見出し画像

【エピローグ スレッドの内容をまとめる作業を終えて】

 石戸谷洋平と思われる人物が立てたスレッドのまとめと、その考察を記事にして送信し終えたわたしは、ノートパソコンの前で両眼を閉じ、深々と息を吐き出した。

 3年前、大切な恩人で、大好きだった村井教授を殺害したという冤罪で、わたしは刑務所に入れられた。屈辱的な毎日を過ごさなければならなかった。
 仮釈放が認められこうして自由に行動できるようになったとはいえ、二度と思い出したくはない忌々しい記憶だ。

 でも、一つだけよかったと思うこともある。
 犯罪に手を染めている連中と繋がりを持てたということだ。
 お陰でわたしの運命を狂わせた全ての者達に復讐を果たすことが可能になったのだから、皮肉めいたものを感じてしまう。

 それにしても改めて石戸谷洋平はよく動いてくれたと思う。
 ここまで復讐が上手くいったのは、彼が最初に逆瀬川茜を拉致することに失敗してくれたお陰だ。
 もしもあの時に失敗していなかったら、わたしの望み通りの展開になることはなかった。

 つまり石戸谷洋平が交番の前でぽかミスを犯し、逆瀬川茜が警察に保護されたお陰で、わたしは自分の復讐のために、石戸谷洋平を利用できたのである。

 ただ、石戸谷洋平もなかなかのものである。
 このわたしに対して、最後までウソをつき通していたのだから。

 石戸谷洋平がついていたウソ。それは彼がわたしと協力をすることにした本当の目的が、『逆瀬川茜を救い出すためだった』ということだ。
 こうして彼の書き込んだ内容を読んでみると、彼は最初から逆瀬川茜に復讐をするつもりなんてなかったという事実が、ハッキリとわかる。

 今頃、逆瀬川茜は石戸谷洋平にムリヤリ拉致されたという名目で、絶対的な支配者だった母親から逃れることができ、仮初めの自由を味わっているのだろう。

 本当であれば、私と飯塚光太朗の2人で彩胡への“処置”を終えたあとに合流し、逆瀬川茜に対しても、一生ものとなる肉体的・精神的苦痛を与えてやる予定だったのに……。

「まさかどこかに逃げてしまうだなんてね……」

 思わず自嘲が零れた。

 石戸谷洋平が裏切る可能性をまったく考えていなかったわけではない。
 だからいつでも居場所を特定できるよう、GPSで現在地を確認するためのスマートホンを渡しておいたのだ。
 しかし彼もなかなかのもので、一度も電源が入れられていないので居場所が特定できない。
 おそらくわたしの狙いに勘づき、すでに破棄しているのだろう。

 何にせよ、わたしの冤罪を確定させた検察官には、大切な一人息子の飯塚光太郎を致命的なまでの薬物依存症にすることで復讐を果たした。
 わたしが冤罪で逮捕される原因となった逆瀬川彩胡は、社会的な意味で完膚なきまでに殺してやった。
 残るは実行役だった触法少年、逆瀬川茜だけなのである。

「さて……」
 
 ノートパソコンを鞄に入れて立ち上がる。
 店員に見送られながら、3時間ほど利用させてもらったカフェをあとにする。

 間もなく蔓延防止等重点措置から緊急事態宣言へと移行することになる街は、昨年とは違ってそれなりに多くの人達で溢れていた。さすがにみんな、自粛自粛に飽き飽きとしてきたからだろう。

 わたしは昔に戻りつつある人の流れに紛れながら、目立たないようにゆっくりと街の中を歩いていく。
 できることなら3回目となる緊急事態宣言の発令中に、逆瀬川茜を見付け出し、復讐を果たしてしまいたいと考えながら……。


                                 了


創作活動にもっと集中していくための応援、どうぞよろしくお願いいたします😌💦