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【雑感】 においについて

「あの人くさくない?」という言葉が聞こえたときの恐怖感は底が知れない。目で確認することのできない怖さがあるのはもちろん、生活管理・自己管理の低能さを指摘された気分になる。

筆者が通う大学の研究室では、密にならない程度で人がよく集まる。研究はもちろん、雑談にふけることのできる安らぎの場だ。

そこで、「〇〇さんってファッションセンスあるよね~」といった話題が出た。なんてことない日常の光景だったが、話は進み、「〇〇さんの服っていいにおいするよね」と誰かが言った瞬間から、空気が変わった。

使っている香水、消臭剤のことから天気が悪く生乾きになった苦労した話など。服のにおいの話題で盛り上がった。そうなると、いよいよ「あの人って服ちゃんと洗濯してるのかな?くさいんだよね」といった悪口が出始めたのである。結局、人間は猥談・悪口が一番楽しいと感じる生き物なので、止むことがなかった。「毎日どう過ごしているんだろう」「汗とか気持ち悪いよね」「人としてどうなの」

筆者の心の中にも悪口をセーブする気持ちがある反面、それを面白がって期待する気持ちがあるため、ついつい会話が盛り上がってしまった。

しかし、家に帰ると、ふと不安がよぎる。自分もくさいと言われているのではないかと。昨年から一人暮らしもどきをはじめた筆者が、まず苦労したのは服の管理である。共同アパートで、洗濯機が満足に使える状態にないため、よくコインランドリーに行く。ただ、流石に毎日利用すると費用がかかったり、急な都合ができたりすると洗濯物がどうしても溜まってしまうことがある。そのため、洗濯しても、くさいとは言わないまでも、良いにおいなのか分からない時がある。

「これでは怖い」と思い、人と会う前は消臭剤や香水を付けるのが当たり前となった。

ある日、恐る恐る友人に「自分くさくない?」と聞いたことがある。「大丈夫だよ」と言われて、束の間の安息を得る。しかし、そういう毎日を過ごしたり、見たりするとやはり疲れが溜まってしまう。ただ、これはれっきとしたマナーでもある。誰もが相手に不快感を与えないよう、気を付けているのだ。泣き言は許されない。だったら、さっさと洗濯機を買え。ごもっともであろう。

においとは厄介である。ちゃんと洗濯すれば、解決されるかもしれないが、一度「くさい」という刻印が押されたら、その人のことを色眼鏡抜きで考えるのが難しくなるからだ。また、においを指摘したところで、差別とは意味合いが異なる。

だからせめて自戒を込めて最後に言わせていただきたい。「人のにおいを指摘するなら、自分の行動にも責任を取ろう」と。

人の心を蝕むウイルスはコロナだけではない。

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