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【ホラー小説?】もしかしたらワイって、ちょっとおかしくなってるかもしれんけど、どう思う? その1〈前半〉

1:気付いたら名無しだった
 ちょっとだけ驚くかもしれない話、してもいい?

2:気付いたら名無しだった 
 別にいいぞ

3:気付いたら名無しだった 
 なんかワイ、すでに10人も殺してることになってるんだけど、全然身に覚えがないんだが。

4:気付いたら名無しだった
 は? 10人殺してるってww

6:気付いたら名無しだった 
 さすがにウソやろw

12:気付いたら名無しだった
 >>6 ニュース見てないんか?

13:気付いたら名無しだった
 ワイも気付いた。
 該当者は確かにおる。
 ちな、イッチが殺したのって、最近の話?

16:気付いたら名無しだった
 >>13 まあ、ここ数ヶ月以内かな

21:気付いたら名無しだった
 おい、まさかイッチって、あの凶悪事件を起こして逃走中の……

22:気付いたら名無しだった
 本人か?

23:気付いたら名無しだった
 いやいやいやさすがにこんな所に本人降臨はないだろw

31:気付いたら名無しだった
 嘘松

32:気付いたら名無しだった
 まあ、イッチの書き込みがホントだったとしたら、違った意味でヤバいな
 何人も人殺しといて、無自覚ってww

41:気付いたら名無しだった
 >>21 >>22 >>23 >>32  ワイの書いてることは全部本当だ
 まあ、信じられんのなら仕方がないけど。

50:気付いたら名無しだった 
 わかったわかった
 とりあえず詳しく書いてみ
 最後まで読んでやるわ

55:気付いたら名無しだった 
 そうか?
 それじゃあちょっと長くなるけど、付き合ってくれ

58:気付いたら名無しだった
 これまでの人生、色々あったけど、基本的にワイは至極真っ当に生きてきたつもりだ。
 なのにワイは、何をしでかすがわからない危険なヤツだとずっと思われていた。たぶん見た目が怖いせいなのだと思う。
 だけど実際は、自分で言うのもあれだけど、かなり温厚な方だと思う。暴力も嫌いだしな。
 なのにどうやらワイは、自分でも知らない間に、10人も殺してたらしい。

59:気付いたら名無しだった
 まず、きっかけとなったのは5月1日だった。
 この日の午後、ワイは1人で五月晴れの空を仰ぎ見ていた。
 これから先、ワイはいったいどんな空模様を、どんな気持ちで眺めることになるのだろう?
 そんなことをボンヤリ考えていたら、不意に雑踏を感じるようになった。
 どこか遠くに飛んでいこうとしていたワイの意識が、現実を認識するように戻ったからだ。

 本厚木駅前の広場。
 コロナ禍真っ只中なのに、それなりに多い人の生み出す流れの中で、ワイは渓流に逆らう小石のように佇んでいた。
 たぶん周りの人達にとって、ずっと動かないでいるワイは邪魔だったような気がする。駅から出てすぐの場所だったしな。
 でも誰も文句は言ってこない。むしろみんながワイにぶつからないように気を使ってくれていた。
 これはたぶん、ワイがプロレスラーのような体格に、典型的な悪役の顔だったからだと思う。
 まあ、ワイ自身、鏡を見て自分にビビる時があるし。

61:気付いたら名無しだった
 自分にビビるってww

63:気付いたら名無しだった
 ワイはどうしてこんなヤバい見た目に生まれたんだろうと悩んでた時期もあった。
 でもさっきみたいに、意識だけが別の世界へトリップしてた時とかは、この見た目のお陰で助かったと感謝をしたりもしている。
 周りから邪魔になってても、あんまり文句を言われずに済むからな。

64:気付いたら名無しだった
 そんなヤバい見た目の人って、実在するんか?

66:気付いたら名無しだった
 イッチが仮に、ワイドショーを賑わしてたあの石戸谷洋平だとしたら、ワイ、画像見たことあるけど、ガチでヤバかったで

67:気付いたら名無しだった
 そういや、ワイドショーであの犯人の顔がアップされた時、ワシの娘、急に泣き出してたわ

70:気付いたら名無しだった
 この時、ワイが無気力になっていたのには理由があった。
 無職になって途方に暮れてたんだ。
 ポケットから取り出した財布の中身を確認してみたけど、328円しか入ってない。
 最後の給与が銀行口座に振り込まれるまでには、まだ20日以上もある。しかも金額はたった数万円くらいの見込みだった。
 住んでいた寮も追い出されたし。

71:気付いたら名無しだった
 消費者金融とか行けばいいんじゃね?

