【ホラー小説?】もしかしたらワイって、ちょっとおかしくなってるかもしれんけど、どう思う? その5
13:気付いたら名無しだった
夕方の17時くらいだったかな。
ワイは京急の走ってる線路から近い場所でボンヤリ河川敷を眺めながら、次はどっちに向かうかを考えてた。
コンビニで買った新聞を読んだ感じでは、現時点で警察はたぶんワイのことを見失ってる。
余計なことをしない限りは、とりあえず見付かる可能性は低いような気がしてた。
ただ、長いこと一カ所に留まれば、いずれワイの存在に誰かが気付いて通報されるかもしれない。
だからこのまま神奈川を出て東京に入ろうと思い、どのルートを通るか少し悩んだけど、とりあえず一番近い六郷土手の方に向かって、ワイは多摩川沿いの河川敷を歩いた。
14:気付いたら名無しだった
緊急事態宣言中でも、河川敷を利用してる人はそれなりにいた。
他人と接触することの少ない場所だからだろうな。
走ってたり、自転車に乗ってたり、犬の散歩をしてたり。
みんなマスクを使ってるし、ワイも顔の半分は隠すことができてたから、たぶん正体バレないはずだと自分に言い聞かせながら歩いてた。
だけどやっぱり、人が多ければ、目敏くワイの存在に気付くヤツってのもいるもので……
17:気付いたら名無しだった
通報されたのか?
18:気付いたら名無しだった
六郷橋を渡り始めた時に、急に背負ってたリュックを引っ張られるような感覚があった。
で、反射的に振り返ると、そこに人がいた。
どうやらこのキャップを被った小柄な人が、ワイのリュックを掴んでいたらしい。
19:気付いたら名無しだった
中性的な顔の男性だった。
身長は低め。年齢もかなり若い。
まさか私服や非番の警官ではないだろうけど、ワイのような怖い見た目の人間のリュックをいきなり掴んでくるなんて、どう考えたって普通じゃない。
どうするべきか迷ったけど、とりあえず「どうかしましたか?」となるべく相手を刺激しないように尋ねた。
20:気付いたら名無しだった
するとその人が、いきなり「ぷっ」と噴き出した。
ワイはどういうことなのか、わけがわからなかった。
戸惑いから続く言葉を出すこともできず、ただただ相手の出方を窺っていた。
すると彼はワイの顔を真っ正面から見据えながら、「あんた、連続殺人で世間を賑わせてる、ワイさんでしょ?」と、口元をニンマリ笑わせた。
この時、たぶんワイは両眼を見開いてたと思う。
何で正体を見抜かれてるのかがわからなかった。
もしかしたら動画配信者で、ワイのことを私人逮捕しようとしているのかという予感が脳裏を過ぎった。
ただ、体格が違い過ぎるし、その気になって争えば、ワイには絶対に逃げ切れるって自信があった。
だけど警察に通報されたり、SNSで拡散させられたら面倒なことになる。
21:気付いたら名無しだった
逃げるか、それとも人違いのフリをするか、とにかく色々な対応方法が頭に浮かんでは消えていく。
そんな時、目の前にいた彼はキャップを目深に被り直し、口角を上げながら言った。
「俺達、実はあんたのこと、色々調べさせてもらってたんだけどね」
調べていた? ワイのことを?
やっぱり警察なのか?
それとも……
緊張感で筋肉が強張る。
すると彼は、完全に想定外の台詞を口にした。
「たとえば……そう……。ワイさん、あんたが本当はコロナ禍連続殺人事件の犯人じゃないってこととかも、俺達は知ってるよ」
23:気付いたら名無しだった
???
どういうことや?
24:気付いたら名無しだった
イッチ、本当は誰も殺してなかったのか?
28:気付いたら名無しだった
>>24 前スレの書き込みを信じるのなら、逆瀬川茜の父親だけは、イッチじゃなかったってのが確定だけど
33:気付いたら名無しだった
この時、たぶんワイはしばらく瞬きと呼吸を忘れてたはずだ。
しかも驚いてるワイに向かって、彼はさらにこう続けてきた。
「ここで出会ったのも何かの縁だし、もしあんたが嫌じゃなかったら、俺達で匿ってあげてもいいけど、どうする?」
36:気付いたら名無しだった
何やこの展開ww
39:気付いたら名無しだった
いきなりの協力者? しかも偶然出会った感じの?
