福祉行政の現状と地域に期待するもの

大分古いメモ≪講演原稿≫

テーマ:○○○○市の福祉行政の現状と地域に期待するもの

(地域福祉と○○○○市の地域福祉計画、そして地区社会福祉協議会の役割)

■■次第■■

1 福祉基礎構造改革から福祉改革へ

(1) 基礎構造改革の流れ

(2) 福祉改革

2 地域福祉の推進

(1) 地域福祉の必要性

(2) 地域福祉の担い手

(3) 地域福祉計画、地域福祉行動計画

○○○○市福祉総務課の○○でございます。本日はどうぞよろしくお願いいたします。

○○○○市では、今現在、さいたま市保健福祉総合計画という計画を、審議会に諮問しまして、策定を進めてい

るところでございます。そして、この計画は地域福祉計画を包含したものとなるように考えております。

また、この計画を最上位計画としまして、その下位計画として、5つの計画も同時に策定途中にあります。

(お手元の資料、1ページを御覧いただけますでしょうか。)

資料の中ほどを御覧いただきますと、さいたま市の計画の構成が図化されており

ます。そして、その回りには、左には国や県、右には市、そして下には社会福祉協議会の関連計画が示されてお

ります。

市の保健福祉計画ですが、保健福祉総合計画を最上位に、その下に高齢者保健福祉計画、障害者計画、児童育

成計画、母子保健計画、ヘルスプラン21の5つの計画がありまして、これらは現在全て平行して策定されております。これらの計画が、本年度末に完成すれば、政令市としてのさいたま市の福祉行政の在り様が、やっと目に見えてくるということになります。

さて、本日は、これらの、まだ各策定協議会で審議途中にある計画の内容について云々ということではなく、地域福祉行動計画の策定を目指していらっしゃいます皆様と御一緒させていただけるということですので、皆様既に御案内の内容とは思いますが、福祉基礎構造改革、地域福祉計画、そして地域の役割等について、その基本的な部分を御一緒に再確認をさせていただく場とさせていただければ幸いと存じます。

1 基礎構造改革から地域福祉へ(資料表紙を参照)

(1) 基礎構造改革の流れ

それでは、まず、大きな改革の流れの大元である、いわゆる基礎構造改革についてお話をさせてください。

小泉内閣の基礎構造改革と言いますと、小泉首相や竹中経済財政政策担当大臣がテレビカメラの前で、頬を紅

潮させながら、その意義を説いていたことを思い浮かべます。「聖域無き構造改革!」なんて意気込んでいたわけですが、この流れは、実は橋本内閣(1996年誕生)時代の、大きくは6つの改革からなる橋本行革にさかのぼるわけです。(ほんとうは、もっと遡れば、とても国際的な動きが元で、ソビエトが崩壊する前、共産主義国と民主主義国が対立していた1980年代、いわゆる冷戦時代ですが、アメリカのレーガンやイギリスのサッチャー(サッチーではない)が、共産主義国に優位に立とうとするため、市場の競争をより進めることで、世

の中のサービス生産の効率化を上げようとしたわけです。元はと問えば、国際的なそんな流れが、遅れて日本に

も来たんだということなんだと思いますが、)

さて、橋本首相は、行政(内閣や官邸)機能の強化や透明な行政の実現、簡素で効率的な行政の実現を掲げると

同時に、財政赤字解消と時代遅れになった日本型システムの見直しを行って、ポスト工業社会の確立を目指した

わけです。

この日本型システムの見直しは、行政改革を含めて6つの分野がありまして、それは、行政改革の他では、経済

構造改革、財政構造改革、金融システム改革、教育改革、そして(福祉を含めた)社会保障改革と、この6つであります。

この流れを引き継ぎ、日本の新しい社会構造を構築しようとしているのが、小泉首相のいわゆる「聖域なき構造改革」なんです。

この「聖域なき構造改革」において、政府は2001年の6月21日に、「経済・財政運営の基本方針」(いわゆる骨太の基本方針)を閣議決定しました。

(資料の2ページを御覧下さい。)