73:気付いたら名無しだった
 たしかに消費者金融じゃなくても、カードローンやクレジットに頼ればしばらくは何とかなっただろうな。
 でもワイは嫌だったんだ。
 せっかく先月で、20年間近く苦しんでいた借金を返済し終えたばかりだったのに……。

75:気付いたら名無しだった
 タイミング悪いな

78:気付いたら名無しだった
 まさかこのタイミングで仕事を失うことになるだなんて、寒川神社へ初詣に行った1月には、想像もしていなかった。
 昨年度末から新型コロナウィルス。“COVID-19”なんて目に見えないヤツらが世の中に蔓延したせいで、ワイの人生設計は大幅に狂ってしまったんだ。

79:気付いたら名無しだった
 人生設計おかしくなったのは、イッチだけやないで

81:気付いたら名無しだった
 ワイも、同じくらいの時期に派遣切りされてるわ。
 一応、すぐ次の仕事見付かったけどな

88:気付いたら名無しだった
 まあ、周りにも似たようなヤツらはいた。
 ワイだけが不幸なわけじゃないのもわかっていた。
 だけどワイの場合は今回だけじゃなくてな、これまでもずっとこんな感じだった。
 社会に翻弄され続けてきたっていうか……。犠牲になり続けたって言うか……。

89:気付いたら名無しだった
 なんか切ないな

93:気付いたら名無しだった
 一応、ワイが仕事失った経緯も簡単に書いておくわ。
 4月も半ばに差しかかった頃、コロナ禍の影響で自宅待機させられていた派遣会社から、急に電話がかかってきた。
 いったい何だろうと思って出たら、派遣の担当者から元気かどうかの確認をされた。
 勿論、ワイは『元気です』と答えた。
 すると〈『ワイさんの派遣先なんですけど、来月もたぶん仕事がほとんどないみたいなので、もうしばらく自宅待機でお願いします』〉って言われた。
 ニュースに流れていた現在の社会状況的に、こうなるんじゃないかという予測はできていた。
 中国とかとの流通がどうのこうのって話題になってたしな。
 半導体系の工場で働いてたから、自宅待機とかになるんじゃないかって思ってはいたんだ。
 だけど了承する前に、確認しなければならないことがある。

「ちなみになんですけど、待機中の寮費とかは、どうなりますか?」

 この時、ワイは〈『支払わなくてもけっこうですよ』〉って言ってもらえることを期待してたんだろうな。
 どう考えたって、そんな優しくされるわけなんてないのに……

 当然のように派遣会社の担当者には、〈『勿論、社会保険料と一緒に給料から引くことになります』〉と返された。
 そればかりか〈『もし足りなくなってしまった場合は、石戸谷さんに不足分を振り込んでもらうことになりますけど』〉と付け加えられた。

 そんなの冗談じゃない。

97:気付いたら名無しだった
 あくまでも単純計算やけど、ワイの場合、月額で12万円以上は稼がなければ収支がマイナスになる。
 それ以下の稼ぎだった場合は、また借金をするしかない。
 焦っていたワイはすぐに尋ねた。

「何でもいいから他に紹介してもらえる仕事ってないんですか?」

〈『すみません。どこもかしこも自粛自粛で、紹介できる場所自体がなくなってしまっているんですよ』〉

「働くことができない状況なんですか?」

〈『残念ですが……』〉

 だったらこの派遣会社に所属していても意味がない。
 寮費は後払い制だし、社会保険料も月初めに所属していなければ引かれずに済むということは、前もって調べてある。
 だからワイは、このまま自宅待機が続くようなら、いっそのこと4月中に辞めようと決めてた。
 ちょうどいい機会だと思って、電話口でそのことを伝えた。
 すると派遣会社の担当者は、〈『では来月以降、契約の更新はしなくてもいいんですね?』〉と嬉しそうな声で確認してきた。

98:気付いたら名無しだった
 本音としては、最初からイッチに辞めると言い出してもらいたかったんだろうな

99:気付いたら名無しだった
 会社都合の解雇にだけはしたくないっていう、派遣会社の常套手段だな

103:気付いたら名無しだった
 >>98 >>99 ワイもそのことはわかってた。
 でもこのままだと、長引けば長引くだけワイが損をすることになる。
 すぐにまた仕事ができるようになるという保証もない。だから減ってくお金を少しでも少なくしておきたくて、衝動的に了承した。
 するといきなり〈『では、すぐに寮を出て行ってもらいますね』〉って言われた。
 そして実際に5月になった今日、半ば強制的に寮から追い出されてしまったってわけだ。

104:気付いたら名無しだった
 仕事失って、住処も奪われたってわけか……

105:気付いたら名無しだった
 20年間近く借金返済のためにつましい生活をしていたこともあって、私物は少なくてな、スーツケースの中に全部収めることができた。
 これを持ち運んでれば、とりあえず生活に必要な物は一通り揃ってる。
 ただ、帰る場所がないというのは不安だった。
 ワイの場合は、実家を頼ることもできないし……。

107:気付いたら名無しだった
 何で実家を頼れないんだ?

109:気付いたら名無しだった
 >>107 色々あってな。詳しくは書かんけど。

 こんなことなら国から給付された10万円をもらった時、すぐに仕事を辞めて次の職場を探す活動資金にすればよかったって思った。

111:気付いたら名無しだった
 給付金、5月頭で支給されてたのか?
 早くね?

113:気付いたら名無しだった
 >>111
 マイナンバーカード持ってたからな。申請したらすぐ振り込まれてたわ。
 でも10万円なんて、ぶっちゃけ生活苦の人間にしてみたら焼け石に水だろ?
 ワイは大して感謝しなかったな。
 むしろ、いったい何度社会の犠牲になればいいのかっていう嘆きの方が強かった。

115:気付いたら名無しだった
 他にはどんなことで犠牲にされてきたん?

