旅から旅行へ

旅は、モータリゼーションや客船の登場、航空網の発達によって著しく一般市民の間に普及するようになった。熱機関登場以前の旅は非常に労力とリスクの伴うものであったことは容易に想像できる。日本一周を決意した伊能忠敬の様に、当時の旅というのは相当な覚悟を要するものであったはずである。限られた人間にしか可能ではなかった旅という体験を、現代ではほぼ全ての日本人が享受できるということは非常に素晴らしいことである。

しかしながら、旅により得られる体験の本質というものは、当時も現代もあまり変わらないはずである。「異文化と触れ合い、新たな発見をすること。」これはどの時代の旅にも共通する体験である。

とはいえ、以前までの旅と決定的に異なることがあるとすれば、それは目的地に至るまでの連続性が現代の旅においては希薄になっているということであろう。熱機関登場以前の旅は、目的地までの道程も旅に内包されていたが、現代における旅は目的地こそが旅の大きな意味を占める。これは、拠点と目的地を結ぶ時間、経路ともに著しく短縮された結果によるものである。したがって現代の旅は、2点間を結ぶ非連続的なものであり、以前の旅に見られた文化の連続性の体験や、道中での予想外の発見というものが無い。

その意味で、現代において真の意味での「旅」は達成し得ず、私たちが旅だと考えていたものは全て「旅行」であるのかもしれない。

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