資料はほんの触りの部分ですが、この骨太の方針は、今後2~3年を日本経済の集中調整期間と位置付けて、

各分野で構造改革を推進し、民間主導による日本経済の再生を目指していこうとしたわけです。

この骨太の基本方針の中で、7つの改革プログラムを推進すると表明がされています。資料の下の方に掲げてあ

ります。

改革の視点と言うか、その手段と言いましょうか。その一番最初に謳いますのが、民営化、規制緩和、そして非営利分野(医療・介護)への競争原理導入なのです。

ざっと、基礎構造改革の流れを説明するとこんな感じになります。

これをもう少し違う言い方で、簡単に言いますと、すなわち、国(市も同じですが)だけで公共サービスを担う体制は現状に則しなくなってきた。また、行政は、財政的に困窮の状況に陥っているので、これから先、行政だけが公共サービスの大部分を担う体制を将来に渡って維持していくことが難しくなってきたということです。ですから、これからは、都市における多様な構成員が、それぞれの役割を担いながら、皆で協働(共に働いて)して、時代に則した公共サービスを担っていきましょう、ということになると思います。

このへんは、札幌市さんあたりは、都市経営の目標としてしっかり掲げて、市民の理解を得ています。

(資料の3ページを御覧下さい。)

札幌市さんは、目標として「都市の構成員みんなが公共を担い合う協働型社会を実現する」と掲げて、協働型社

会の中で、行政は、自ら経営の合理化、効率化を進めながら、協働型社会に有益な人づくり、仕組づくりを行うのだと、はっきり宣言しているわけです。

資料の中ほどの図を見ていただけますでしょうか。

左が従来の形です。そして右が改革を経たこれからの形です。

これを見ますと、行政の役割が小さくなって、市民や企業と同じ大きさになっていますね。

このように行政は、自治体も含めて、これから先、自ら事業を単独で実施するというよりは、市民や民間企業、ボランティア、NPOの皆さんが主体的に活動する協働型社会において、プロデューサー機能を主として担うことになっていくと思われます。

徐々にでしょうが、こう変わっていくと思われます。

今お話した内容は、良く考えてみると、とても大きな改革だと思います。

これを単純に、誤解を恐れずにとても極端に言ってしまえば、例えば、市民の皆さんにとっては、これから先、何か地域の問題が発見された時、今までは、どうにかしろ!と行政を威喝すれば、問題が解決したということもあったのではないかと思いますが、これから先は、行政を含めた協働型社会において、自ら知恵を出しあって解決に導いていかなければいけないということですし、我々のような自治体の職員にとっても、協働社会を人材の育成等で下支えしながらも、皆様と一緒に問題を解決に導いていくプロデューサー能力が必要とされるわけです。

行政というと、何かと前例に囚われて事を進めれば良しとされてきたわけですが、このようなプロデューサー能力とは、前例の無いところから解決を導き出すものですので、ほんとうに従来の公務員にはきつい時代の流れであるなと思うわけです。

まあ、このような変化が基礎構造改革です。

(2) 福祉の構造改革

さて、それでは、次に福祉の構造改革とは何かということですが、これも、当然今説明しました「聖域なき構造改革」の流れを受けているわけです。先ほども言いましたとおり、構造改革の手段たる7つの改革プログラムにおいては、民営化、規制緩和、そして非営利分野(医療・介護)への競争原理の導入が特に強調されております。

これを受けて、厚生労働省は、こう言っています。

「これからは、国は行政や社会福祉法人以外に、生協、農協、NPO(ボランテイア団体)、会社等に経営主体を広げて、福祉サービスの量を確保しようということなんです」と、こう言っているわけです。そして、その下支えが行政の役割であるというわけです。そうしないと、財政が破綻してしまう。このままでは将来まで福祉サービスが続かなくなるということです。「持続可能で安心感のある福祉サービス体制の構築。これが福祉改革であるとするわけです。既に2000年から始まっている介護保険や来年度から始まる障害者福祉の支援制度が、その典型です。

この方向転換を「措置から契約」へと、サービス受給の原因からの視点で言うのですが、サービス供給方法の変

化から言えば、「行政から市場」へということになります。この市場とは何かと、一言で言えば、(いちば)です。サービスを欲しい人間と供給したい人間が、交渉して、適正な価格を決めて取引をするわけです。この市場が上手く働くとするならば、サービスを供給する側は、消費者(今度はまさに消費者ですが、)にサービスを買ってもらうために、なるべく安くて良い品質のサービスを作り上げるであろうということになります。これが、その競争原理です。

これがほんとうに上手く機能するならば、我々はとても安く質の良いサービスを受けることができるわけです。

だけれども、この市場の世界にも問題は沢山ありますよね。

一般に商品を(鍋とか冷蔵庫)を買うことを考えてみてください。

結構トラブルがあったりしませんか?