120:気付いたら名無しだった
 >>115 たとえばまだ大学を卒業したばかりの頃だ。
 当時は就職氷河期ということもあって、ワイは新卒での正規採用のチャンスを逃してしまった。
 そこで仕方がなく警備員のアルバイトをすることになった。
 警備員とはいっても、多くの人がイメージするような、ビルの警備や、工事現場やイベント会場などの交通誘導じゃない。
 ワイが所属していた警備会社では、公園とか公共施設の見回り活動をしていた。
 ちなみにワイが担当していたのは、荒川区から足立区にかけての公園だ。
 自転車でそれらの場所を見て回り、もしも寝泊まりしているホームレスを見かけたら、説得をして敷地内から出てってもらう。
 もしもホームレスが言うことに応じてくれなかったら、役所に連絡をしたり、場合によっては警察を呼んだりってこともあった。
 当時はそんな業務を何も考えずにやってたけど、まさか20年後にこうして自分がホームレスになるだなんて……。
 なんとなく皮肉めいたものを感じてしまうわ。

121:気付いたら名無しだった
 仕事を失い、お金も尽き、家もない。
 ワイはこれから、いったいどうすればいいのか?
 考えても答えなんて浮かばない。どんどん暗い気持ちになっていく。
 ただ、寝泊まりする場所くらいは確保しておかなければならない。
 本当はマンガ喫茶を利用したいところだったけれど、政府が出した緊急事態宣言の影響で営業の自粛してる店舗ばかりだった。
 ちなみにカラオケも同じだったみたいだな。夜遅くまでの営業をできなくされてたから、寝泊まりには使えそうにない。
 こういうホームレスになった時、頼みの綱となりそうな業種が、軒並み営業自粛をしてて最悪だった。

 家を失ったワイはいったいどうすればいいのか?
 ため息混じりに、暗くなっていく空を仰いだ。
 いくつか雲は浮かんでるけど、全体的には晴れている。そんな空だったのを印象深く覚えてる。

 幸いにも凍えるほど寒いわけではないし、1日くらいなら野宿をしてみるのもいいかもしれない。
 そんな風に思って、とりあえずワイは、駅から少し離れることにした。

123:気付いたら名無しだった
 ずるずると本格的なホームレスコースだな

124:気付いたら名無しだった
 適当に歩いてたら、厚木市役所前の公園の前にたどり着いてた。
 保育園や幼稚園が近いということもあって、普段だったら19時を過ぎてても遊んでる子供の多かった公園なのに、人の姿はまばらだった。

 疲れてたワイは大きな木の側へ移動した。
 芝生の上に座って、やることがあるわけでもないので、ポケットからスマホを取り出して適当に検索をしてみた。
 すると地方自治体が仕事や住居を失った人のために、救済をしているという情報が目に止まった。
 具体的には、ネットカフェ難民のために、ビジネスホテルの部屋とかを用意してくれてたんだ。
 ワイはさっそく紹介されてた番号に電話をかけてみた。
 なかなか繋がらない。
 それでもしつこく繰り返してたら、ようやく窓口に繋がった。
 ホッとした。これで当面の寝場所は確保できたと思った。
 だけどすぐ地獄に叩き落とされた。
 困っている人の数が多過ぎて、すでに部屋が全部埋まってたんだ。
 当然のようにワイは断られてしまった。

125:気付いたら名無しだった
 こういったのは、早い者勝ちだから仕方がない

130:気付いたら名無しだった
 国も地方自治体も頼れないのがわかった以上、やっぱり自力でなんとかするしかない。
 でもどうすればいいのかわからない。
 ワイはため息をついて芝生の上で仰向けになった。
 そうしていると、ふと、ワイは何のために生きてるんだ? って疑問が浮かんできた。

 大学卒業の時期が就職氷河期と重なっていたせいで、新卒で正規採用してもらえるチャンスを失った。
 当時は同世代の多くの人達が、派遣会社に所属してたな。
 周りもみんなマージンを引かれた上で補償のない仕事をする生活を余儀なくされてたから、まだあの頃は非正規雇用がツラいって事実がよくわかってなかったような気がする。

132:気付いたら名無しだった
 たしかに2000年代はそうだったかもな

133:気付いたら名無しだった
 ワイもイッチと同じ立場やったで

134:気付いたら名無しだった
 例話になってからも、非正規雇用の待遇があまりよくないって、社会問題になったりしているけど、ワイは断言できる。
 当時と比べれば遙かにマシだってな。
 ワイが20代の頃は、大半の派遣会社では、社会保険がまったく完備されていなかった。
 中には、雇用保険すら加入させないような酷い会社すら少なくなかった。

136:気付いたら名無しだった
 当時は団塊の世代が現役だったこともあって、人員が余ってたからだよな

138:気付いたら名無しだった
 あと、法律変わったばっかりで、新規の派遣会社が乱立してて、そのほとんどが法令遵守してないクソばかりだったせいもある

139:気付いたら名無しだった
 ぶっちゃけワイらの世代の派遣社員は、いくらでも補充のできる、遣い潰しても大丈夫なヤツらとしてしか見られてなかったしな

141:気付いたら名無しだった
 ワイが当時働いてた派遣先の労働環境は、本当に劣悪だった。
 キツい作業を無理強いされるのが当たり前。
 そのせいで腰や肩や足を痛めて、二度と元に戻らなくなってしまった人も多い。
 現在もブラック企業ってのはあるけど、当時とは全然タイプが違うよな。
 他に表現のしようがないから同じ言葉を遣っているだけで、現在のブラック企業は、もしかしたら当時であればホワイトの方に分類されていた可能性すらあるってワイは思う。
 少なくとも社保はちゃんとしてるし。

