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【ちおこ】2023年9月【活動報告】

 暑い夏もいよいよ終わり、9月、秋が始まりましたね。涼しく過ごしやすい時期に差し掛かりました。皆さんお久しぶりです。松橋かけるです。この文章を書いたのは9月下旬。写真追加したり本文校正したりしたのが10月下旬。それくらい10月忙しいです。遅くなってすみません。
 秋はきのこの本格シーズンもスタートしたということで、けっこう長めの報告もとい雑談になります。最後までお付き合いいただけますと幸いです。

【解体】

 まずは解体についてですが、今月は精肉のきれいさ重視でがんばる目標のもと、日々の解体業務に専念しました。せっかくなのであらためて鹿肉の部位紹介とあわせて解体のポイントなんかをお話しできればと思います。

〇カタ
 トレイ左上の部位はカタ肉になります。鹿の前脚ですね。筋肉質な肉で、上質な旨味がぎゅっと凝縮された部位になります。焼くというよりは煮込むほうが美味しい部位です。さらに細かく分けると、「サンカク」「シカク」「スジ」「カタ加工」の4つの部位があります。 この部位の解体は、脱骨の綺麗さとスジや脂を残さない丁寧さが重要です。最近解体手順を自分なりに変更して、肩甲骨を「外す」ようになりました。以前は肩甲骨から「削ぐ」ように刃を入れていたところを、要所だけ刃を入れてから手で引っ張って外すようにしました。こうするメリットは大きく2つあって、一つが肩甲骨に肉が残らないこと。もう一つが脱骨後の肉に刃痕が残らないことです。比べてみるとこんな感じ。
〇ヒレ
 トレイの中の細長いお肉はヒレ肉になります。成獣個体からでも200g程度しか取れない希少部位です。この部位は、とにかく背骨から外すときに骨側に肉が残らないようにするのが大切です。ただしカタとは違い、手で引っ張って外そうとすると肉がちぎれてしまうくらい柔らかいため、包丁の刃先を使いながら慎重に脱骨するのが大切です。圧倒的な柔らかさで、揚げ物にすると格別なおいしさです。
〇ロース
 背骨にくっついている、鹿肉の中で一番大きなお肉です。トレイ左下です。脱骨の際は、背骨の関節部分がコブになっているため、上手くよけながら外す必要があります。また、丁寧に脱骨するほど、肉の方に膜がついてくるため、精肉にする際の膜すきが重要になります。ちなみに牛肉の「サーロイン」も「リブロース」も、同じロースになります。違いとしてはモモに近いほうがサーロイン、肩寄りの方がリブロースといった感じです。薄く切って焼き肉などにもってこいの部位ですね。
〇アバラ
 あばら骨がついているお肉です。※写真中にはありません。MOMIJIでは骨つきの状態で提供します。裁断する際にのこぎりを使うため、骨粉や肉片が残らないようにキッチンペーパー等で丁寧にふき取ります。また、骨が折れてしまうと角が立つため、極力のこぎりで最後まで切るように骨を支えながら切り進める必要があります。食べる際は骨ごと長時間煮込んでからかぶりついてみてください。僕のおすすめはコーラやジンジャーエールなどの炭酸ジュース煮込みです。
〇モモ
 後ろ脚の部位です。最も肉量が取れる部位で、細かく分けると「内モモ」「外モモ」「シンタマ」「ヒレモドキ」「ランプ」「スジ」があります。まな板の上に並んでいるお肉です。それぞれの部位できれいに見せるためのコツが違いますが、内モモと外モモは膜を取って200g程度のブロックに精肉加工することが出来ます。脂や膜を残さず、「豆腐のような」きれいな四角いブロックを目指します。膜をひくときの方法として、これまでは「順手押し出し」でやっていましたが、最近は「逆手引き抜き」で膜を取るようになりました。これには一長一短あって、逆手の方が余計な力をかけずに肉をきれいに魅せることができます。ただし、順手よりも膜についてくる肉量が少し多くなるため乱用は厳禁です。 モモは万能部位です。焼いてよし、煮込んでよし、揚げてよし、蒸したことはまだないですが多分よし。ぜひお得意の料理に合わせて調理してみてほしい部位です。
〇チョップ
 ロースにあえてあばら骨を付けた部位。バンビのような小さな個体を解体する際に作ります。トレイにある扇のように並んだお肉です。見た目に獣肉感が増します。アバラ同様、骨粉が残らないように注意しつつ、ロースの膜を一つ一つ丁寧にとっていきます。完成した肉はきれいに盛り付けるところまでがプロの技です。GBQ(ジビエバーベキュー)するときにはぜひ添えたいお肉です。(余談ですが、GBQについての記事がつい最近完成したので、よろしければぜひこちらからお読みいただければと思います。)
〇切り落とし
 ここまで紹介してきたお肉を切っていると、どうしても端の部分や見栄えのために切り落としてしまう部分が発生します。そういった部分のお肉は捨てるのではなく、「切り落とし」としてパックします。豚肉とかでよく聞く「バラ肉」は、MOMIJIでは作りません。脂をすいて肉量が取れない関係で、部位としては売り出しませんが、切り落としとしてパックされています。ひと口大にカットして煮込み料理等でお使いいただければありがたいです。

