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横浜でも食べる、関西の月見団子

「そんなんは、月見団子ちゃう!」

母にそう言われたら、もう何を言うても無理。
私は諦めた。

テレビではサザエさんのエンディングテーマが流れていた。

日曜日夕方。その日のサザエさんは「お月見」の話があった。
木の台に積まれた丸いお団子。

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美味しそうやなあ、食べてみたいなと思い、母にねだってみた。

あのお月見団子、食べてみたい。

母はサザエさんをチラリとみて、即答した。

あんなんは、月見団子ちゃう。

あ〜あ、やっぱりあかんか。でも食べてみたかったなあ。
日曜日夕方、楽しいサザエさんも終わってしまった。

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小さな商店街で育った母は、「なるべく買い物は近所でする」をモットーにしていた。お肉を買うときはあの店、お豆腐買うときはあそこ、お魚はここ、と決めていた。お客さんがくる日のお茶菓子、お正月用に買うお赤飯、季節の行事ごとにいただく和菓子は、近所の和菓子屋さんで買っていた。


家族だけで営む小さな和菓子屋。丁寧に小豆から餡子を炊き、もち米からお餅をつくそのお店は、母のお気に入りだった。毎年十五夜が近づく頃、月見団子が店頭に並ぶ。小学校からの帰り道、毎日店の前を通りながら、そろそろあの月見団子並ぶかな? と友達と楽しみにしていた。団子が並ぶと「お母さん、今日、お店にあったで!」と母に知らせる。でも買ってもらえるのは十五夜の当日。母の帰りが遅い日は、あらかじめ私が買ってくることになっていた。

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寝る前にお菓子食べるのは禁止。でも十五夜の日だけは特別。晩ごはんを食べてお風呂から上がったら、家の前に出て兄とお月さんを探す。ぎゅうぎゅうと戸建てが建て込んでいる我が家の前からは、見上げる空も小さい。ちょっとだけ歩いて表通りでると、お月さんが見える。

家に戻ると、やっと月見団子タイム。つるんとした白いお餅にこしあん。毎年変わらないお団子。ひとり1個と決まっていたので、味わうように食べた。

次はまた来年かあ。

こしあんとお餅。そんな和菓子は他にもありそうだが、1年に1度、十五夜の日にだけ食べる月見団子は、特別美味しかった。

○●○●

「あれ?? こっちでは売ってへんのかな?」

6年前、横浜に来て初めての秋。月見団子がスーパーにも並ぶ頃、私は子どもの頃から食べ親しんでいた、あの月見団子を探していた。

月見団子には2種類あり、サザエさんで見たあの丸いお団子タイプと大阪で食べていたこしあん巻いたタイプ。両方を売っている。

なぜか私はそう思い込んでいた。

十五夜前に、スーパーに行くが、


ない。


出かけ先からの帰り、駅前の東急の和菓子屋さんを覗いたが、


ない。

あの、こしあんが巻いてある月見団子がないのだ。あるのは全てサザエさんで見たこのタイプ。

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横浜育ちの友達に聞いてみた。

「え? 月見団子ってあの丸いお団子しか見たことないよ。ますみちゃんが子どもの頃から食べてきたそのお団子は、関西にしかないんじゃないかな?」


え、、、

そうなん??

関西だけやったん??

衝撃である。鶏肉を意味する『かしわ』が標準語ではないと知ったときに匹敵する衝撃だった。

それから数年、月見団子はサザエさんで見たタイプのお団子をスーパーで買ったり、和菓子屋さんで買ったりしていた。サザエさんで観た憧れの丸い月見団子は、「うん。まあ、美味しい。かな」という味だった。

もうあの月見団子は食べられへんのかなあ。

そう思っていたが、なんと去年! 懐かしいあの月見団子を駅前の東急ストアで買えたのだ。

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京都の和菓子屋さんが催事会場に来られていて、懐かしの月見団子も販売されていた。関東ではあまり見慣れないので人気ないのかなと思っていたら、お昼すぎで残りあと数個。「月見団子、よう売れてますね」と言ったら、お店の人が教えてくれた。

結構、関西からこっちに移り住んでこられた方多いみたいでね。
昨日も一昨日も午後には売り切れてたんですよ。
みなさん、懐かしいなあ言うて、買うてくれはりした。


そうなんですか? 関西人は、やはりこの月見団子なんやねえ。
それにしても、買えてよかった!

あの頃と同じように、家族で一人一個ずつ食べた。

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この月見団子。餅は里芋または京都のえび芋の形を模しているらしい。
あんこは月にかかる雲、やら、きぬかつぎ、やらいろんな説があるようだ。

お月見の風習が中国から日本に渡ってきたのは平安の頃、という説があった。そのころは京の貴族たちが楽しむ雅な行事だったのだろう。お団子ではなく、里芋や海老芋をお供えしていたそうだ。芋がお団子になったのは江戸時代らしい。

日本各地に広がった月見団子。地方によっていろいろあるそうで、こんなサイトを見つけた。

長年買って食べていた月見団子。今年は初めて自分で作ってみた。

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十五夜にはまだ間がある9月の初め。東急に京都の和菓子屋さんがきていたが、さすがにまだ月見団子を置いていなかった。でも、どうしても用意せねばならぬ。こちらの企画に参加するために。

クックパッドで検索したら、『関西の月見団子』のレシピがいくつも出てきた。
その中で、一番材料が少なくて、一番簡単そうなレシピを選んだ。

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白玉粉、こしあん、水。以上。用意万端。週末に作ってみた。
だが、、白玉粉と水だけでは、手にべったんべったんついてまとまらない。

そうだ! あれをちょっと混ぜよう!

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かたくり粉を少し混ぜたら、水分を吸って綺麗にまとまった。

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うーん。海老芋や里芋の形にはならず。でもこのまま茹でる。

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浮いてから3分。掬い上げて、冷水で冷ます。こしあんを手にとり、薄く長細く伸ばす。水気を拭き取った団子にくるりんと巻いて完成。

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ぽってりした仕上がりになったが、関西の月見団子だ。

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「何これ? 赤福もち?」という息子。

月見団子! あんた、大阪おった時何回か食べたやろ? 

と言っている間に、つるんつるんと口に入れていた。

うまいな!

どれどれ。うん。関西の月見団子だ。お餅がかなり白玉団子寄りだが、美味しい美味しい。赤福とは違う味。

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家族三人。それぞれが生まれ育った大阪は、遠くなってしまった。それでも時々「大阪で食べてたあれ!」「関西のあの味」が懐かしくなる。月見団子もそのひとつ。今年の十五夜は、もう一度月見団子作ろうかな。それとも、京都からやってくるあの和菓子屋さんで、今年も買ってみようかな。


美味しいはしあわせ「うまうまごはん研究家」わたなべますみです。毎日食べても食べ飽きないおばんざい、おかんのごはん、季節の野菜をつかったごはん、そしてスパイスを使ったカレーやインド料理を日々作りつつ、さらなるうまうまを目指しております。