143:気付いたら名無しだった
 禿同

144:気付いたら名無しだった
 残業も今より遙かに長かったで。100時間とか割と当たり前だったしな。

146:気付いたら名無しだった
 しかも残業代、出さないとか

147:気付いたら名無しだった
 サービス残業、みんな普通にしてたから、しなきゃならないものだって思ってたわ

150:気付いたら名無しだった
 ワイの会社では、仕事中にケガをしても、労災を申請すること自体が不可能に近かった。

153:気付いたら名無しだった
 >>150 そういうのもあったな

154:気付いたら名無しだった
 とある有名な大手建設会社では、1人でも労災を申請した派遣社員がいた場合は、その派遣会社ごと契約を切られてたらしいで

156:気付いたら名無しだった
 労働災害どころか、傷病手当何それ? いいから働け! みたいな感じだったな

159:気付いたら名無しだった
 わかってくれる人が多くて助かるわ。
 ワイもケガをした時、強制的に自己責任にさせられた。
 しかも当時はまだSNSもあんまり普及してなくて、情報が少ないから、証拠の大切さを知らない人も多かった。
 それでも司法に訴えた人はいる。
 弁護士に相談をしたら『勝てる見込みはある』って言われて、それを鵜呑みにして訴えた知り合いもいる。
 だけどその知り合いの場合、きちんとした証拠を用意してなかった。
 一部の従業員達による証言だけで、企業に勝てるわけがない。
 結果、多額の弁護士費用を借金として背負い込んでた。

161:気付いたら名無しだった
 弁護士としては、勝っても負けてもお金が手に入ればいいからな

162:気付いたら名無しだった
 有給休暇に関しても、現在みたいに“申請するのが心理的に難しい”というレベルじゃなかったよな。
 そもそも法律的にはあって当然の有給休暇というものが、存在していない派遣会社が大半だった。

163:気付いたら名無しだった
 労働基準法を盾に上司に直談判し、力尽くで有給休暇を取得していた人もいたけど、会社にとって都合の悪いそういう人ってのは、あっさり派遣の契約を切られてたわ

165:気付いたら名無しだった
 >>163
 もしくは二度とその会社にいられなくなるくらいの嫌がらせをされてたな

167:気付いたら名無しだった
 パワハラが黙認されてた時代だから、しゃーない

171:気付いたら名無しだった
 ワイはゆとりだけど、よく考えれば氷河期世代って、そんな社会を生き抜いてきたから凄いよな

172:気付いたら名無しだった
 >>171 それで潰されて、二度と社会復帰できなくなったヤツが大量におるんやで

174:気付いたら名無しだった
 だから最近は多くの人が劣悪な労働環境に対して色々言ってるけど、ワイはすでにかなり改善されてると思ってる。
 むしろ今年の2月くらいまでは、未来に対して希望さえ抱いてたし。

178:気付いたら名無しだった
 何でイッチは希望なんて抱いてたんや?

189:気付いたら名無しだった
 >>178
 そら、同一労働同一賃金だろ

190:気付いたら名無しだった
 でも去年の時点だと、同一労働同一賃金って、大手だけって話だったよな?

210:気付いたら名無しだった
 同一労働同一賃金のことなんだが、ワイの派遣先の工場は大手だったんや。
 だから派遣の間では、たぶんボーナスもあるんじゃないかって話になってたくらいでな。
 ただ、懸念がなかったわけじゃない。
 派遣社員に少しでもお金を払いたくないからという理由で、単純作業しかさせないようにしようという案が、会議中に出されてたらしい。

211:気付いたら名無しだった
 その会社、最悪やな

213:気付いたら名無しだった
 イッチ、ここでその会社名、出してもいいんやで

220:気付いたら名無しだった
 >>213 現在も働いてる人達に悪いから止めておくわ。
 ただ、同時期にパワハラの定義も明確化させられてたのは大きかった。
 できるはずの作業をわざとさせなかったら、労基法的に問題になるって決まったお陰で、きっとワイらの基本給は問題なく上がるはずだって楽観視してた。
 それに他にも、氷河期世代を救うための動きが、官民問わず活発になってたし。

223:気付いたら名無しだった
 そう言えばどこかの役所が、氷河期世代を大量に募集してたな

229:気付いたら名無しだった
 ハロワにも専用の求人情報が載ってたぞ

233:気付いたら名無しだった
 ワイはこの時、あわよくば派遣先に正規雇用されるんじゃないかという期待を抱いたりもしていた。
 なのに――。
 新型コロナウィルスの蔓延によって、そういった希望は完全に打ち砕かれた。

234:気付いたら名無しだった
 某新聞社のアンケートによると、2020年5月の時点で、氷河期世代を新たに雇おうと考えている企業は、ほとんどなくなってしまったらしい

238:気付いたら名無しだった
 年末のアンケートも同じや。世論も現役世代の救済を優先する方向で動き始めてる

244:気付いたら名無しだった
 結局、氷河期世代はまた社会から見捨てられたんやな

248:気付いたら名無しだった
 まだ若かった頃なら、こんな状態でもそれなりに希望は持ててた。頑張ればきっとやり直せると信じていた。
 だけどもう、40代に突入してる。
 さすがにここまできたら、いきなり都合よく人生が逆転できるだなんて妄想も簡単にはできない。

 単純な仕事しか経験させてもらえず、社会的な信頼もない。そんな立場で新しい目標に向かって進んでいける人なんて、世の中にいったい何人いるのだろうか?