41:気付いたら名無しだった
今までも胡散臭かったけど、一気に作り話っぽくなってきたな
42:気付いたら名無しだった
このイッチって、ニセモノじゃね?
48:気付いたら名無しだった
警察にも見付からなかったイッチを、こんなにも簡単に見付けられるって、不可能やと思うんだけど?
49:気付いたら名無しだった
語るの上手いからここまで信じてきたけど、やっぱ、そもそも全部フィクションやろ?
54:気付いたら名無しだった
信じてくれなくてもかまわん。
でもこれは事実だ。
いきなりこんな風に話しかけられたのも、匿ってくれるだなんて申し出てきたことも、本当にあったことしかワイは書いてない。
ただ、ワイ自身もこの時は、妙な申し出をしてきた中性的な彼に、胡散臭さしか感じてなかった。
それでもひとまずは提案を受け入れることにした。
このまま人目に付く場所に長く留まってたら、怪しいと感じた周りの人達にまで正体がバレてしまうと思ったからだ。
57:気付いたら名無しだった
このあとで具体的にどういうやり取りをしたのかは、あんまりハッキリとは覚えていない。
歩きながら会話を重ね、とりあえず人目に付かない場所まで連れてってもらう流れになった。
58:気付いたら名無しだった
案内されて辿り着いたのは、風俗街の中にあるコインパーキングだった。
そこに駐めてあった白のSUVの側に移動して、「それじゃあ、車で移動するからこれに乗って」と促された。
正直、ワイは車に乗るのをためらった。
彼の言ってることが全部罠で、このまま警察署まで連れて行かれる可能性もあったし……。
でも下手に断って、大声で叫ばれたりしても厄介なことになる。
だからワイは、いざとなったら走ってる車から飛び降りて逃げ出せばいいと覚悟を決めて、助手席に着いた。
60:気付いたら名無しだった
彼の運転で車が進み始めた。
歩いてた時にはそれなりに話をしてたけど、ここからはほとんど無言だったな。
車載のモニターで流れてたバラエティ番組の笑い声を、何となく不気味に感じていたような気がする。
六郷橋を渡る。蒲田警察署がある場所を素通りしたところでちょっとだけホッとして、さらには大森警察署前も普通に通り過ぎたことから、警察に突き出されるって恐怖はほとんどなくなった。
63:気付いたら名無しだった
そうか……
あの通りって、警察署がけっこうあったんだな
67:気付いたら名無しだった
大きな交差点で止まってた時、彼は唐突に「俺はK太だよ」と名乗ってきた。
「あんたよりも20歳くらい歳下だから、K太って呼び捨てにしてくれていい」
ワイがどう反応するべきか迷っていると、K太は微笑混じりに続けた。
「ちなみにあんたが六郷橋の所を通るって予想して、俺に見張っておくように言ってきたのは、俺の親友だ」
「親友?」
「そう。親友の女。
彼女がどうしてもあんたと会いたいらしくてさ。
俺はまさか本当にあんたが六郷橋に現れるとは思ってなかったんだけど、彼女には恩があるから疑いつつも言う通りにしてたってわけ」
「――僕と会いたい? どうして?」
「理由は本人から直接聞いてもらっていいかな?」
68:気付いたら名無しだった
K太はうさんくさいヤツだった。
巷で凶悪犯という扱いを受けている人物と偶然出会ったら、話しかけるとしても、多少はビビるはずだと思う。
なのにK太は、ワイをまったく怖れていない。
匿ってくれるのは、絶対に何か裏があるはずだとワイは確信していた。
例えば反社的な組織がワイを利用しようとしてるとか……。
70:気付いたら名無しだった
いきなりイッチだってわかってて話しかけてきたんだろ?
