねていく
ぱさぱさな粉が
耳たぶぐらいの固さに
まとまる
 
この手は
しとねることができる
手にしかできないこと
子のため孫のため
しとねつづけた
 
まっ白い粉が
かんたんに手に入る
いい時代になったね
疎開したこの白い国
東京にいた母は焼け死に
父は南の島から帰らなかった
 
そのまま白い国で
畑を耕し牛を飼いお米をつくって
暮らした
食べ物をつくることに
こだわった
飢えるのは
怖いこと
あのときの飢えが身にのこる
 ただ飢えさせないことを考え
育ててきた子どもたち
 
飢えが怖かったけど、
ありあまる食べ物がいまは
怖いのかもしれない
 いい時代をつくったのだろうか
しとねるしとねる
白い国で白い粉で
 
 
 

※2019年11月12日岩手日報掲載

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