 少なくともワイには無理だった。
 このままコロナ禍の不況をやり過ごせたとして――
 仮に好景気に戻ったとして――
 ワイみたいな氷河期世代の多くは、どうせ非正規雇用でしか働けない。

 単純労働で最低限のお金だけ稼ぎながら、孤独な老後を迎えることになる。
 いや、それですら幸運な方なのかもしれない。
 経団連は人員不足だからという理由で、安い賃金で雇える外国人留学生の大量採用を推奨してるみたいだしな。
 政治もそっちの方向に舵を切りつつあるし。

250:気付いたら名無しだった
 国を動かす立場にいる人達が、ますます氷河期世代の非正規雇用者が、お金を稼げなくなる未来を作ろうとしてるからな

251:気付いたら名無しだった
 ワイは何のために生まれてきたのだろうか?
 果たして生きている意味はあるのだろうか?
 答えの出ない堂々巡りが続いた。
 20代の頃は希望と野望しか抱いてなかった。
 35歳くらいまでは、楽観的な想像と、絶望を抱く比率は同じくらいだった。
 だけど最近はもう、些細な幸せを想像しても、『ムリだろうな』という諦めの感情が頭の中を埋め尽くしてしまう。
 もしかしたらもう、ワイは生きていても意味がないんじゃないだろうか?
 死んでしまった方が幸せなんじゃないだろうか?

253:気付いたら名無しだった
 イッチ、ひょっとして自殺考えたんか?

256:気付いたら名無しだった
 >>253  考えた。
 で、その方法とか自殺したあとの具体的なことを考えてたら、いつの間にか周りから人の声がしなくなってた。

 街灯の明かりの下、スマホの時計を表示する。22時を過ぎたところだった。
 緊急事態宣言の影響もあって、この時間だと公園内では大人の姿も見かけなかった。
 ワイは時折車が通り過ぎていくだけの静けさの中で、不思議なことに気が付いた。
 何となく心も体も軽かったのだ。
 死ぬことについてその可能性を模索し始めたことで、ずっと背中にのし掛かってきていた重荷が、ほんの僅かとはいえ薄れたんだろうな。

257:気付いたら名無しだった
 わかるで。死ぬの考えたら、不思議と楽になる

258:気付いたら名無しだった
 ワイは可笑しくなった。
 死ぬことを考えたら気持ちが楽になるだなんて、これじゃあ自殺する人が増えるわけだ。
 苦笑を浮かべながら体を起こした。
 その時だった。市役所の前を女の子が必死に走ってる姿が、目に飛び込んできた。
 何度も背後を振り返っている。
 その理由はすぐにわかった。彼女を追いかけている男達がいたんだ。

259:気付いたら名無しだった
 女の子は普通に歩道を走っていたら追い付かれると判断したんだろうな。
 少ないとはいえ車の往来している車道を横断した。
 しかし男達も離されるわけにはいかないと付いていく。
 慌てた女の子が、公園の中に入って来た。
 ワイと目が合った。
 かと思うと、急に進路をこちら側へ変えた。

260:気付いたら名無しだった
 ワイはどうすればいいかわからずに固まっていた。すると女の子がワイのすぐ目の前でバランスを崩した。追い付いた男の1人が、彼女の背負っていたリュックを引っ張ったからだ。
 ムリヤリ走るのを止められた女の子がその場に転ぶ。
 追い付いた6人の男達が彼女の周りを取り囲む。
 全員が息を切らしている。かなりの距離を走って来たらしい。

「テメー! もう逃がさねーぞ!」

 恫喝するような叫び声に、女の子がビクッと首を引っ込める。
 それからワイの方を一瞥してきた。まるで子犬のような眼差しだった。
 きっと助けを求めているんだってことはわかった。
 でもワイは妙な争いごとになんて巻き込まれたくない。
 仕事を失って、住む場所もなくなって、さらに面倒そうな人達とも関わるだなんて、真っ平ゴメンだった。

261:気付いたら名無しだった
「早く立て」だとか、「無駄な抵抗をしようとするな」だとか、男達が口々に叫んでいる。
 強引に女の子の体を引っ張る度に、悲鳴が生まれる。

 ワイが側にいるのにこういうことを平気でするくらいだ。
 もしかしたら男達はかなり危ない連中なのかもしれないと思った。
 これは今の内に逃げるべきだろうと、ワイはこっそり準備をしてた。

 その時「うおぉッ?!」と男達の驚く声が聞こえた。
 目を向けたら1人がうずくまっていた。
 仲間達が「大丈夫か?」と心配している。
 一方で何らかの抵抗をしたであろう女の子は、必死に地面を這うようにしながら、あろうことかワイの方へやって来て背後に隠れた。

「た……助けて」と耳元に囁かれる。

 ワイは苦虫を噛み潰したような顔をした。
 お願いだから厄介なことに巻き込まないで欲しかった。

「何だお前?!」

262:気付いたら名無しだった
「その女を庇うつもりか?」

 男達が威嚇するように、ワイとの距離を詰めてくる。
 ワイに彼女を庇うつもりなんて、あろうはずがないのに。
 争う意思はないというのを伝えなきゃならないと思い、ワイはこの場から離れることにした。
 余計な刺激をしないようにゆっくりと立ち上がる。
 途端に男達が脅えたように後退った。

263:気付いたら名無しだった
 何で後退るんや?