 さて、ここまで本格的な鹿肉の部位紹介をしたのは初めてでしたね。ここまでで約2,000文字、普段の報告ならこれくらいの文字数で終わるところですね。ただ9月はまだまだ書きたいことだらけなのであともう6,000文字くらいお付き合いいただきたいのですがよろしいでしょうか。ありがとうございます。それでは次に参ります。

【キノコ狩り】

 涼しくなってきて、山もいよいよキノコシーズンに突入しました。この時期の本命はもちろん「マツタケ」ではあるんですが、せっかくなので他のきのこについても軽く紹介しながら、秋のキノコ狩りを楽しんでいただきたいと思います。まずはマツタケを目指して入る赤松林によく生えるキノコからです。
〇チチタケ
 漢字で書くと「乳茸」。文字通り、傷ついた部分から白い乳液が出てくるキノコです。乳液はねばつくため、できれば小さめできれいな状態の幼菌を狙いたいところです。感覚的に、例年よりも多いような気がします。和風の味付けで汁多めで炒めると、粘り気と一緒に旨味が出てきて最高です。
〇ヤマドリタケモドキ
 海外だと「ポルチーニ」と呼ばれる「ヤマドリタケ」の近縁種。日本に生えているのはほとんどが「モドキ」のほうです。バターといっしょに火を通してからお召し上がりください。めっちゃおいしいです。
〇アカヤマドリ
 こちらは「赤いヤマドリタケ」です。ヤマドリタケモドキの近くにいることが多いやつです。大きくて赤いひび割れた感じが、山の中でもすさまじい存在感を放ちます。夏から生えるキノコなんですが、今年は少し遅めな気がします。

でかくて赤くて存在感があります。

〇オニイグチ
 いかつい見た目ですがちゃんと食べられるキノコです。ヤマドリタケのような傘の裏がスポンジっぽくなっているキノコは「イグチ」の仲間です。オニイグチも傘の裏はスポンジ状です。ぱっと見とのギャップがかわいいキノコですね。
〇アンズタケ
 海外では有名な食用キノコ。黄色くて丸くない傘の形が特徴的です。「アンズタケ」というくらいですから、アンズのようなにおいがする。らしいですが、僕は匂いのするアンズタケに会ったことが無いし、そもそもアンズのにおいがいまいちピンとこない(笑) 海外のアンズタケはしっかり匂いがするそうです。毒抜きのため【ゆでこぼしてからでないと食べられない】ことに注意が必要です。
〇ハナビラタケ
 松の根元に生えていることがある、けっこう珍しいキノコです。去年は見つけられなかったので今年見つけられてテンションが跳ね上がりました。耳なじみのある「マイタケ」と近い種で、マイタケはナラの木に生えますがこちらは赤松の木に生えるいわば「松に生える版のマイタケ」です。見た目の綺麗さ、食感、味すべてで高得点の優秀なキノコです。

花束のような見た目のキノコです。

〇マツタケ
 言わずと知れた高級キノコですね。赤松の根から生えます。マツタケ採りをするようになってようやくわかったことですが、「根から生える」=「近くに生える」ではないんです。赤松林から少し外れた雑木林の中にも生えてます。これを意識するようになってからマツタケを見つける頻度が段違いに増えました。香りが良く炊き込みご飯やお吸い物などにもってこいのきのこですね。

〇コウタケ
 このきのこ、赤松林を中心に見られるはずなのですが、昨年は採れませんでした。今年に入ってようやく生える場所を見つけることが出来ました。それくらい珍しい高級キノコ。そもそも成塾が早くて一年に1週間程度しか状態のいいものが採れないといわれています。コウタケには特有の香りがあり、乾燥させるとこの香りがさらに強くなる特徴があります。マツタケと同じく炊き込みご飯等でおいしく召し上がれます。ちなみに、地元では「シシタケ」と呼ばれていました。シシタケとコウタケは別種とする方が主流ですが、阿仁でシシタケならシシタケでいいかな。