鍋の取っ手があっという間に取れてしまったとか、せっかく買ったんだけども、冷蔵庫が壁の隙間に入らないので返品したいんだけど、受付けてもらえない。良くあるのが、訪問販売で30万円もする百科事典を、脅されて買ってしまったとか、通っていたスポーツクラブがつぶれてしまったとか、実は市場(資本主義社会)というのは、結構問題が山積している世界でありまして、それをどう、消費者保護の観点から修正していけばよいのか、ということで、消費者相談センターが設けられたり、消費者保護法なんて法律があったりするわけです。

福祉においても同様で、今回の改革では、市場をある程度活用していきましょう。その替わり、適切なサービスの質を向上させて、福祉サービスを受ける市民が、安心してサービスを受けられるような仕組を作りましょうと。そしてその仕組づくりが行政の仕事であるとするわけです。

(これは、いわゆる英米型の福祉の形でありまして、スウェーデンあたり、北欧の福祉の形とは全く異なります。市場を使う英米型と税負担は高いが、福祉公経営の北欧型、どちらが一体良いのかは、不勉強で良く分かりません。)

ほんとうに単純に言ってしまえば、方向性としてはそういうことなんです。

もちろん今回の福祉改革の全てが市場に向いているわけでもないし、障害者の支援費制度についても措置(行

政が担う)部分は残るわけです。さて、それではその、市場において、皆さんが安心してサービスを受けられるようにする行政の仕事とは具体的には何かと言いますと、まず、施設やサービスについての情報の提供です。サービスの内容や、どんな人が何人でサービスを担っているのかとか、今までトラブルは無かったか、それから、今まで利用した人の評判はどうか等々、しっかりサービスの情報を開示して、より良いサービスを選択してもらえるようにすることです。

または、オンブズマンという人を置いて、苦情処理にあたらせる。苦情を調査し、場合によっては、サービス事業者にサービスの改善を勧告したりする。そんな制度を実現すること。そして、いわゆる権利擁護です。自由にサービスを選択できる社会になるということですので、一人では選択がなかなか容易で無い方をサポートしていく。例えば、それは、相談にのり、助言をし、手続きを支援していくというようなことです。

つまり、一言で福祉改革について言えば、市場を利用し、福祉サービスの量と質を確保するのに伴い、福祉サー

ビスの利用者と提供者の間に対等な関係を確立し、個人が尊厳をもって地域や家庭の中で、その人らしい自立し

た生活を送れるように社会全体で支えていくための改革・・それが今回の福祉改革なんです。

これからは、行政は、在りきたりで押し着せのサービスはいたしません。個々の人々は、自ら望むものを、自ら望む形で自由に選んでくださいということです。そして、その際、その人の能力に応じてサポートいたしましょうということです。

これが福祉改革の大きな部分、基本的な部分です。

これを社会福祉法の第3条は次のように定義します。

(資料の4ページを御覧下さい。)

一番上の第3条です。

第3条:福祉サービスは、個人の尊厳の保持を旨とし、その内容は、福祉サービ

スの利用者が心身ともに健やか

に育成され、又はその有する能力に応じ自立した日常生活を営むことができるよ

うに支援するものとして、良質か

つ適切なものでなければならない。

このように規定しています。

そして、今現在策定中のさいたま市の地域福祉計画を包含した、保健福祉総合計画についても、(資料の5ページを御覧下さい。)

これは、今現在の案ですが、4の基本目標のところにおいて、福祉改革の流れから、(1)市民主体の地域福祉・健康づくりを進めるための環境づくり、そして(3)サービス利用者の権利の保障が、市の役割分担として掲げられてくることになります。

2 地域福祉の推進

(1) 地域福祉の必要性

以上が、福祉改革、その中でも特に福祉サービスの提供に係る改革の要点なんですが、このいわゆる市場の活用と並んで掲げられているもう一つの重要な改革のポイントが地域福祉の推進です。

それではそれは何かと言えば、やはり時代についてこれなくなった制度を改革しましょうとするものです。

時代の変化に対応してなんて言うと、ちょっと前のバブル崩壊あたりからの流れかななんて思うのですが、実はそうでもないようです。

ここに1冊の本があります。もう大分古い本です。

社会福祉経営論序説(三浦文夫)

昭和51年1974年これからの社会福祉(低成長下におけるそのあり方)全国社会福祉協議会(社会福祉懇談

会報告)

(資料の7ページに抜粋があります。)

