14日目 さらばチクチクギトギト

彼女は若い看護師の中でもなかなかばっさりした物言いをした。砕けた話言葉、堂々とした姿勢、患者にはため口だった。なんでそんなこと頼むんだ、と言われそうでちょっと話かけにくいと思っていたが、今日私は彼女に救われた。

あいかわらず左目に何か刺さるようなチクチク感があり、目を開くのが辛かった。刺激の度に涙がでる。もう3日目だ。何もできない。見ることができない。ストレスだった。

涙目の私に気付いてくれた看護師、それが彼女、Nさんだった。もちろんこれまでも、看護師さんや面会にきてくれた家族には、左目のチクチクを訴えてきたが、解決にはいたらなかった。Nさんは私の目をよく覗き込んだ。「あー…?なんか入ってんね。これかも」先日の手術は左目の下、涙袋と目の間の際を切開し、そこからプレートを入れるものだった。切開した部分を糸で縫っていた。その結び目から出た糸の端、これが悪さしていたことを発見した。チクチクの原因だった。Nさんは、看護師は勝手に糸を切ってはいけないのだけれど、と糸の端の向きを上手に変えて、眼球をつつかないようにしてくれた。見事に違和感が消えた。ここ数日の憂鬱感が一気に晴れた。気持ちがとても楽になった。

左橈骨とは、左肘と手首をつなぐ太い方の骨だ。この骨が折れた。開放骨折という、骨が皮膚を突き破ってしまうタイプの骨折だった。最初の処置で元の位置に戻され、皮膚は縫われているが、固定はしていない状態だ。だからギプスで外からがっちり固められている。来週、左手首の骨折した部分に金属プレートを入れ、内部からしっかり固定する手術をすることになった。要はその手術説明が行われる。母と夫が説明をききにきてくれた。金属プレートは7~8カ月以降、状態がよければ取り除く。骨は折れると、そう簡単にはくっつかないのだ。

骨盤の創外固定は6週間はつけておくもの、と言われた。骨盤骨折したとはいえ、ありがたいことに痛みはない。折れ方によっては激痛とのこと。骨盤に負荷をかけてはいけないが、足は怪我もせず元気である。はやく足をつかいたくてうずうずしてしまう。使えない健康な足。どんどん細く、筋力がなくなっていく。足のことだけ考えると歩けるかもしれないけれど、身体はつながっている。骨盤は体の要だ。腰は肉月に要と書くではないか。今できるのは、足の筋力がなくなってしまわないように、できる限り筋トレをすること。足上げ、足首パタパタ、地道に続けよう。

車いすでトイレに行った。いつものように二人がかりで便座に座らせてくれる。用をたしたらトイレ内のナースコールで看護師さんを呼び、再び二人がかりで車椅子に乗せてもらう。肉体労働、申し訳ない。いつもありがとうございます。トイレから病室に戻る時、洗髪の提案が。や、やっと髪を洗えるのか!ギトギトでベタベタになった10日以上洗ってない髪の毛。シャワーはまだ入れないので、洗髪台を使って髪を洗ってもらえることになった。最高に幸せだった。最高に気分がよかった。(洗髪中の気管切開部分のむせと痰だけは心配だった。頻繁に痰が溜まり、吸引しないとむせてひどく苦しいので、ベッドから離れるのは恐怖だった。しかしそれにしても洗髪は魅力…!)

目のチクチクとのさよなら

ギトギトの髪とさよなら

しばしの開放感を味わった日だった。





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