 ここまで松林によく生えているキノコを紹介してきました。せっかくなので、松林以外で見られるキノコたちも軽く紹介します。

〇ブナハリタケ
 枯れ木や倒木から生えている白いやつ。裏がとげっぽいのが特徴です。独特の甘いにおいがする、白く群生するなど、山でよく目立つキノコです。食感も味もしっかりしているキノコで、細かく切って炊き込みご飯にしてもおいしくいただけます。
〇ナラタケ
 ポリポリした食感が特徴的な枯れ木や倒木から生えるキノコ。僕の地元の秋田県では「サワモダシ」と呼ばれていました。大槌では「ボリメキ」の愛称で親しまれているようですね。ちなみに、このナラタケはキノコソムリエ試験で出題されてました。懐かしい。
〇ヌメリスギタケモドキ
 こちらも枯れ木や倒木に生えていることが多いです。黄色がかった茶色でそばかすのような感じの「▼」模様がついています。似ているものでぬめりの無い「スギタケモドキ」は毒があって食べられません(昔は食べてたらしいけど)。ぬめりがあるか触って確認することが大切です。感覚的には、「▼」模様の密度も違う気がしますが、僕は判別に自信がなくて食べたことはありません。
〇カバノアナタケ
 外国では「チャーガ」なんて呼ばれてます。大きな白樺の木に生えることがあります。見た目から、食用でないことはなんとなくわかると思いますが、これは「煎じてお茶にして飲むとがんの予防になる」と言われていて昔から薬として親しまれていたといいます。ちなみに、「森のダイヤモンド」なんて言われるくらい珍しいキノコで、僕も大槌に来るまでは見たことなかったです。すごいね。大槌。

多年生のキノコで、秋や春先の葉が落ちている時期だと見つけやすいです。

 大槌で今まで見つけた有名どころはこんな感じです。写真は撮ってませんが、食べられないキノコや腐りかけのキノコなんかも含めて大槌で初めて出会えたキノコがたくさんあります。やっぱり大槌の秋の山は面白いです。逆に、まだマイタケとかシイタケを見つけていないのが悔しいところ。早く出会えないかなぁとか思いつつ今後に期待したいところです。

【大槌祭り】

 昨年はお祭りのタイミングで大槌にいられなかったので、今年が初めての大槌祭り。大槌の神輿を見たのが初めてで、それがすごい勢いで回るのを見たのも初めて。川に入るのを見たのも初めてだし、その神輿が神社に出入りするのを見るのも初めてでした。大槌の「大槌らしさ」の一端を見られた感じがして楽しい3日間でした。夜宮で神楽や寅舞を見ることが出来たのもうれしかったですね。個人的には七福神のリズムがすごく好きでお気に入りです。余談ですが獅子踊りを見ていて、僕の地元の比立内にも「比立内獅子踊り」があるんですが、それと似ている囃子があったり、舞いがあったりで、どこか共通のルーツがあるのかなぁと気になりました。
 大槌の濃い3日間を経験出来て楽しかったです。

【鹿脂の試み】

 今月に入って、MOMIJIには牛のように脂ののった鹿が搬入されることが多くなりました。(僕が搬入した一番大きな雄は85kgでしたが、それよりも2周りほど大きな鹿の搬入もありました。)MOMIJIの鹿肉は油を極力削いだ赤身をパックするのですが、そうなると余るのがこの脂たち。スーパーなどでは良く牛脂が置いてありますが、ジビエでそんな感じで店頭に置くわけにはいきません。どうにかならないものかと廃棄される鹿脂を持ち帰って実験。

大量に出た鹿脂。これで1頭分です。

 まずは鹿脂についている細かい肉や血や膜を落とすため、脂の抽出をどうしようかと思考錯誤。とりあえずそのままフライパンで温めることに。

 5分程でこんな感じに大量の液化した脂が抽出されました。意外と簡単に脂を取り出せたなぁとかフラグめいた思考で瓶に詰めて冷やし、しばらくしてから中身を確認してびっくり。焦げ臭い、臭すぎる。焼肉屋で食べ終えたとの鉄板についているような焦げ焦げの臭い。匂いに色があるなら真っ黒って感じの焦げた臭いに鼻が持っていかれました。直火だとダメだということが分かったので別の方法を考えます。
 今度はお湯を貼った鍋の中へ脂を入れます。ぐつぐつ煮込んで沸騰したお湯で約10分、火を止めてからしばらく冷ましてみると、表面が白く固まっていてどうやら抽出成功!