1980年発行ですから、もう22年も前の本です。(実は、これ、私の父が当時福祉の仕事に就いていた時に買った本なのですが)その中に、当時の福祉の諸問題を審議する、全国社会福祉協議会の社会福祉懇談会報告というのが載っているのです。

もしかすると、御案内の方もいらっしゃるかもしれませんが、今現在行われている福祉改革も国の中央社会福祉

審議会(今は社会保障審議会福祉部会)というところで、話しあわれ、福祉計画の指針が出されたわけですが、当時は、この社会福祉懇談会というところでいろいろと話しあわれていたようです。それで、当時というのは何時なのかというと、報告書の日付を見ると1976年4月となっているので、今から29年も前の報告書なんです。1973年に、アラブ石油輸出国機構(OAPEC)が石油の輸出量を制限して、石油ショックが起こったわけです。例のトイレットペーパーが店頭から一斉に消えたやつですね。

ですから、1976年の報告といいますと、その影響をもろに受けた上で、それを克服せんがための報告ということになっています。

それで、その29年前の報告書で、福祉改革について何て書いてあるか見てみますと、まず、現状の分析につい

ては、こう語っています。資料の福祉改革の必要性のところです。

経済・社会の変動と、国民生活と意識の変化に伴い、種々な生活問題が社会福祉の課題として増大していく傾

向にある。この課題は、経済的な『欠乏』とは異なって、またその性格も個人・家族・地域社会の態様と状況に応じて区々であり、そのあらわれ方も個別的で、かつ、多様なものとなっている。

このような社会福祉ニードの変化と同時に、家族の扶養機能の減退、社会連帯性の欠如などの条件が加わり、

社会的に解決を必要とする生活上のニードが拡がり、総体として社会福祉需要を増大させてきた。その意味で、

今日、社会福祉は新たな対応が求められている。

これを見ると、29年前の現状認識はほとんど、現代における現状認識と変わらないのですね。

もちろん、現代においては、この他に男女共生の考え方とか、サービスの隙間にいる人々への対応とか、また新

しい視点が言われているのですが、基本的な部分の認識は変わりません。(資料8ページ以降に今年度出た策定

指針を掲示)

一言で言えば、社会状況の変化に伴って、貨幣的、金銭的なサービスの意味が薄れて、現物ニードが増えてき

たということですね。

この現物ニードとは何かというと、施設や設備、そして「形」として実行されるサービスのことです。

話しが外れてしまいますが、皆さんは福祉を英語で言うと何と言うかは御承知のことと思います。中学英語程度

になると思いますが、welfareです。

welはwell,good(健やかに生きるの意)のことです。このgoodはこの場合十分なという意味だと思いますが、fareは何かと言うと、料金とか入場料という意味で良く使いますよね。今、新都心

に木下大サーカスが来ているようですが、その木戸銭のことですね。つまり、このwelfareという単語は金銭的な充足を目指すことを表しているようです。

アメリカでは、この辺の役割はキリスト教会やいろいろな慈善団体が主に担ってきました。ですから、アメリカでは、役所で福祉部とか福祉課の名前にwelfareを使うことはあまり無いそうです。何と言うかというと、human service と言います。humanは人間のとか、人間的なという意味なんで、その人間的なサービスを行うところ・・それが福祉部なり福祉課なんですね。

つまり、日本の福祉サービスも、金銭的サービスより人間的なサービスが中心になりつつあるよということが言いたいのでありまして、それでは、また、先ほどの報告書に戻ってみましょう。

地域福祉の必要性のところです。

非貨幣的なニードが増大することによって、現物(施設、設備、サービス等)の給付が増大するのは、上記したとおりであるが、その場合に、これらのニード充足に必要な施設、サービスは、そのニードの発生する場において提供されなければならない。

換言すると、その施設、サービスの提供は、ニードの存在する場と同一の地域において、提供されなければならないということである。したがって、社会福祉の直接の供給組織は、地域において考慮されなければならない。地域社会中心の社会福祉が、改めて認識される一般的な意義がここにある。

これが地域福祉なんです。この地域福祉が必要である社会状況や認識は、この資料を見る限り、少なくとも29

年前にあったということです。

その29年間もの間、今まで行政は何をやっていたのか・・・とも思うのです

が。

もう少し、例をあげて説明しますと、例えば日立の冷蔵庫です。あれはきっと、全国の皆さんが使う分を茨城県の日立市で相当な量をまとめて生産しているうではないかなと思います。それからピアノはたぶん浜松市(ヤマハ)で相当量作っているでしょう。車は豊田市で。郊外レストランの食事(ロイヤルホストやデニーズなんか)も、例えば那須あたりの工場で集中調理して、さいたま市の店に運んで来たりするわけです。