どう考えても不自然だよな
77:気付いたら名無しだった
ワイが訝しんでいるのを知ってか知らずか、K太は運転をしながら「俺の親友がね、断言してたんだよ」と言った。
「あんたは逃亡の途中で、必ず川崎を通って蒲田へ向かうってね」
ワイ自身、最初からそんな予定なんか立てていない。
川崎に来たのはたまたまだったはずだ。なのに――。
「何でそんなことがわかったんだ?」
一応、根拠を確認をしておこうと質問した。
「俺の親友はこう言ってたな。
『精神的に追い詰められた人間は、少なからずストレスの少ない場所を求める。だからまったく知らない土地を目指すよりは、ある程度知ってる土地を選ぶはずだ』ってね。
川崎を中継すれば、蒲田、品川を通って、川口まで、これまであんたが暮らしていた場所が続くことになる。
だからあんたが川崎時代に暮らしていたアパートから一番近い六郷橋を見張ってれば、出会える確率はかなり高いはずだって彼女は考えてたみたいだね」
言われてみれば、スマホのマップ機能が使えないこともあって、ワイは無意識に、少しでも知ってる場所を目指しながら移動してたような気がする。
80:気付いたら名無しだった
何でこのK太って男さんは、イッチの暮らしてた場所を知ってたんだ?
84:気付いたら名無しだった
>>80 週刊誌とかでもイッチの過去に関する情報は書かれてたからな。
そういう所から情報を仕入れてたんじゃないか?
98:気付いたら名無しだった
K太が車を駐めたのは、JR大森駅から少しだけ離れたアパートの敷地だった。
外観が綺麗だったから、たぶん築10年以内の比較的新しい物件だったと思う。
「こっちだよ」と案内されたのは、5階の南側の部屋だった。
ドアを開けて迎え入れてくれたので中に入る。
玄関と繋がっているダイニングキッチンには、大きな楕円のテーブルがあって、そこに椅子が四つ並べられていた。
「適当に座って」
一番手前にあった椅子に腰を下ろす。
K太は冷蔵庫からペットボトル入りの飲み物を取ってきて、ワイの向かい側に座った。
お互いに無言で見つめ合う。するとK太は急に吹き出した。
「何が可笑しいんだ?」
「いや、改めて向き合うと、あんたの顔がね」
「僕の顔が?」
「反社会的な雰囲気が漂ってて」
101:気付いたら名無しだった
まだこのネタ続けるんかww
102:気付いたら名無しだった
もうええわ!
109:気付いたら名無しだった
マスクをしていることで、ワイの凶悪な雰囲気もだいぶ誤魔化せてると思っていたけど、普通の人にはそう感じられていなかったみたいだな。
だったらもしもマスクがない状態を見られたら、どういう反応をするのだろうか?
確かめてみたくて、ワイはあえてマスクを外してみた。
途端にK太が驚くように両眼を見開いた。
「なるほど……。マスクを外したら、本当にヤバい見た目だね……」
かなりの小声だったら、さすがにちょっとビビってたのかもしれない。
111:気付いたら名無しだった
「ところで、僕を捜して匿おうとしていたのは何でなのかな?」
気になっていたことを改めて尋ねる。
するとK太は近くに置かれてあったタブレット端末を手に取って、「とりあえずこれを見て欲しいんだけど」と渡してきた。
モニターにはPDFが表示されていて、それには、ワイの中にいるもう1人の人格、“クライ”が起こした事件がまとめられてあった。
5月2日 N島、八王子で殺害。
5月4日 N下、川崎で殺害。
T野口、蒲田で殺害。
I藤、上大岡で殺害。
M波、大鳥居で殺害。
5月5日 A場、川口で殺害。
Y田、十条で殺害。
これに5月7日に殺害された2名を加え、合計9名の殺害を、警察はワイによるものであると断定していた。
112:気付いたら名無しだった
ワイはちょっとした違和感を抱いた。
いったいこの違和感は何だと思いながら、もう一度見直してみる。
すると殺害の順番が、覚えているのとは違うということに気が付いた。
114:気付いたら名無しだった
どういうことだ?