264:気付いたら名無しだった
 >>263 たぶん、ワイの容姿のせいじゃないかな。
 ワイは身長が200㎝近くあるからな。
 しかも腕力が必要な仕事ばかりしていたお陰で、かなり筋肉質な体型になってたし。

 手前にいた見た目のチャラい男が、真っ先にワイから顔を背けた。さらには別の人が「もう行こうぜ」と身を翻した。
 その様子を見て、残りの4人も続いた。

 最後までワイを――というよりは、隠れている女の子を睨んでいた1人も、「次に会ったら覚えとけよ!」などという、悪役みたいな捨て台詞を残して立ち去った。

 今さらだけれど、彼らは全員若い見た目をしていた。
 たぶん大学生くらいだったんじゃないかな。

266:気付いたら名無しだった
 イッチ、見た目ゴツくてよかったな

268:気付いたら名無しだった
 >>266 たしかにこういう時は、そう思うこともある。
 とりあえずこれ以上厄介ごとには巻き込まれたくないから、ワイはこの女性からは余計なことを聞かず、すぐに別れるつもりだった。
 その前に一度、顔くらいはちゃんと確認しておこうと振り返ると、彼女はペタンと芝生の上で脱力していた。

「助かったぁ……」

 うなだれながら呟き、それからワイを見上げた。

「とりあえず、ありがと」

 ワイは別に何かをしたつもりはない。
 彼女を追いかけていた男達が、勝手にワイを怖い人だと勘違いして立ち去っただけだ。
 だからワイはどう応えればいいものかわからず、とりあえず苦笑を返した。
 すると彼女はいきなり噴き出すように笑った。

「あなたさ、なかなかヤバい顔してるよね」

270:気付いたら名無しだった
 助けておいてもらって、メッチャ失礼な女さんやなww

271:気付いたら名無しだった
 ワイも、なんて失礼なヤツだと、少しムッとした。
 でも同時に、凄い度胸だとも思った。
 数人の男達が見ただけで逃げ出すようなワイに向かって、堂々と『ヤバい顔』だって言ってきたわけだからな。
 しかも彼女はワイの服を引っ張るようにしながらゆっくり立ち上がると、ショートパンツに付いた土埃を手で払って「それじゃあ、どこに行こうか?」なんて、当然のようなノリで尋ねてきた。

「は?」

 わけがわからなかった。
 いや、言葉の意味はわかるけれど、どうしてワイと一緒に移動をしようとする流れになるのかが、理解不能だった。
 ワイが無反応だったからなのか、「え~と、あなた、日本語わかるよね?」と彼女が首を傾げた。

272:気付いたら名無しだった
 イッチ、外国人みたいな見た目なのか?

274:気付いたら名無しだった
 >>272 顔の彫りが深いから、たまに東南アジア系と勘違いされることはある。
 たぶん、この女の子もワイをそうだと思ったんだろうな。

「ひょっとして日本人じゃなかったりする?」と訊かれた。

「いや。日本人だけど」

 そう返すと、何故か彼女は噴き出した。

「うわ~。あんたって、見た目もヤバいけど、声もアレだね。完全に反社会的な雰囲気だわ」

277:気付いたら名無しだった
 イッチ、声もヤバいのかよwww

279:気付いたら名無しだった
 >>277 みたいだな。
 あんまり意識したことないけど。

 彼女は「とにかく移動しようよ。一緒に来て」とワイの腕を引っ張った。
「何で僕も一緒なんだ?」ってストレートに浮かんだ疑問を口にする。

「だって、もしわたしが1人でいるところをさっきのヤツらに見つかったら、また追いかけられるかもしれないでしょ。あなたはボディーガード役なの」

280:気付いたら名無しだった
 何のラノベだよww

282:気付いたら名無しだった
 この展開はあからさまにウソですわ

288:気付いたら名無しだった
 >>280 >>282
 な? 普通、こういう展開ってあり得ないだろ?
 当の本人であるワイもキョトンとしてたくらいだしな。
 ただ、彼女の言っている意味を呑み込むのと同時に、冗談じゃないって思いが浮かんできた。
 職無し、家無しのワイに、誰かのボディーガードをする余裕なんてあるわけがなかったし。
 それでも一応「何かトラブルにでも巻き込まれたのか?」という質問はしておいた。

