「独立器官」と、或る夫婦。

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「妻を愛してるけど抱けないので、彼氏になってほしい」結婚1年目でセックスレスになった夫婦が、妻の彼氏と一緒に住むまで
2021年9月26日 11時0分   文春オンライン

この記事の方々は東京グラフィティの7月号でも取り上げられてるので覚えてました。それとは別に村上春樹短編集「女のいない男たち」内の短編「独立器官」のことを考えていて、「独立器官」に登場する、お金持ちで洒落てて未婚だけど、女性には困ってない男。主に女性の都合で相手が数年で入れ替わっていくという恋愛といえるのか微妙な男女関係を社交ダンスのようにつづけてる。男がそんな気楽で、他人に深く関わらず、他人からかも過干渉されない日常で、ある人を好きになり、裏切られ、破滅する物語を、第三者の視点で物語られる話。食事も摂らず衰弱死していく最期は、美しくない恋愛小説のラストのようでした。

いつものように「残念だね。さようなら。」と別れればいいのに、そういう切り替えができなかったのはなぜなんだろう。本気だったから?本気の恋だって破れることはいくらでもある。大抵の恋はうまくいかない。裏切りだっていくらでもあるだろう。なぜ初老を超えてる年齢で大失恋からの死なのか。「自分の総決算たる恋に破れたから」なのかもしれない。しかしそんな潔く恋に準じれるなら、今まで浮名を流した大勢の女性たちは何だったのか?互いに無料のホスト気取りと無料のホステス気取りの気取ったデートだったのか?
真に価値有るものを見つけた後にはそれらの過去は無駄時間に映ったのだろう。実際に無駄だし。
それなりに価値有ることだと思っていた夥しいデートが「真実の愛」に目覚めたら色褪せた。しかしその「真実の愛」も、ただのまやかしだったので、過去も今も無駄時間と化した。だから絶息を選んだのだろう。

「独立器官」この物語は何がどうだったら、ただの失恋で留まれたんだろう。

そう考えていた矢先に上記の記事を思い出しました。当事者全員の話し合いの上で納得して奥さんに公認の彼氏が出来る。エキセントリックな結論はこの際問題ではなく、全員の意思確認や、出来ること出来ないことを伝え合い妥協点を見出してる。全員が全員に対する善意や好意がある。理屈にも感情にもしっかりみんなレスポンスしてる。

「独立器官」に無いのは各々の意思に対する充分なレスポンス。しかも嘘つきすら居る。

話し合えば上手くいくことばかりではない。破談もおおい。とくに色事なら尚更。上手くいかないのを見越して、表面だけ繕って美味しいとこ取りだけしようとする。それだけでも難しいことかもしれない。それでも表面は表面。表面を撫でるだけでは、その本質を知ることとはほど遠い。
本質に目を背け、表面を撫でて、楽しくすごしてるだけ。
何も素手で掴む気がなければ、たまの真剣勝負にも碌に力も出しきれず無惨な敗北も仕方ない。

記事のご夫婦はどんな変化球でも変わった捕球をしてでも捕る気満々。
その普通の人が立ち向かわない方向への生真面目さが互いの結びつけている。この結びつけようとする努力。これが「独立器官」のあの男に足りなかったものだろう。

自分自身と向き合い、他者とも向き合う。もちろん嘘もつかない。
そこまでして上手くいけば泣くほど喜び、上手くいかなければ哀しみ去っていく。これならきっと生きていける。逃げ続けたら、ただ逃げるだけで終わってしまう。逃げるにしても、逃げることに自覚的であったなら違っただろう。自分で自分を見つめようとしない限り、始まらない。

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