今は、流通(高速道路)がとても発達していますので、このように土地や人件費の安い地方(もしくは海外で)で集中的に製品等を作るというのが、合理的であるわけです。ところが、先ほどお話した非貨幣的な福祉サービスについて考えてみますと、なかなか、そううまくはいきません。

例えば、在宅の高齢の方を介護する場合を考えてもらえれば分かるのですが、集中的にサービスを生産するわけ

にはいきません。一人一人の人間が一人一人に直接相対するサービスなんです。

先ほども言いましたhuman serviceですね。このようなサービスは地域でまかなうのが確かに合理的なんだと思います。

つまり、このような相対するサービス方法でないと、いろいろと状況が違う高齢の方や障害をお持ちの方の、各々の希望に則したサービスを供給できないということなんです。

皆さんの必要とするサービスが多様なので、同じ物を大量生産するという手法が取れないわけです。

まあ、自分が介護状態になったことを思い描きましても、やはり自分の住み慣れた土地で、施設では無く、自宅で介護サービスを受けながら過ごしたいというのは、共通した願いなのではないでしょうか。それを満たしてくれるのが「地域福祉」なのではないかと思います。

地域福祉という言葉は、皆さんいろいろな思い入れがある言葉であるので、なかなか説明するのは難しいと思い

ますが、今説明したような理由で、地域における福祉が必要とされているということはご納得いただけるのではないかと思います。

(2) 地域福祉の担い手

さて、それでは、その地域福祉は誰がやるの、誰が担うのということになります。

地域福祉の担い手の話しです。

また、資料の4ページを御覧いただけますでしょうか。

上から2番目の社会福祉法の第4条を見てみます。

第4条

地域住民、社会福祉を目的とする事業を経営する者及び社会福祉に関する活動を行う者は、相互に協力し、福

祉サービスを必要とする地域住民が地域社会を構成する一員として日常生活を営み、社会、経済、文化その他あ

らゆる分野の活動に参加する機会が与えられるように、地域福祉の推進に努めなければならない。

どうってことない条文なんですけど、実はとても面白い条文なんですね。

まず、地域福祉の推進に努めるのは誰かと言うと、まず最初に地域住民、事業を経営する者、社会福祉に関す

る活動をする者です。ここに、行政は・・と書いていないですよね。

これは、たぶん先ほど言った福祉改革の流れで、行政は、やはり地域福祉の主役ではない。あくまで脇役か黒

子の役割を担っていくんだということなんでしょうか。その辺の行政の役割はまた、別にその下の第6条に定まっているわけです。

第6条の内容は、先ほど話した内容と同じです。

さて、第4条の方ですが、面白いのは、ここの最初にある地域住民という言葉です。

国は、この地域住民には福祉サービスを必要とする住民も含んでいると言っています。相互扶助というのでしょうか。地域の皆がお互いに包み込む。包み合いながら皆で地域福祉を推進していきましょうという意味が込められているのです。

地域の中で誰々はサービスを受ける人、誰々はサービスを与える人と区別するという考えではなくて、皆でしっかりと積極的に参加し、地域福祉を担っていく、これを地域福祉文化の形成と言っても良いと思いますが、ソーシャルインクルージョン(主に英国で言われている理念ですが、社会的に包み込む、包み合うとでも訳すのでしょうが)の概念が含まれていると言われるのがこの部分です。

理念と言ってしまっては、ほんとうはいけないのだろうと思います。

実際英国では、ソーシャルインクルージョン事業を推進するという言い方をしているようです。いろいろイギリスのホームページを見てみますと、この言葉の本来的な考えは、社会から排除された人間を自分達の地域から出さないということです。と言うと、いわゆる弱者の見守り活動かなんてお思いになるかもしれませんが、もっとはっきりと、弱者が地域コミュニティからはじき出される要因を、所得、雇用、教育、これらにおける不充分な要因が絡み合うことにあると宣言して、弱者が地域社会の一員として社会的な生活を営むことができるように、それらの条件をクリアしていく・・・そんな具体的なプログラムを地域で実行しているようなんです。

ソーシャルインクルージョンは社会の細かい部分(地域)において、課題を見定めて、一つづつ問題を解決していかなければいけないという自覚があるという意味では、まさに地域社会が実行する福祉活動で、それは日本の地区社会福祉協議会のあるべき姿の一つの例ではないかとも感じるところがあるのです。