「トラブルっていうか……」

 彼女が苦笑を浮かべながら、ホッペをポリポリかく。

「まあ、アイツらの1人がさ、長財布を後ろのポケットに入れてたんだ。チェーンとかも付いてなくてね。……だからさ、『これならいけるんじゃね?』って思って」

「いける?」

 ワイがその部分を強調するように尋ねると、彼女はアハハハハと空笑いした。

「つまり、その……。盗れそうだなって……」

「――は?」

「でね、さっそく行動に移したんだけど、運が悪くて盗ったのがバレちゃったの」

281:気付いたら名無しだった
 おいおいおい! この女さん、ヤベーヤツなのかwww

282:気付いたら名無しだった
 どうやら二元論に当てはめて考えた場合、さっきワイを見て逃げていった男達が“被害者”で、ここにいる彼女の方が“悪者”だったらしい。
 ワイが呆れていることにも気付かず、彼女は肩をすくめた。

「おしかったなぁ。本人にはバレずに盗れたんだよ。なのに一緒にいたヤツらに目撃されててさ」

 彼女の説明によると、スリがバレた直後、慌てて誤魔化そうとしたらしい。
 だけどハッキリ盗む瞬間を目撃されてしまっていたせいで、どんな言い訳も効果がなかった。
 それで身の危険を感じた彼女は、財布を投げ返して、走って逃げ出したというわけだ。

「まあ、返す前に、さり気なく中身は抜き取っておいたんだけどね」

 お尻のポケットから、しわくちゃに丸まっていたお札を取り出す。
 自分でもいくらなのか確認していなかったんだろう。
 彼女は目の前で広げながら数え始めた。

「え~と、1万円札が5枚と、千円札が2枚。けっこう持ってるね。もしかしたら某政治家みたいに、コロナ禍なのに風俗とか行くつもりだったりして」

284:気付いたら名無しだった
 某政治家? どういうこと?

288:気付いたら名無しだった
 >>284
 ちょうどこの時期、国会議員の中に、他人には『自粛しろ』って言っておきながら、自分は風俗店に行ってたクズがいただろ

289:気付いたら名無しだった
 そうだったんか? 知らんかった

292:気付いたら名無しだった
 ともかく、彼女は泥棒をしてたってことだから、ワイはちょっと心配して言ってやった。

「もしもあの人達が財布の中を見て、お金がなくなってることに気付いたら、警察に相談するんじゃないのかな? そしたらキミ、捕まるんじゃ……」

 すると彼女は急にハッとした顔をして、慌てたようにワイの腕を引っ張った。

「ねえ、警察来たらヤバいからさ、早くここから移動しなきゃ!」

 ワイはこれ以上面倒なことには関わりたくなかった。
 だから「いや。キミ1人だけで行けばいいだろ」って返した。

「はあ? あなたってバカじゃないの? わたしだけだと、アイツらに見つかったらヤバいでしょ」

「でも悪いことしたのはキミだし、仕方がないんじゃ」

「あなたさ、わたしが酷い目に遭ってもいいって言うの?」

 正直なワイの意見としては、別にどうだってかまわなかった。
 むしろ悪いのは彼女の方だったし。

293:気付いたら名無しだった
 ぐう正論

294:気付いたら名無しだった
 なのに彼女は「いいから一緒に来てよ!」としつこくワイの腕を引っ張る。
 だけど残念ながら力に差があり過ぎた。
 自分から動こうとしない限り、ワイはずっと同じ場所に留まっていられただろう。
 なのに彼女は諦めない。
 鼻息を荒げるように一所懸命力を入れている。そんな必死な姿を見ている内に、ワイの中に諦めのような感情が湧いてきた。
 それに心配にもなってきた。
 このやり取りを誰かに目撃されたら、ワイが悪い人だと勘違いされる可能性の方が高いんじゃないか? みたいな感じで。
 そんなわけで警察呼ばれたらワイとしても面倒だったから、仕方がなく「わかった……」と折れたんだ。

 彼女はかなり喜んでたな。
 素性がわからんくて、性格的にはかなり危ない感じの女の人だったけど、でも喜んでる様子を見ると、こっちも嬉しくなってしまうから不思議だった。

297:気付いたら名無しだった
 とりあえずどこへ向かいたいのかを尋ねた。
 すると「適当でいいよ」って返されたんで、とりあえず警察署とは逆の方向の海老名方面へ向かうことにした。
 その道すがら、ワイらは簡単な自己紹介をした。
 ワイが自分から教えたのは名前と年齢くらいかな。
 身長とか体重は、向こうから訊かれたから一応答えておいた。
 
 それから彼女の名前を教えてもらった。
 このスレでは、身バレしないように、一応、A子ってことにしておく

「わたしのことは、A子って呼び捨てにしていいよ」

 柔やかにそう言ってきた彼女だけど、どういうわけか名字は口にしなかった。
 一応、それとなく理由を尋ねてみたら、「そんな細かいこと、別にどうでもよくない?」とはぐらかされた。

298:気付いたら名無しだった
 仮にイッチがあの石戸谷洋平だったとしたら、A子の正体もわかってしまうけどな

299:気付いたら名無しだった
 >>298 個人の特定はヤバいからやめておいた方がいいぞ
 特にあの子の場合は未成年だし

231:気付いたら名無しだった
 しばらく経って、相模川にかかっているあゆみ橋を渡っていた途中、中腹辺りに差しかかったところで、A子は唐突にこんなことを言った。

「実はわたしさ、洗脳されてるんだよね」

「――は?」

「だから家出してきたの」

232:気付いたら名無しだった
 洗脳って……

235:気付いたら名無しだった
 どんどん、女さんのヤベーヤツレベルが上がってる

241:気付いたら名無しだった
 イッチ、とんでもないメンヘラと出会っちまったんじゃね?

