ばっちゃん

雨があがる
丘のうえの畑にきて
まわりの山や牧草地を見わたす
「雨のあとは、みどりがきれいだな」
とつぶやく
いつも畑にすわって草をぬいている
通りかかると
キュウリをもぎ、大根をぬいて
「けっから」という
ばっちゃんが娘のとき
友達と二人で町へいった
遊びすぎて帰りが遅くなり山道は暗くなった
まだ、道路などなかった
大きな木の下で、友達とひとばんすごした
歌をうたいながら、はげましあった
娘の顔で、ばっちゃんは話す
ばっちゃんと大きなリュックを背負い
山奥にフキをとりにいった
ばっちゃんはときどき
「ホッーホッー」と声をあげる
熊よけのためだったのか
二人でおむすびを食べていたら
放牧の馬にかこまれた
馬の目はやさしいけどこわい
ばっちゃんは平気でたべている
山のくらしのなかで
たくわえられた知恵
「藤の花が咲いたら豆をまけ」
毎年季節はめぐり
毎年わたしたちは同じ会話をする
それは続くもただのだと思っていた
ばっちゃんは逝ってしまった
なくしてしまった大きさに
あとから気がつく
ばっちゃんは、娘となって
山をかけまわっている
「ホッーホッー」
こだまする
 
 
 
※ 2018年7月23日岩手日報掲載
 
 
 
 
 

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