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オンライン会議システムを活用した介護保険施設等への運営指導の在り方

(報告)
令和5年度厚生労働省老健事業「オンライン会議システムを活用した介護保険施設等への運営指導の在り方に関する調査研究」事業報告会 令和6年3月19日

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上記報告会に参加したので、その要旨を取りまとめる。

調査内容としては、介護保険施設等への運営指導の在り方について、オンライン会議システムを活用した事例を全国10自治体及び5事業所に聞き取り調査をしたもの。

自治体や事業者の発表においては、特段仮説の設定が鋭くなされなかったという事情もあることから、各々の感想の域を超えるような認識、意見は発表されなかった。
それらの発表内容については、具体的にオンラインを活用した場合の実務上の苦労や気づきについて述べられたもの。

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厚生労働省介護保険指導室からの話においては、オンラインの利点や課題が明確に述べられるとともに、それらを踏まえて、目標(スタンダード)と目標に達するまでの検討事項が控えめながら明確に述べられた。

この厚生労働省の話を踏まえて思うのは、運営指導については、何もオンライン会議システム(zoom等)に、使うツールを絞らなくても、もう少し柔軟に具体的な他のツールの提案が欲しかったということ。

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運営指導方法として自治体として望ましいと考えている方法としては、事業所への訪問・対面での運営指導743件、ウエブ会議システムによる運営指導63件、訪問・対面とウエブ会議システムの両者を活用したハイブリッド手法273件となっている。

このように、自治体の方々への聞き取り調査においては、対面が望ましいと考える方が圧倒的に多いが、何事も人というものは“現状追認”で考えるし、各々においてオンラインの利点や課題の検討がされない時点で単純に"何が望ましいか"と、このような聞き方をされれば、このような答えになるだろうという認識。

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運営指導に係るオンラインの利点と課題については、自治体の利点として移動時間と隙間時間の活用ができる、感染症対策・延期対策、事業所との関係づくりや重要事項の確実な伝達ができるとされ、課題としては、文書確認の難しさ、設備関係の確認ができない、利用者の様子が分からないが挙げられた。
利点に挙がっている事業所との関係づくりは何を指すのかは不明。重要事項の確実な伝達も何を指すのか不明。

事業者の考える利点としては、対応時間や待機時間の削減や感染症対策・延期対策、安心感が挙がっている。
課題としては、文書の提出方法、文書のカメラ越しでの共有の難点、オンラインに慣れている職員が限定的・・・が挙がる。

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集団指導方法に係るオンラインの利点と課題については、自治体の利点として、時間や人手・費用の削減、他自治体との共同の可能性が挙げられ、課題としては、事業者同士の交流機会を失する、オンライン会議システムを活用するための環境が整っていないが挙がっている。

事業者の考える利点としては、視聴人数を増やせる(繰り返しの視聴が可能となるなど事業所内の伝達が容易)、時間や移動費用の節約となるが挙がる。
課題としては、PCに慣れていない職員がいる。他の事業所との交流機会が無くなるが挙がっている。

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ふじみ野市からの報告では、居宅介護支援等、確認項目が少なく複雑ではなく無理なくオンラインでできるものについては実施しているとのこと。
オンライン活用の利点としては、往復1時間かかっていた移動時間の削減、訪問する人数の制約が無いことが挙げられ、課題としては、画面上では文書の確認が難しく、事業所内の様子、入居者の顔色等の確認が難しいことが挙げられた。

今後の方向性としては、居宅介護支援事業についてはオンラインによるものとし、施設・通所系の事業所については訪問するとしている。

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医療生協さいたま生活協同組合からの報告では、利点としては、手間の削減、落ち着いて対応できることが挙げられ、課題としては、精度が低い(慣れれば精度は上がるだろう)、資料の画面共有に手間取るが挙げられたが、実際の施設状況を眼で見てもらっても良いかなという感想が述べられ、また、実際に自治体に提出した資料は事前に紙ベースで届けている旨が述べられた。

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静岡県からは、動画配信による集団指導について報告があった。
静岡県が行っている内容は、パワーポイント資料への音声録音、ホームページへの資料掲載、YouTubeでの動画配信。
動画配信の効果については、職員の事務負担軽減(会場確保、会議運営、資料運搬他)、予算削減(会場使用料、設営委託費、印刷代等)、参加率の向上(視聴時間の確保(事業者の都合の良いタイミングで受講が可能))、交通費や移動時間の削減、感染症予防が挙げられる。
課題としては、パワーポイント資料への録音は口の動きが見えず、聞き取りにくい。会場だと目に見えて確実に時間を取ってもらえる、集中力や緊張感が動画では欠如しがち、視聴できる環境が整っていない場合がある等が挙げられた。

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自治体からの報告内容について、会場に参加する自治体から質問があったが、現状としてリアルでやっている確認項目の全てがオンラインで可能となっているかを確認する質問に終始する。

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最後に厚生労働省介護保険指導室から留意すべき点について話がある。
運営指導の目的は保険給付の適正化と介護サービスの質の確保。
運営指導には、制度の理解不足や不正を招かないための未然防止機能がある。
そのためには事業者への支援とその育成が大切であり、そのためには情報を事業者にしっかりと自治体から届けること。
運営指導は集団指導と組み合わせることで効果を期待すること。
運営指導では、集団指導で投げかけた情報の理解度を図るイメージ。
重要なのは、自らルールを守るための取組を推進する事業者像への転換を後押しすること。
そのためには自己点検の励行が大事であること。
基準適合性のチェックだけでは支援や育成には繋がらない。
オンライン活用の方向性としては、以前より下記のとおりとしてきた。
・介護サービスの質(施設・設備、サービスの提供状況)の確認については、オンライン等の活用による指導は行わない。
・最低基準、運営体制、報酬請求等に係る指導は実地ではなくても確認はできるので、オンライン等の活用は可能。
・オンライン等を活用した運営指導については、全ての文書を確認することは効率化や負担軽減の観点から実務上困難となるので、事業者の自己点検結果の信頼性や正確性の向上を図り、指導において確認する事項や文書を絞ることも考えられる。
オンラインの活用については、適切な事業運営が行われているのか確認ができないとの意見もあるが、極限すれば、考えるべきは、業者における実施指導の無いことへの不安を解消しつつ、実施指導を行わなくても概ね適正・適切に事業が行われる方策である。
また、オンラインの活用によって文書量、情報量の全てをどうやって確認するのかという疑問も呈されるが、それはそもそも確認文書の全てを確認しない運営指導はありうるのか。つまり、確認項目や文書を絞り込みつつ事業運営の適正性をどこまで確保できるのか(するのか)というテーゼである。
実施もオンラインも、双方とも対面によるコミュニケーションである。
その上で対面の場合は、相手を観察し、その思いを感じ取りながら合意形成を図る可能性がある対話がより期待できるのではないかということ。
いずれの方法においても、“対話”をコミュニケーションの中で行っていくことが押さえるべき点なのではないか。

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