えー、ここで言いたいのは、地域福祉活動というのは、おそらく、それは、福祉やボランタリズムについて、地域の皆さんを啓発する大会やイベントを開催しようとか、良い行いを表彰しようとか、そういうことでは無いように思います。

もっと具体的な実践活動ではないかと思うわけです。なんて言うと、皆さんにそんなことは分かっていると怒られてしまいそうですが、私としても、ここはきちんと押えておきたいと思うのです。

それでは、そのあるべき活動とは何なのかと言うと、自分達で、地域で必要なサービスを見極めて、自分達で事

業者やNPO、行政等と調整を図りながら、実際にシステムを組み立てて、実践していくということではないでしょうか。

各々の地区において、このような福祉サービスシステム構築の中心役・推進役として、○○○市では、地区の社会福祉協議会に期待がされているわけです。

現在策定中の市保健福祉総合計画の中においても、地区の社会福祉協議会の範囲をもって、健康福祉活動の基礎単位として定め、木目の細かい健康福祉推進の環境を整備すると、その方向で今現在調整が成されているわけです。

これからは、地域が自分の責任で地域の福祉を行うのだ・・・ということになりますと、各地域のやる気と能力において、地域間格差が出てくるということになると思うのです。しかし、他方から見れば、主体的に自分達の望む地域福祉(サービス)を自分達で創造していけるんだということなんです。

まだまだ私も、このような動きをなかなか実感できないんですが、

我々地域の市民が市内一律のサービスをただ受身で受けるのではなく、ほんとうに必要とするサービスを自分で

主体性を持って組み立てていくということ。それが地域や地域コミュニティの活性化を生み、生きる希望と幸福感を生むのでは・・という考え方なのです。それが地域文化であるということです。

そして、行政はそれを後ろからバックアップしていく。つまり、利用者を守る制度を作って運営すること。活動資金を工面すること。人材を育成すること等、そして地域だけでは合理的にできない専門的なサービスの構築をすることや地域におけるサービス供給基盤の整備をすること。(地区活動の拠点を整備すること)等々・・・を担っていこうとするわけです。

この辺は、保健福祉総合計画に記述されることになると思います。

これがこれからの地域福祉の考え方です。

結構たいへんな話だと思います。ほんとうに。やる気によって地域差がでると思います。

これは地方分権の流れでもあります。国から地方へ、地方から地域へという流れの分権なんです。分権は言いか

えれば地域主権、地域責任であると言われます。

それを生かすことができる地域と、なかなか生かせない地域が出てきてしまう可能性はあると思います。

そんなこと言ったって、それでは、どこから手を着けてよいのやら、そんなに急に言われたって、何もできないや、と当然お感じになると思います。(皆様はモデル地区ということで、既に自ら担うべき課題をしっかりとお掴みの方々と思いますが・・・・・)

(3) 地域福祉計画、地域福祉行動計画

それでは、とりあえず何をしましょうか。何をすれば良いのでしょうか。それで

は市域全体では地域福祉計画を、そして地域では地域福祉行動計画を作ることから始めましょうということなのです。

(もちろん、市協には活動計画有り・・・)

地域福祉計画とは何かと言いますと、まず、自分達の望むサービスを明確にして、その実現を目指して、市役所

や市の社会福祉協議会、民間事業者の役割と、地域(地区社会福祉協議会)の役割について明確化したり、細か

なサービス供給システムをどういった形にするのか等を調整することです。地域福祉計画の策定の過程で、その

調整が行われるということなんです。そして、その調整の成果が地域福祉計画ということになります。ですから、その調整過程である計画策定の過程がとても重要になります。地域の人々が思い描く福祉システムをどう実現していくのか、この場でじっくりと審議、調整される必要があるのです。

これ(地域福祉計画の策定)はとても時間がかかる作業のようで、茅野市では地域福祉計画を作るのに4年という長い時間をかけています。福祉サービスの現状を分析するだけで1年かかったそうです。

その策定の主役となり、地域の組織化、コミュニティの再生のまとめ役として期待されるのが(市や)地区の社会福祉協議会であるわけです。

冒頭言いましたように、今、◯◯市は、保健福祉総合計画に内包される形で地域福祉計画の策定を進めて

いるわけですが、国の指針によりますと、実は、この地域福祉計画の対象範囲は市域全体とされています。しかし、地域福祉計画に係る調整を行うには、○○○市はとても大きすぎると思うのです。

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