記憶、無く、泣く

僕は記憶するのが苦手だ。人と比べて圧倒的に、様々な記憶がない。なかなか思い出せないとか、ちょっとした記憶違いをしちゃうとかそういうレベルの問題ではない。記憶がないのだ。

例えば、自分の過去。よく歳を取ってくると「昔の話はよく憶えてるけど、最近のことって結構憶えてないよねー」なんて発言を耳するけど、僕は最近だろうが、昔だろうが、関係なく憶えてない。

小学生の時の思い出は片手で思い出せるくらいしか記憶にないし、当然ながら昨日の夕飯も思い出せない。

自分でも象徴的だなぁと思ったエピソードがある。数年前親戚の集まりがあって、僕の小学生の時のエピソードを皆で話をして盛り上がっていたが、僕にとっては全くの初耳だった。

小学生の僕が、遠い親戚の家まで友人と自転車で冒険しながらたどり着くという話は聞いていて少年マスザワの勇気に感動するくらいだった。他人の思い出話を聞いているような感覚だった。

そして、もっと言えばその話をしている人が僕とどういう関係の人なのかも思い出せずじまいだった。

そう。ここが一番問題なのだ。過去の記憶がなくてもあまり支障はない。(あるんだけど、自分の内側の問題として処理されることが多い。)世間と向き合う時、人の名前、顔、というかその人の事を憶えられないというのが生きて行くにはとにかく厄介だ。そして相手に迷惑をかけてしまう。40過ぎの社会人としては失格レベルだ。

学生時代のクラスメイト、仕事を一緒にした人、何の分け隔てなく忘れてしまう。一番酷かったのは昔付き合っていた恋人の名前を、当時から憶えられず直接会っているのに「○○か△△かの二択なんだよな・・・」と思いながらデートしてたことすらある。もちろん今では名字すら思い出せない。(これは決して沢山の女性と付き合っていたから、とかそういう話ではない。)

きっとそれが相手にもうっすら伝わっているのだろう。久しぶりに会う人に話かけられる時に

「俺(私)のこと憶えてますか?」

と聞かれることが何度も何度もある。これは、僕にとっては地獄だ。もう聞かれている時点で相手に気を使わせてしまっている、ごめんなさい。

さらに言うと、本当に申し訳ないのだけどこのパターンの時、大概はその人の事を憶えていない。なんとかごまかしたりする時もあれば、正直に「ごめんなさい、憶えていません・・・。」と伝えることもある。どうあれ相手を傷つけていることには変わりがない、心苦しいという言葉がバッチリ当てはまる。地獄なのである。(逆の場合ももちろんある、この手の経験が多い僕は必ず会話の最初に名乗るようにしている。)

僕の責任なのだ、それはわかっている。何度でも言える、ごめんなさい。

僕のその人に対しての感情や関わり合い方で差があるわけではない。僕が好きか嫌いだろうが、沢山関わっていようがいまいが、ランダム状態で憶えられない人は憶えられないのだ。身勝手なことを言わせてもらえるなら悲しんだりしないでもらいたいし、僕のことを嫌いにならないでほしい。

ただ、切ないのはしばしば

「お前は他人に興味が無さ過ぎる」

「無関心だ、冷たい」

と言われてしまうことだ。でも、そういう話ではないのだ。憶える事が苦手なのだ。他人に興味がないって言われるけど自分の記憶もないんだから、その観点からしたら僕は何にも興味がない人間になってしまう。(そしてそれは結構あっているかもしれないけど。)

以前何とか克服しようと、初めて会った人に勝手に心の中でニックネームをつけたり、有名人と同じ名字だったらその有名人とその人の顔を頭の中で並べて忘れないようにしていたりした。でもダメだった。数時間後には、その工夫も含めてきれいさっぱり頭から消え去っているのだ。

もうこの件については疲れ果てているというのが僕の本音だ。もはや自分で自分のことを信じていない。それってなかなか悲しいし、やはりどう考えても地獄である。

最近では聞かなくなったが「不思議ちゃん」と呼ばれるジャンルの人たちが昔は沢山いた。(最近テレビでは、おバカタレントと呼んでたりするのかな。)一般常識が抜け落ちていたり、突拍子もないことを言ったりする

「あなたは面白おかしい、不思議な人ですねー」

という感じ。でも、あれって「自分にとって都合のよい角度とタイミングで、知らないことがあったり、変な言動する」タイプが多く、要するにキャラなのだと思う。不思議なことによってその人に得ばっかりあるんだから。むしろすごく自己プロデュースができている、ちゃんとした人。

そういう意味で僕は真の不思議ちゃんなのかもしれない。計算とかじゃなく単純に周りから見たら

「人のことを憶えられない、(悪い意味での)不思議な奴」

だ。計算ずくの不思議よりも、僕の方が不思議の濃度は高いんじゃないかしら。

僕はこれはきっと病名がつくようなレベルの病気だと思っているんだけど。僕は今日も心の中で「この人・・・・誰だったかなぁ」と思いながら生きている。あぁ、ごめんなさい。

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