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父の人生を変えた『一日』その88 ~情熱と覚悟~

その88 ~情熱と覚悟~
 建設業特有な商売形態が存続していた。いわゆる『随意契約』であった。ある現場の電気工事をA社が行った。そこに増築の工事が発生した。その工事の図面はA社が書いて工事が行われ配線から図面から熟知していた。増築時に別の工事会社が入ると最初から図面・配線・調査から始まり色々とコストがかかるという。その意味で随意契約は既存の会社が行うのが通例であった。しかしそれは『談合』の温床と見られることがあった。その対策が検討された。そのうちに談合で捕まった人に聞くのが一番と言ってその会社を電気業界幹部が訪問して色々と聴取した。それは金沢の大手の某電気会社であった。もう時効になっているのでとその人は抜き打ち緊急調査から始まった事柄を色々と教えて頂いた。非常に勉強になった。
 談合罪で捕まった場合にはその弁護士が特殊な弁護士会社を起用することもわかった。(弁護士全員が公正取引委員会出身のOBで出来ている弁護士協会があった。)なるほどと思った。その道の専門のプロの弁護が出来るのである。
「ライオンさん、相手は公務員です。」
「いくら取り調べがきついと言っても朝の9時から夕方5時までしか調べませんから」と言った。
その人は抜き打ち捜査で机の物全部没収されていたという。この時はこういう風に対処するこの時はこうだと過去の経験談をしっかりと教えてくれた。最終的にその調査は「限りなく灰色に近い白」で判断され結審したという。その会社の社長が今まで頂いいた文化勲章も没収されずに済んだと言う。色々な経験談を勉強する事によってその対応に抵抗力がでてくるものである。ライオンはどっぷりと電気業界に浸り益々電気屋になっていった。


~倅の解釈~
 親父は総合商社出身。日々、ライバルどうしてギラギラとしながら価格競争、情報戦争を繰り広げていたマーケット出身であったため、建設業界の談合問題と直面した時、びっくりしたに違いない。また、父は官公庁相手の仕事はしていなかったため、この記載にも少しずれがある。厳密に言えば問題になるのは「官製談合」である。父は日々ライバル商社マンと闘っていた。同業者として商売というフィールドでも、ゴルフをしていても、麻雀をしていても。闘っていた。
 ある面白いエピソードがある。商社マンは闘う相手はライバル企業とだけではない。国家間の商売をしている以上、為替の変動は大きなことだ。絶えずポケベルを持っていてある一定の金額変動があると音が鳴る。いつも気にしていた。私が10歳ぐらいの時か、夜中親父が飛び起きで出て行った。あまりにもバタバタしていたので、私も起きてこのときの記憶がある。ものすごい顔をして出陣していった。
 そして、夕方満面の笑みで帰ってきた。大好きなダンジェナス蟹をお土産に。
 「いい商売が決まった」一言だった。その時は早朝に出て行った意味や、帰ってきた時の笑みの意味が分からなかったが、後々聞いて納得した。
 要は夜中にポケベルが鳴った。ありえない為替変動があったのだ。要はアメリカ側の木材を買うタイミングであった。ただし、どこの商社マンもこのポケベルを持っている。そして、その時一番木材を保有する港も1か所だったらしい。そこまで、各商社マンが住んでいるシアトルエリアから港まで車のレースであった。
 ある商社の営業マンは朝まで待って出発したらしい。問題外。勿論、父は一番に港に着き、すべての木材を買い付けることが出来た。この話にはおちがある。4時間の道のりを猛スピードで走っていたので、高速道路で4回、スピード違反で捕まったという。勿論、違反は違反で悪いことだ。でもここで商売の大きな大きな差が出たのである。保険会社から除外通達が来たらしいが会社がすべて金額を負担してくれて、新たな保険会社と契約してくれたらしい。
 果たして私にこれだけの情熱と覚悟があるのか?弊社の営業部長を見ていると彼の情熱と覚悟からは多くの学びを得ることが出来る。私はまだまだである。50歳まであと7年。頑張らなくては。
 勿論、「スピード違反」も「官製談合」も法律違反である。これは絶対にダメである。

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