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【翻訳記事】TUNICのサウンドや効果音に隠された秘密について

『TUNIC』というゲームの開発者がX(Twitter)で1年ほど前に明かした、作中の音楽/効果音に隠された秘密についての一連のスレッドの翻訳記事です。RiJでも走られ、少し注目が集まっているのでちょうど良いかなと(ただし既プレイでないと読めません)。該当のスレッドへのリンクはこちら。

英語でかつ長めのスレッドのため、読みやすいように日本語に翻訳してまとめました。意訳気味のところもあるので、気になる方はぜひ原文で読んでください。ただしWeb上だと古い埋め込み動画がなぜかうまく再生されないことがあります。アプリや埋め込みだとなぜか大丈夫なので、この記事に埋め込まれている動画は問題なくそのまま再生できるはずです。

以下が翻訳となります。元スレッドのツイートごとに区切って番号を振ってあります。なお、翻訳・掲載に当たって@regameyk氏の許可を取ってあります。

1.
『TUNIC』も発売からそれなりに経ちましたので、サウンドに隠された秘密について少しお話したいと思います。

2.
当然ながらえげつないネタバレを多く含むので、未プレイの人はいますぐブラウザバックをオススメします。

3.
『TUNIC』の大きなデザインコンセプトのひとつに、「あなたはこの世界に属さない、いるべき存在ではない」という雰囲気を出すことがあります。プレイヤーはこの世界のヒーローではなく、行くべき道も分からず、言語すらも満足に読めません。『TUNIC』の秘密はプレイヤーにとっては理解不能であるだけで、最初からそこに当然のように存在するものばかりです。理解できないのは、あなたが異分子であるからなのです。

4.
たとえばよくプレイヤーに「Trunic」なんて呼ばれたりもする『TUNIC』内の文字は、開発としてはプレイヤーに完全な解読を期待しているわけでないものの、時間をかければちゃんと理解できるように作ってあります。

5.
ゲーム内に存在するオブジェクトの起動方法も、Trunicで記された情報も、コマンド入力の方法も、ゲームの進行で解禁されるわけではなく最初から存在します。ただプレイヤーにはその知識がないだけなのです。

6.
『TUNIC』の効果音やBGMにもこのコンセプトが適用されています。つまり、初見のプレイヤーにとって最初はただの音の羅列であっても、正しい知識を得ることでその意味を理解できるようになる……いわばTrunicの音版のようなものを、開発段階から構想していました。そこで私は音による暗号をデザインしました。これは『TUNIC』のゲームを通して使われています。

7.
この音暗号の詳細についてはまた後で触れますが……まずはTrunicの構造について解説するべきでしょう。Trunicの謎を解いた人ならばご存知かもしれませんが、この文字は発音記号のような構造を持ちます。

8.
各記号は子音、母音、もしくは子音と母音の組み合わせを表します。

9.
文字の「内側」が子音を表します。

10.
そして「外側」が母音を表します。

11.
基本的に「子音→母音」の順番での発音になりますが、文字の下部に小さな◯がついている時はこれが逆になります。

12.
文字の真ん中を通る線は単語を区別するための装飾のようなものです。この線が途切れるところが単語の切れ目となります。

13.
この文字を解読できた人は、ゲーム終盤にある「Glyph Tower」の謎にも辿り着いたかもしれません。

14.
そしてこの謎を解くと、https://doyoufeartheeyesofthefarshore.co/に辿り着きます。まだ聞いたことがない人がいれば、聞いてみてください。そしてここまで来るとようやく!『TUNIC』の効果音に隠された秘密のヒントが与えられます。

15.
このサイトで流れる音をダウンロードし、スペクトル分析を行うとTrunicの文字が出現します。

16.
そしてこの音楽では、各Trunic文字に対応するアルペジオが鳴っています。このアルペジオはスペクトル表示上でTrunic文字と同じ長さをしており、一対一対応で同じ意味を持っています。これこそが『TUNIC』の音暗号の解読用ロゼッタストーンというわけです。

17.
プレイヤーに「Tuneic」と呼ばれこともあるこの音暗号は、構造的にはTrunicと同じものです。Trunicでは線の有無が音素に対応していますが、Tuneicでは2オクターブ分のペンタトニックスケールのアルペジオにおける音の有無が音素に対応しています。