255:気付いたら名無しだった
 >>241 正直、ワイも反応に困った。
 本気で言っているのか、それともネタみたいなものなのか判別がつかなかった。
 ただ、どちらだとしても面倒くさいことに変わりはない。

 このまま沈黙し続けると、どんな話題を続けられることになるかわからなかったから、「家出?」とワイは無難な疑問の方に食い付いておいた。

「つまりA子は、親と一緒に暮らしてたってことなのか?」

「そうだよ」

「働いてるのはどこらへん?」

 A子は身長もそれなりに高いし、服装も大人っぽい。
 メイクも(詳しいわけじゃないけれど)慣れているような気がしたから、ワイはすでに働いていると思ったのだが、「そんな歳上に見える?」とA子は不思議そうに言った。

「わたし、もっと歳下だよ」

「じゃあ、大学生とか」

「違うよ」

「高校生?」

「ううん。もっと下」

「……いやいやいや」

 ワイは思わず苦笑を浮かべてしまった。

「どう見ても中学生の見た目じゃないだろ」

「そりゃそうだよ」

「じゃあ――」

「まだ小学生だし」

256:気付いたら名無しだった
 ちょっと通報しといた

259:気付いたら名無しだった
 イッチ、小学生に手を出すのはアカンやろww

260:気付いたら名無しだった
 元々連続殺人犯って設定だから、通報しても今さらだな

263:気付いたら名無しだった
 >>260 設定じゃなくて、事実だけどな。
 とにかく、いきなり小学生って聞かされたワイはかなり戸惑った。
 もの凄く呆れていたから、ポカンとマヌケ面をしていたと思う。
 だけど彫りの深い顔で目つきが悪いせいなのか、「そんな睨まないで欲しいんだけど」とA子には言われてしまった。

「小学生? A子が?」

「うん」

「……ウソでしょ?」

「ホントだって」

 そう言ってA子はワイから離れ、クルリと一回転した。
 夜の肌寒い風の中で長い髪の毛が不規則に広がってたな。

「ま、『信じるか信じないかは、あなた次第です』だけどね」

264:気付いたら名無しだった
 都市伝説かよwwww

265:気付いたら名無しだった
 無邪気な様子だけなら、たしかにA子は子供のようだった。
 ただ、浮かべている笑みはどうにも胡散臭い。
 態度も言葉も適当な感じがしてたし。
 だいたいこんなにも大人っぽい見た目の小学生なんて、二次元でならともかく、リアルでは一度も目にしたことがなかった。
 だからたぶん、ワイをからかおうとしているだけなのだと思った。
 それにA子は、他人の財布からお金を盗んでおきながら、平然としているようなヤツだ。
 かなりいい加減な性格で、道徳心に欠けているのは間違いない。

 仕事を失い、住む場所がなくなり、お金も足りていないという、これまでの人生の中でも最悪に近い状況で、A子みたいな面倒な人と関わってしまうことになった不運を、ワイは心の底から嘆いた。

267:気付いたら名無しだった
 だからイッチは無差別に人を殺したんか?

280:気付いたら名無しだった
 >>267 いや、殺人はもう少しあとのことだ。
 とりあえず歩くのを再開すると、「ねえワイくん、お腹減らない?」と尋ねられた。
 返事はしなかったけれど、ワイはかなりの空腹だった。
 寮を追い出されたショックもあって、朝から何も食べてなかったしな。

 ……悪い。今日はちょっと疲れてきたから、続きは明日にするわ。

288:気付いたら名無しだった
 イッチ? ホンマに落ちたんか?

290:気付いたら名無しだった
 なあ、これ、書き込んでるのは本物の石戸谷洋平だと思うか?

301:気付いたら名無しだった
 >>290 どう考えても偽物じゃね

311:気付いたら名無しだった
 本物だろうが偽物だろうがどっちでもいいわ。面白いからワシは最後まで付き合ってやるつもり

345:気付いたら名無しだった
 A子って茜だろ? まだ小学生だったっけ?

355:気付いたら名無しだった
 >>345 下手に本人特定すると後が怖いぞ。

346:気付いたら名無しだった
 >>345 仮にその通りだとしたら、1年以上経ってるから中1かな?

348:気付いたら名無しだった
 未成年の特定するのはマジでやめておけ

349:気付いたら名無しだった
 まあ、A子が特定された通りの人物だったとしたら、母親は逮捕されてるけどなww

355:気付いたら名無しだった
 >>349
 逆瀬川彩胡だぞ。出所してから訴えてきたりして

354:気付いたら名無しだった
 >>350 覚醒剤やって捕まったんだろ? もう、以前みたいに、世論が味方したりすることないから大丈夫!

414:気付いたら名無しだった
 イッチーーー! まだ帰ってきてないのか?

418:気付いたら名無しだった
 >>414 今日はもう終わりじゃね?

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舞砂花螺
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