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土壁は母なる大地の胎内に包まれるような優しさがあるのだ

全てのものは、土から生まれ、そして土に還る。

人の暮らしはかつて土と共にあった。

今ではその土を目にすることもさわることも減ってしまったような気がする。

土壁は母なる大地の胎内に包まれるような優しさがあるのだ。

8月1日13時30分ごろレンタカーで大分県日田市にある原田左研についた。原田左研の原田進さんは、左官のカリスマ久住さんに弟子入りしたこともある65歳の職人だ。当時は久住さんに弟子入りしたくて大分県から淡路島までバイクを飛ばして行ったが、たまたま久住さんが京都の現場に行ってしまっていたので会えなく帰還したらしい。そのあとちゃんと連絡をして正式に弟子入り、それ以来10年以上にわたって共に活動したというからかなりの経験の持ち主である。

原田さんのアトリエにはたくさんの塗り見本がある。白い壁、茶色い壁、赤い壁、鏝押さえ、ひび割れた地面のようにバキバキに割れたもの、砂鉄を蕨粉で塗った壁、よくもまあこんなに作ったものだと感心してしまう。原田さんの頭の中には、いつもこの素材をこんな風に塗ってみたらどうだろうのアイデアが浮かんできるのだ。

見本の裏側には調合が書いてある。これは左官職人にとってとても大切なレシピだ。土、石灰、藁すさ、蕨粉の澱粉糊、砂、全て自然からいただいたものを人の手を通して、素材を生かすことができる順番と方法で混ぜることで、それらはとても温かみのある壁になることができる。

土壁に入れる藁を手に入れるために田んぼをやっている。ちょうど水が止まってしまっているのを治しに行くというから川に一緒に行ってみると、近所の老夫婦が待ち合わせの場所にいた。どうやらその場所に建つ家がその二人の住まいのようだ。川には中央部分がえぐれた堰があって、そのえぐれた部分からほぼ全ての水が下流へと流れていた。その部分に木の板を渡し、それを石で固定してブルーシートで壁にすると、水の流れが堰き止められて横にある取水口に行くというなんとも原始的な仕掛けであった。一度でも本格的な雨が降れば一瞬で流されちゃうぜというようなものだけれど、皆こんなもんだよという。

「米を作るのは大変なんだよ、にいちやん」老人から言われた。でも原田さんにとって大切なのは米ではない。藁である。原田さんの置き場にはたくさんの藁が保管されている。今では米の収穫の時にコンバインで藁を細かく切って田んぼに戻してしまうから、こういう長い藁をとってほいてくれる農家は少ないそうだ。左官という生き方、また一つ大切なものを目にすることができたような気がする。

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