顔、引っ張りたいなぁ~本番~

もう30年近く、歌を生業としてきたが、未だに、レコーディングやライブ仕事の時は、緊張でお腹を壊す。

クリニックへ行く前夜、それなりに緊張していたのだろう。
何度も目が覚めたが、お陰様で、お腹は壊さずに済んだ。

予約の時間に到着。
スタッフさんはみんな綺麗。
そりゃそうだ、お見本ですもの。
きっとあれでしょ?
社割りとかで施術してもらえるんでしょ?
いいなぁ。(勝手な推測)

まずは待合室でカルテを書くのだが、平日の昼過ぎなのに、結構お客さんいるんだな。
男性もいる。

私はカルテを書くのが遅い。
だって、漢字が分からなすぎるので、いちいちスマホで確認するから。
平仮名でもいいじゃないかと思うが、アホがバレたくないのだけはいっちょ前、プライドはしっかりある。
そして、「不安を感じやすい人」は漏れなく全てを伝えたいので、カルテも細かく書く。
タレントさんが番組の前にアンケートを書くが、私だったら真っ黒になるかもしれない。
自分を知ってほしい欲が果てしない。

2度ほどスタッフの綺麗なお姉さんがフライングで現れた。
でも皆さんとてもよく教育され、急かすこともなく、そんな雰囲気も出さず、ふわっとその場を離れてくれる。

さぁ、カウンセリングだ。

当初は、二重あごと、ブルドックほっぺを無くしたい、目の下のクマを無くしたい、の予定だった。
「顔、引っ張りたいなぁ」とは思っていたのだが、何しろ、糸リフトは高い。
素人は弛んだ脂肪を吸引すれば済むのではと思ったのだ。

二重あごは脂肪吸引で、と思っていたら、脂肪溶解注射を勧められた。
脂肪吸引はデコボコする事があるので、顔ならば脂肪溶解注射の方が良いのだそうだ。
確か、見栄えを気にしてクリニックに来てるはずなのだが、そう言われても「別に気にしないけど…」と、とんちんかんな事を思っていた。
早くも集中力が切れてきたようだ。
瞬発力だけで生きているので、集中力も長くは続かない。

そう言えば、歌も瞬発力で出るはずのない音域まで出す。
気合だ。

などと、私の意識がお出かけしている間に、脂肪溶解注射の方が若干安いと聞いて、集中力は引き戻された。

目の下のクマは、私の場合、下瞼の裏からクマの脂肪吸引をするのが良いらしい。
ただ、脂肪吸引しただけだと凹んでしまうので、ヒアルロン酸を注入する。
こちらはすんなり納得。

最後はブルドックほっぺだ。
私は犬が大好きだ。
私がブルドックならば「可愛いねぇ♡」と褒め称えられるはずなのに。
悲しいかな、人間は老けて見えるだけ。

この脂肪を除去するには、口の中から吸引するらしい。
その名も「バッカルファット」
何度でも言いたくなる響き「バッカルファット」

しかし、下瞼の裏からの脂肪吸引はなんなく受け入れられたのに、口の中からの脂肪吸引は受け入れ難かった。
何故だか、口の中の方が怖かったのだ。

中学生の頃、歯の矯正をした。
3年ほどかかったが、それはそれは痛かったし、不便だった。

その記憶が影響してか、「バッカルファット」の詳しい説明を聞く前に、「顔、引っ張りたいなぁ」で頭の中がいっぱいになった。
また、私の意識がお出かけし始めた。
勝手に出かけるな、戻って来い。

引っ張ったら、ブルドックほっぺも、目立たなくなるんじゃない?(素人考え)
奮発しちゃう?(ローンだけど)

結局、糸リフトの誘惑に負けた。
だが、値段を聞いてびっくり!
想像以上の高額。
片方6本、左右で12本。
全て良い糸にしたいけど、さすがに勇気がなかった。
カウンセリングスタッフさんが、2種類の糸の組み合わせをいろいろ出してくれて、値段を比較させてくれた。
結局、フェイスラインと口元ブルドックさんには高い糸を、ほうれい線には安い糸を。

結果、8年ほど前にやった二の腕とお腹の脂肪吸引より、高くなった。
清水の舞台から何回飛び降りたら元が取れるだろうか。

カウンセリングスタッフさんから、先生に変わり、最終チェック。
「不安を感じやすい衝動的な人」に、考える時間を与えてはいけない。
もちろん、今からやります!
「では、ローンのお手続きを…」
ここからが長かった。
いや、私がポンコツな為に、長くかかってしまった。

今どき、契約書類関係はタブレットである。
脂肪溶解注射はアレルギーチェックがあるので、今日はできないらしい。
おかげでローン申込書類を、今日やる施術と後日やる施術用に、2つ書かなければならない、タブレットで。

また綺麗なスタッフのお姉さんがやってきて、紅茶なんか出してくれて、「ご記入できましたらお呼びください」と私をひとりにした。
名前入力…メールアドレス入力…あれ?アンダーバーはどこですか?
もれなく綺麗なスタッフのお姉さんを呼ぶ。
教えてもらう。
住所入力…あれ?カタカナってどこ?
もれなく綺麗なスタッフのお姉さんを呼ぶ。
教えてもらう。
あれ?あれ?あれ?
…もれなく綺麗なスタッフのお姉さんを呼ぶ。
「すみません、使い方がわからないので付いててもらっていいですか?」
申し訳ない、本当に申し訳ない。
心の中で「おばちゃんはこれだから…」と思っているか否かは定かではないが、そんな表情ひとつも見せずに、綺麗なお姉さんは綺麗で優しい佇まいで、私を見守ってくれた。

ローンも通り、いよいよ施術。
またしても、私のポンコツっぷりが発揮される。

「笑気麻酔」と私の相性は最悪だった。

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