118:気付いたら名無しだった
>>114 すでに閉鎖されていた“クライ”のブログに、M波の遺体画像が掲載されたのは、たしか5月5日だったはずだ。
この辺は検証好きな誰かが確かめてくれればすぐにわかると思う。
123:気付いたら名無しだった
>>118 確認した。
確かにM波の遺体がブログに載ったのと、警察発表には1日のズレがある。
126:気付いたら名無しだった
当日、ワイはA子と赤羽駅に行っていたはずだ。
その時に、A場とY田ならともかく、大鳥居に暮らしているM波だけは殺すのが不可能だと考えていたことを、ワイはハッキリと覚えてる。
128:気付いたら名無しだった
前スレにもそう書かれてあったの、確認したで
133:気付いたら名無しだった
しかし殺害したのが、このPDFにまとめられてる通り5月4日であるのなら、その日に“クライ”がいたはずの川崎からも近いから、殺すことは可能だったことになる。
でも、だとしたらどうして“クライ”がブログに載せた日時をずらしたのかがわからなかった。
134:気付いたら名無しだった
ワイは深く息を吐き出し、混乱する頭を強引に落ち着かせた。
改めてPDFの内容に目を通していく。
警察やマスコミの動向などについても書かれてあった。
それによると、ワイが容疑者になったきっかけは、予想通り、【復讐の部屋】というブログが発見されたことだったらしい。
そして警察がワイを容疑者として指名手配したのは、5月8日付ということだった。
奇しくも、ワイが逃亡を始めた日だ。
もしも逃亡を実行に移していなかったら、ワイはあのホテルで捕まってたんだろうな。
136:気付いたら名無しだった
同日夜、クレジットカードの使用履歴などから、捜査員がワイの宿泊していたホテルへ向かったところ、部屋の中で、美容外科クリニックの開業医である、A子の父親(46歳)が、胸などを刺された状態で発見された。
そこにはA子の毛髪とかも落ちてたはずだ。
ただ、包丁の柄にワイの指紋が付いていたことなどから、殺害したのはワイであると警察は断定した。
こうしてワイに殺害された可能性のある被害者は、現時点で10名となっている。
また、こんなことも書かれていた。
『殺害されたA子の父親と、教育評論家として有名なA子の母親との間に生まれた娘のA子(11歳)を、少なくとも1週間以上に渡って連れ回し、警察から逃亡をする際にも人質として利用していたことなどから、一連の殺害全てが、計画的だった可能性もある』
と……。
139:気付いたら名無しだった
ワイもそんな感じの記事を読んだことあるで
144:気付いたら名無しだった
とりあえず中身を全部読み終えたので、ワイはタブレット端末をK太に返した。
するとK太は「やっぱり俺の親友の推測通りだったな」とワイを真っ正面から見据えてきた。
「ワイくん。あんたはあんたが殺したことになっている人達に、本当は手を出してないんだろうね」
あまりにも自信満々な様子に、ワイはキョトンとしてしまった。
「……どうして僕が殺していないってわかるんだ?」
するとK太は可笑しそうに顔を歪めた。
「俺の親友が言うには、人の脳ってのは、きっかけがあれば無意識に過去の経験を思い出すようになっているらしい。
その時には微かに感情も刺激される。
少なからず回想している過去と似たような感情が湧いて表情に出るんだ。
たとえばムカつく過去だったら、怒りの感情に目付きが鋭くなったりとか、辛い経験だったら、口が歪んだりだとか。
でもあんたは、殺人をする時に人が抱くような、怒り、歪んだ悦び、焦燥、脅えなど、そういった負の感情を、まったく面に出さなかった」
145:気付いたら名無しだった
たしかにその通りかもしれない。
ワイには誰かを殺した記憶なんてなかったからな。
だけど本当にワイがやってないとは断言できなかった。
何故ならワイの中には、“クライ”という人格が潜んでいて、ソイツが勝手にやったのかもしれないのだから。
ただ、とりあえずワイは、自分が解離性人格障がいかも知れないっていうことは、まだ伝えないでおくことにした。
150:気付いたら名無しだった
ワイ、この事件について興味持ったから色々調べてみたけど、イッチを匿った人がいるなんて情報、ネット漁ってもどこにも載ってなかったで。
これ、本当のことなのか?
156:気付いたら名無しだった
>>150 しつこいようだが、ワイが書いてることは全部真実だ。多少の記憶違いとかはあるかもしれないけどな。
159:気付いたら名無しだった
とりあえず今日はここまでにしておくわ。
明日からはちょっと忙しいから、しばらく離れる。
いずれまた続きを書くから、その時に暇だったら付き合ってくれ。