竈神


古い曲がり屋のくらがりに
にらみをきかす神がいた
竈の火の神
台所の神様だ
朝も暗いうちにおんなが竈に火をつける
家族が起きる前から
凍える土間にたつ
米が少なければ芋を入れる
芋もなければうすいうすいお粥
生まれた子を流さなくてはいけなかった
これ以上飯食うものはいらないと
大黒柱がいった
竈に薪をくべながら
女は泣いた
竈神はむっと口をむすんで涙をこらえた
竈神が口をへの字にして耐えているのは
おんなたちの涙をみてきたから
みるだけで、何もできずに
この家が食べて行けるように
祈るしかできなかった
 
南部曲がり屋を見学しながら
孫の紗季にこんな作り話をしてみた
紗季はいう
「わたしはね、結婚しないから大丈夫」
そうなの
「好きなパートナーと暮らすのはありかな」
この子たちは大黒柱なんてへし折ることだろう
未来は明るい
 

※2022年10月10日 岩手日報掲載

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