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政令指定都市のジレンマ

政令指定都市には、ほぼ“市区における総合行政の推進に関する規則”といった規程があって、そこには区役所の役割の基本原則が記されている。
“さいたま市の市区における総合行政の推進に関する規則”を見てみよう。

◆第3条 区における総合行政の推進は、区役所が次に掲げる役割を担うことを基本原則として行うものとする。
(1) 市民生活に密着したサービスを完結的に提供できる拠点であること。
(2) 市民参加による地域の個性を生かしたまちづくりの拠点であること。
(3) 住民ニーズの施策への反映の拠点であること。
(4) 情報の受信及び発信の拠点であること。

この内(4)は少しく時代遅れの感もあるが、(1)から(3)までは、今でもたいへん重要な区役所の役割であると思う。
そして、これらの役割を全うするために、第1条と第4条第1項において、区役所並びに局(各局、消防局、出納室、水道局、教育委員会事務局、選挙管理委員会事務局、人事委員会事務局、監査事務局及び農業委員会事務局)及び事業所等(東京事務所、市税事務所、男女共同参画推進センター、消費生活総合センター、美術館、博物館、霊園事務所、食肉衛生検査所、こころの健康センター、動物愛護ふれあいセンター、障害者更生相談センター、障害者総合支援センター、健康科学研究センター、子ども家庭総合センター(児童相談所)、総合療育センター、清掃事務所、環境センター、農業者トレーニングセンター、グリーンセンター、食肉中央卸売市場、まちづくり事務所、都市計画事務所、建設事務所、市立病院、高等看護学院、霊園事務所、消防署、教育研究所、生涯学習総合センター、公民館、図書館、給食センター、博物館、小中高等学校、特別支援学校等)の相互の連絡調整を円滑にするとともに、区長が必要な総合調整を行う責任(努力義務)が区長に与えられている。

そして、その結果区長の責務・権限が全うされるべく与えられた手法が、下記のとおりとなる。

◆第4条第2項 区長は、あらゆる機会を通して、区民の要望、意見、提案等を積極的に把握し、区の行政に反映させるよう努めるとともに、局長及び事業所等の長に把握した情報を提供するよう努めなければならない。
第3項 区長は、区政に関し区を単位に設置されている会議、協議会等を区における総合行政の推進に資するよう運営しなければならない。
◆第5条 区長は、局長に対し、区における地域的な課題に対応するため必要と認め施策を実施し、及び予算化をするよう要請することができる。
第2項 区長は、事業所等の長に対し、市民の利便の向上を図るため必要と認める措置を講じるよう要請することができる。

このように、区役所の役割と区長の責務・権限を改めて眺めてみると、公選の区長ではないとはいえ、政令指定都市の区長のやるべき仕事の重みを感じざるを得ない。
政令指定都市は大都市な分けで、各区(地域)には市役所の各局は目配りが十分にはできないであろうとの前提と、地域のことは、つまり地域を所管する各施設の総合調整でさえ市ではなくて、区が担わなければいけないとの仕組みとなっているのである。
だからこそ、区長には相当な資質が要求され、また、その職務を全うするための予算要求に関する権限が必要であり、このような区長の権限・責務を十分に生かすための"機能"が動くことが必要となる。
大阪市ではこのような"機能"が動く仕組みとして、他の政令指定都市には無い“区長を市のシティマネージャーに据えた区長の権限と責任による総合的な予算編成”を導入していることは注目に値する。
政令指定都市の最大の特色は区制度にあって、その区制度はこのような責務と権限を基本として、ひいては“住民自治”を実現するためにある分けだ。
市域が広がり全体の財政規模が大きくなったとしても、このような区の役割、区長の責務、権限を蔑ろにしては、その政令指定都市は片肺と言われても仕方がない。
このような役割を"機能"として発揮できず、ただの出張所たる窓口業務だけを行っているような区役所は、都内の特別区に設けられている総合支所(まちづくりセンター)と変わりない。
いや、世田谷区が目指すように、区役所(本庁)から総合支所(まちづくりセンター)に重心を移すような動きも見られることを考えると、いったい政令指定都市の存在意義は今どこにあるんだと叫びたくなる。
政令指定都市はもう少し危機感を覚えた方がいい。
政令指定都市の本旨は、財源分配のスタンダードたるところにある分けでもないだろう。
なぜ政令指定都市の区制度は充実しないのか。
それは政令指定都市の区は法人格を持たず、あくまで市長の付属機関たる区長がガバナンスを担っているという部分も大きいだろう。
区の役割たる住民ニーズの把握と施策への反映、サービスの完結的な提供、個性を生かしたまちづくりが充実してしまうと、公選制たる市長の影が薄くなる。
市長よりも区長(の実績)の方が市民にとって大切な顔になる。
もちろん市長には区域を跨る大きな市域で実現すべき大きな課題や、大都市として日本、世界に貢献すべき大きな役割もあるのだろうが、そのような部分は地域で暮らす市民には見えにくい。
であるから、付属機関たる区長は市長の顔をたてないと自分の首が危ないということにもなる。
この辺が、区政がなかなか充実しない理由であり、また、これが政令指定都市の持つジレンマでもあるのだろうと思う。
やはり政令指定都市制度は、大都市制度としては少し無理がある。

※世田谷区地域行政推進計画から抜粋
世田谷区地域行政推進条例において、まちづくりセンターを「区民生活を包括的に支援する地区の行政拠点」として位置づけ、多様な相談や手続きに対応する窓口を担うとともに、地区における災害への対応力の向上や福祉のまちづくりの取組みを推進する中心となり、地区における総合的な調整を行います。

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