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理と情のはざまから見えてきたものとは? 『シン・ニホン』を読んで

「運用益で研究開発支援 大学支援ファンド創設
最大10兆円規模 政府 民間機関に運用委託も(2020年7月15日 日本経済新聞より)」

この記事を覚えている方はいるだろうか?

 この政策は『シン・ニホン』でも提言されている通り、安宅和人さんが数年前から発案及び各所で提言されたことがきっかけとなっている(『シン・ニホン』P303「10兆円規模の基金を立ち上げようー国家百年の計」より)。

2020年7月19日 安宅さんはTwitterに以下のようにコメントした。

「本件に関しては政府審議会だけでも相当数、自民党本部でも何度も、大臣個別でもそれなりの回数、省庁政府高官の方々とも相当数、経団連ほか有力者にも相当数、合わせて恐らく100回近く説明、投げ込みを行ってきました。未来に後悔したくないなら、変化が起きるまでやるしかないという見解です。」

 この本は副題にもあるように、AI×データ時代における日本の再生と人材教育の課題と解決策の提言が主たる内容である。
 私はこの本を個人及び勉強会を通して数度通読したが、この本の私なりの位置付けは、「日本の将来に漠然とした不安を持っているが、何をどうしたらいいかわからない。そんな人たちに勇気ときっかけを与え、背中を押してくれる存在」と解釈している。ここではその解釈に至った理由について述べてみたい。

①全てを事実(ファクト)から考える
 同著では全てはファクトをベースとした課題認識及び提言である。
情報過多の時代、我々はいつの間にか何が正しい情報であり、何が誤った情報なのかを確認することが無意識に放棄することが増えてきたと思う。日本の現状についても同様であると感じる。特にグローバルで見たときの日本の生産性及び科学的技術力は、事実に基づいた推移を見るともはや先進国とは言えないレベルになってきている。また同時に日本の貧困層も想像以上に拡大しつつある。これらの事実を一次情報から冷静に正しく直視することが全ての起点であり、問題意識のスタートとなるはずである。
 個人的には特にGDPに占める人材教育投資比率が国際的には圧倒的に低いことに衝撃を受けている。数字上では日本の優位性は残念ながらもはや無い。
『シン・ニホン』では膨大なデータとその分析が掲載されているが、いずれも日本の将来が危機的な状況にあることを強く認識させられるものである。

②自分ごととして捉えられる
 同著の構成は以下のとおりとなっている。

1章 データ×AIが人類を再び解き放つ
2章 「第二の黒船」にどう挑むか
3章 求められる人材とスキル
4章 「未来を創る人」をどう育てるか 
5章 未来にかけられる国に
6章 残すに値する未来

 一見するとどのテーマも壮大すぎて、私には関係なさそうだと思ってしまう。確かに記述されている内容も決して簡単な内容ではない。ただ、そんな態度ではこの本を読んでも単なる知識で終えてしまうことになり、一週間もすると内容すら忘れるであろう。
 どの本でもそうであるが、書かれていることをいかに抽象化し、自分ごとに置き換え考えるかこそが重要である。
 例えば4章に未来を仕掛ける人を育てる6つのポイントに関する記述がある。これをパッと読んで、内容は理解できるが自分は教育関係者でないのでどうすることも出来ない、と捉えるとそれまでである。
 それを自分ごとに引き寄せ、日本とも言わず、自分の属している組織の未来がどうあって欲しいか?その未来を創るためにはどのような人材が必要であり、どのような育て方が出来るのか?という視点で議論することが出来るのではないだろうか。同著の内容は一つの問題提起であり、それをもとに自分なりの課題設定や方向性をいくらでも考えることが出来る。

③「理」と「情」で動かされる
 私はこの本を読み終えたとき、自然と自分も動かなきゃという想いに駆られた。なぜそのような想いになったのか。改めて思い返せば、本の内容が興味深かったことだけでなく、安宅さんの実行力(実践力)にも共感したからだ。
 国家レベルでは安宅さんの日本に対する危機感とポテンシャルを「理」で感じ、また著者個人の厳しさと温かさという「情」を感じ取ることが出来た。
 本のコンテンツは一貫して「理」であるが、根底には著者としての「情」をしっかり感じた。まさに、「理」と「情」によって人は動かされるプロセスをこの本を通じて経験している途中である。

 私がこの本を偶然手に取ったのは2020年3月であった。そして今は夏真っ盛りの夏である。この間コロナウィルスの影響も大きく変わり、人々の行動様式や意識も大きく変え、今後どうなるかは未だ全く想像がつかない状況である。そのような大きな変化の影響もあるからか、この本は読むたびに興味や気づきのポイントが変わってくる。
タイミングや読み手の環境によって、印象や課題感が大きく異なってくる本なのだろう。私も一人で読むだけでなく、この本に興味を寄せる数多くの人たちと議論を行い、一歩前に進める未来創りに貢献できればと思っている。
 最後に、この本の中で一番好きなフレーズを記したいと思う。

 もうそろそろ、人に未来を聞くのはやめよう。
そしてどんな社会を僕らが作り、残すのか、考えて仕掛けていこう。
未来は目指し、創るものだ。

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