18.
Trunicでは文字の内側が子音、外側が母音でした。Tuneicでは1オクターブ目が子音、2オクターブが母音となっています。

19.
音楽理論の領域に踏み込みつつあるので、補足の説明をしておきます。

20.
音楽において「和音」は高さの異なる複数の音が同時に鳴っていることを指します。アルペジオというのは、この和音を切り分けて一音ずつ、下からもしくは上から順番に鳴らすことを言います。

21.
Tuneicでは音楽理論で使われるようなアルファベットの音名ではなく、各音に数字を対応させて作りました。

22.
またTuneicでは通常のスケールではなくペンタトニック・スケールを使用します。ペンタトニック・スケールにおける数字の対応はこのようになります。

23.
繰り返しになりますが、下のオクターブが子音、上のオクターブが母音を定義します。

24.
Tuneicにおいてひとつのアルペジオが1音素となります。Trunicと同じように、このアルペジオは子音、母音、もしくは母音と子音のペアに対応します。例えば、"No"という単語は"n"に対応する[1-2-6]と"o"に対応する[9-12-13]を組み合わせて[1-2-6-9-12-13]というアルペジオになります。

25.
上昇アルペジオは子音→母音の順番での発音となります。下降アルペジオの場合は逆順になります。上の例だと、[13-12-9-6-2-1]は"own"となるわけです。Trunicにおける文字の下の◯に対応していますね。

26.
ペンタトニック・スケールのルート音は好きに選べますから、Tuneicも任意のキーで記述することが可能です。もちろん途中で転調しても大丈夫で、キーが移動しても同じ構造が残っている限り解読は可能です。

27.
子音の記述には必ず最初に基底となる[1]が付与されています。Tuneicにおいては[1]に対する相対的な音程が重要となるので、この[1]がなければ切れ目が分かりづらくなったりと、解読が困難になってしまいます。単一母音の場合もこの[1]は使われます。

28.
同じ形のアルペジオの下降形と上昇形が連続する場合もあります。この時は分かりやすくするために間に[1]を挟んでいますね。

29.
Tuneicは音名ではなく数字で表記するので、音楽の調に関わらず記述することが可能です。

30.
メジャー、マイナー、ディミニッシュ、ミクソリディアン……どれでも大丈夫です。[5]のフラットはそのまま[5]として扱うことが出来ます。

31.
Tuneicはゲームを通してさまざまなところで見つけることができます。効果音などにも使われています。例えばニューゲームを始めた時とか……

32.
スピードランでゲームを終えた時とか……

33.
敵の効果音にも使われています。たとえばこの妖精mobとか……

34.
この魔法使いmobのキャスト音とか……

35.
オベリスクの中からは助けを求める声が聞こえます。

36.
隠された秘密を見つけた時とか……

37.
探索魔術の音とか……

38.
そしてもちろん、山の扉を開いた時の音です。

39.
@lifeformed@alsojaniceの見事な仕事のおかげで、作中のBGMにもTuneicは使われています。ちょっとした隠された歌詞みたいな感じですね。たとえば図書館では……

40.
継承者を倒した時とか……

41.
スタッフロールにもあります。

42.
ここまで読んだ皆さんは、「でもなんでわざわざこんな誰も気付かないようなことを?」と疑問に思う方もいるかもしれません。

43.
もちろん最初に言ったような「最初から秘密が提示されている」デザインを目指したというのもありますが、それ以外にもこのゲームの開発チームで共有されていたひとつのコンセプトがあります。それが「誰のためでもないコンテンツ」(CONTENT FOR NO ONE)です。

44.
これは、我々がゲームの奥深くにひっそりと隠した小ネタ(大きいときもあります、Tuneicみたいに)について語る時によく使われていたフレーズです。こういった秘密は、単に我々がやりたいからというだけの理由で作ったものであり、そこに存在するだけで満足なのです。誰かが見つけてくれるでしょうか?もしかしたら誰も気付かないかもしれませんが、別にそれでいいのです。

45.
ちなみに今更ですが……「Tuneic」をそのまま発音したらほぼ「TUNIC」ですよね。そうです、実はこのゲームが「TUNIC」と呼ばれている大きな理由はこの音暗号だったりします。

46.
ここまで読んでくれてありがとう!(ちなみにこの画像は、@zoeseesによる、Tuneicを産み出している自分のイラストです)


以上翻訳となります。ものすごく面白いですね。個人的にはやはり山の扉の効果音がお気に入りです。プレイしててもかなり印象に残る瞬間だと思います。あとはどういう形でぶつ切りにしても良い感じに使いやすいペンタトニック・スケールの優秀さみたいなのも感じます。

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