 気になるにおいは…なし!これなら大丈夫そうだと、今度は効率的に抽出する工夫をしていきます。先ほどは塊のままお湯へだいぶさせたので、次は小さくカットしてからお湯へ投入し、お湯に触れる表面積を大きくします。結果、予想通り同じ時間での抽出量がだいぶ増えました。

 お次は抽出した脂をどう処理するかの問題。棒で押しつぶしながらペースト状にします。

 この段階でも十分商品になりそうな感じがしますが、
①ここに少量のアロマを入れて、保湿クリーム!
②瓶に入れて形を整えて紐をつけて、キャンドル!
③オリーブオイルとココナッツオイルを入れて、ポマード!
 いろいろな使い道がありそうですね。商品として売り出すには美容系だか薬品系だかの専用資格が必要なため残念ながら売り物にはなりませんので、あくまで自家消費。鹿脂商品化への道はまだ遠そうです。
 ちなみになんですが、鹿の脂は「鹿脂(ろくし)」というそうです。熊の脂やイノシシの脂と比べると融点が非常に高いのが特徴です。(熊とかイノシシが30℃前後なのに対して鹿は50℃以上)

【射撃訓練】

 ハンターになるために必須となる手続きが、「狩猟者登録」です。おさらいになりますが、ハンターになるために必要な「資格」が「狩猟免許」です。この資格を持っている人が、狩猟者登録の手続きをすることが出来ます。狩猟免許は全国共通で、資格さえ取ってしまえばどの都道府県でも狩猟者登録を行うことが可能です。一方で「狩猟者登録」は、毎年、狩猟を行う各都道府県ごとに手続きを進めなければなりません。僕であれば今年は岩手と地元秋田の2県で狩猟する予定なので、それぞれで狩猟者登録する必要があるわけです。その狩猟者登録をするにあたって、銃を扱う場合には「射撃訓練」に参加した実績が必要になります。「銃を撃つ練習をまったくしていない危ない人が猟場に立つ」のを避けるためですね。長くなりましたが、つまり、「狩猟者登録をするために必須の射撃訓練に参加した」ということです。
 僕が使う銃は「ハーフライフル」と言って、散弾とライフルの間の銃。猟では弾の散らばる散弾ではなく一発玉(スラッグ弾)を使います。射撃練習では50m先の的に向かって10発のサボットを撃ち込みます。特に合格ラインが決まっているわけではないですが、撃つからには中心に近いところに10発当てたいところ。正射必中なんてかっこいいですもんね。ところが実際はそうもいかないんです。今回50mで撃ったところ、大体半径30cm程度にばらけました。鹿を撃つシチュエーションは遠くだと100mを超えます。ばらけ具合は50cm以上になるわけで、とても正射必中とは程遠いですね。
 ちなみに、射撃の姿勢には大きく分けて「伏射(ふくしゃ)」「膝射(しっしゃ)」「立射(りっしゃ)」の3つがあるわけですが、今回は一番安定する「伏射」と同じ完全射たく状態(銃と体を固定した状態)で撃ってこれなので、猟場で多い膝射や立射だとさらに厳しいことは言うまでもありません。射撃練習もそうですが、場数を重ねながら修行あるのみですね。
 

【プロジビエセミナー】

 9月29日、30日の2日間にわたって、全国のジビエ事業者が一堂に会してジビエの技術向上を図る「プロジビエセミナー」がMOMIJIを会場に開催されました。初日はジビエに関する座学をおしゃっちで受けました。ジビエ利活用の全国の動向だったり、衛生管理についてだったり、普段なかなか聞くことができない他社の実態だったりを聞くことができ、非常にためになる研修会でした。2日目にはMOMIJIで鹿の血抜きをするところから実際に受入れ、二次処理までの一通りの解体手順をすべて実演し、衛生的な観点やジビエ利活用の観点から多数ご指摘いただきました。今後に生かせそうな、学びが詰まった2日間になりました。遠くからご足労いただいたジビエ関係の皆さま、ありがとうございました。

【まとめ】

 狩猟に、キノコ狩りに、MOMIJI業務にイベント、大忙しの9月でした。11月の猟期開始に向けて猟場の様子もじっくり確認したいところ、時期の関係でMOMIJIには大型個体の搬入が多くなり、産業まつりや薪祭りなどのイベントが盛りだくさん。こう書いているだけでも10月はさらに忙しくなりそうですね。とか言ってる間にもう10月下旬です。本当に忙しい10月でした。
 さて、中身のない雑談で長くなりましたが、今月も最後までお読みいただきましてありがとうございました。10月もますます忙しいけど頑張ります!もう終わる!頑張りました!11月も頑張ります!!
 PS)おかげさまで福の尿路結石は無事に完治したようです。よかったね。


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