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マタギの館 第三話『七五三』




キイィィ~

皆さま
マタギの館へ よくお越しくださいました…
今宵もお時間の許す限り
この館でおくつろぎ下さい…|_-)))

恐怖物語の格好の小道具として
度々登場いたしますのが
『写真』でございます

あの世の者の念、この世の者の念が焼き付けられた写真…

昔、昔の日本では
写真を撮ると魂を抜かれるという言い伝えもあったそうでございます…

さぁ
今宵あなたが見るのは
どんな念でございましょう…|_-)))

第三話
『七五三』


夜のバイトが終わって、隣町の駅前まで行った事がありました。
翌日、出掛ける時にその駅前のバスターミナルを利用するので、時刻表の確認をする為です。

バイト先から自転車で20分程の距離の隣町。
わざわざ出向かずともインターネットで調べれば済むのですが、ちょうどバイト仲間のAくんと少し話をしたかったので、深夜の町、話をしながらブラブラとプチツーリングと言ったところでしょうか。

自転車では久々の隣町。
うろ覚えの道を走り、なんとか無事バスターミナルへ到着しました。
お目当ての乗り場を探す2人…

「○○行き乗り場は…
            あ、あそこやね!」

市内から離れているので、少し寂れた感じのするバスターミナル。
現在時刻やバスの接近がわかるシステム等がないアナログなものでした。

『○○方面行き』と、時刻表、そしてその下には、お知らせや広告らしきものが貼り付けてあるだけです。
時刻表をしっかり確認したところで、何故かふと、その数枚の貼り紙に目が行きました。

何が書いてあるのかな…

『△△工事の為、バス亭の位置が変わります』のお知らせ等があり、その数枚重なった紙の一番下に半分だけ
何故か違和感のあるモノが貼ってあるのを見つけたのです。

「え?こんなところに写真?」

二人顔を見合せます。

それは、見るからに質感の古そうなカラー写真でした。

他の紙が重なり、上半分は隠れていますが、それは明らかに写真…
可愛らしい振り袖、ワンピース、そしてスーツを着た男性らしき人物、三人の下半分と見てとれました。

あぁ これは七五三なんだ…

七五三と分かっても、どちらも良い表情はしていません。町の写真館の表に七五三の写真が貼ってあった…それならば微笑ましくもなったでしょう。

しかし、何故?こんなところに七五三の写真が…!?

しかも上半身が他の貼り紙で隠れてしまっているところが余計に不安に駆られます。
全く知らない赤の他人なのに、気になってしまう、その上半身部分…
私がその写真に重なる様に貼ってある紙を持ち上げて、写真を確認しようとした瞬間…

「やめとけって…」

Aくんが止めました。

「触らん方がええって…」

私が続けます。

「え?だって気になれへん?」

と、言葉では言いながら簡単に紙をめくれず、思わず手を離している自分…
そこでその後何を話したか定かではないのですが、その後Aくんがその写真に近付いて重なった紙を少しだけ持ち上げたのです。

「うっ…ヤバッ」

手を離し、続けてすぐに

「ヤバい、顔がなかった」

「え、え…!?」

「男の人の顔がないんや!!」

私がどういう事なのか、本当なのかと聞く前にAくんは乗って来た自転車にまたがります。
いや、聞くまでもない…
二人の意思は無言のまま一致している…

     早くこの場を
                  離れたい…

二人はそのまま、それぞれの自転車に乗り、再び来た道を引き返しました。
車もほとんど通らない暗い道路。
橋を渡り川を越えてきたのですが、その橋が見つからない…

「あれ、こっちだったかな…」
「いや、こっち…?」

小さな声で一言二言、話は交わしたのですが、知った道に出るまで
二人はずっと無言のままでした。

結局、来た時とは違う橋でしたが川を渡り、地元に戻って来た時、
お互い安堵したのでしょう。やっとここで本音がこぼれました。

「いやぁ、焦った…」

「俺さ、一瞬道に迷った時、あの写真のせいじゃないの?って言いたかったんだけどさ…」

「うんうん!」

「それ言っても怖がらせるだけやん?だから黙ってた」

「それ!私も!!でも、顔なかったってどういう事よ?」

道に迷っていた僅かな時間、考えていた事は同じでした。
あの写真を見た瞬間、パラレルワールドにでも迷い込んだ様な感覚に陥いっていたのでしょう…

「いや、だからほんまに顔がなかったんやて!」

Aくんの話では写真の中の二人は異常はない、しかしスーツ姿の男性だけ顔がなかった…と言うのですが…


次の日…

深夜に来たパラレルワールドに再びやって来ました。

Aくんは昨夜帰る前にも、
明日写真があっても絶対にめくるなよ?
と、話していましたが、
さすがに明るい時間帯、恐怖心もだいぶ収まっています。
それに、顔がない…というのは、Aくんの見間違いではないかという思いがありました。
なのでその写真が貼ってあるのを再び見つけたその時、思わず上に重なった紙をめくってみたのです。

「なんだ、顔あるやん…」

ごく一般的な七五三の家族写真でした。昔のフィルム撮影の焼き増しされた写真です。男性…父親なのでしょう。七三分けの真面目で優しそうな顔をちゃんと確認。

やっぱりね、そんな怖い事が本当にあるわけないやん?
ほっと胸を撫で下ろしたのと同時に少しガッカリしながら、
私は時刻通りやってきたバスに乗り込みました…


しかし…

何故そんなところに家族写真が貼ってあったのかは
    今も謎のままです…

注:イメージです


如何でしたでしょう…|_-)))


辺りも薄暗いあの夜、Aくんが
実際はあった顔を確認出来なかった可能性は充分にあります。
その後、何でもない、ただ道に迷っただけの事を
何かの力によって帰れなくなってしまっている…

僅かな時間ではありましたが、すっかりホラー映画の一場面を垣間見させてもらった様な出来事でした。

今現在はその写真は貼ってありません。
駅の係員が片付けたのか、持ち主がとりに現れたのか…

しかし、やはり何故あの場所なのか…という違和感は
今も残ったままであります。

では
次回もマタギの館で
お会いしましょう…|_-)))

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